使徒ミナキルとかつてのMG1
とある転生者、曰く。
この世には神が居る。だが、彼らは万能ではない。
ごもっともである。
だからこそ、後世に伝わる神話には目を覆いたくなるほどの醜聞もとい黒歴史が載せられているのである。
いきなりどうしたって?
まあ、あれだ。
この物語はフィクションです。実在の神物、団体、珍事件とは一切関係がありませんというわけだ。
と言う訳で、とある神話の神であり語り手でもある俺から見たバカバカしい四方山話の始まり始まり。
◇
神の要請により、高位次元から低位次元へと一人の少女が地上へと遣わされた。
年のころは十代半ばだろうか、何処にでもありそうなセーラー服を身に纏う彼女。
スラっとした体躯に、セーラー服の内側から存在を主張する大きな双丘。
まるで絹の様に綺麗なプラチナブロンドに、幼さが残りながらも美しい顔立ちの少女。
誰が見ても美少女だと、そう思わせてしまう少女は閉じていた目蓋を開き、その碧眼の眼を露わにする。
彼女の名前はミナキル。
転生者であり、神の使徒。
かつて平凡だった女子小学生は不運な事故により命を落とし、偶然にも神の目に留まり新たな命を与えられ異世界の公爵令嬢として生まれ変わった。
神より与えられたるは潤沢な魔力とあらゆる病や傷を治す癒しの才能。
家族に恵まれ、師に恵まれ、友に恵まれ、彼女はやがて聖女として信仰され。
そして彼女の生まれ変わった世界に、強大な魔王が生まれ落ちた。
絶望が世界を支配する。世界の誰もがそう思った。
ただ一人、聖女だけを除いて。
聖女は、胸に抱く愛を以って魔王の狂乱を沈めた。
改心した魔王は、聖女と共に世界から消えていく。
彼女は自らの命と引き換えに、魔王の暴威を愛で以て鎮めた伝説の聖女として末永く語られていく。
と言うのが、彼女を理想の聖女として祀り上げた教会が作り上げたストーリー。
実際の真実を知る物は皆、微妙な表情を浮かべ口を揃えてこう言う。
「基本的には良い子だと思うよ、うん」
そんな評価であるが、彼女が積み上げた功績は神々に認められ、聖女と呼ばれた彼女は神々の住む世界の使徒として召し抱えられた。
使徒ミナキルと新たな名を授けられ、彼女は神々の御心のままに、自らの信念の赴くままに今日も使命に生きていく。
なお、ミナキルの名前の由来は皆Kill。
物騒な由来であるが、実在する聖女も似たり寄ったりな活躍をしてるので気にしないのが吉である。
かつてのフランスで人害をもたらした悪竜タラスクをボコした後に引きずり回し、ボロボロに弱った悪竜を民衆の前に突き出して彼らに投石を指示して悪竜に引導を渡し退治の仕上げをした聖女マルタとか、ただの村娘のはずなのに神のお告げを聞いてから全身フルアーマーで戦場を何度も戦い抜いたジャンヌとか。
もう聖女じゃなくて凄女だろ。
それに比べたらミナキルなんて……どっこいどっこいだったわ。
当初の彼女の第二の人生はあらゆる怪我や病を治せる聖女として、チヤホヤされながら魔法学園で恋に青春にと乙女ゲームライクに人生エンジョイしてもらって、最後は恋人になる勇者と一緒に魔王を倒してめでたしめでたしで終わるはずだったのに。
なんか彼女自身が運命を自ら切り開いて行ったみたいで、自身が見た未来とかけ離れていく様に、隻眼の自殺願望野郎は信じられないって表情をしてたな。
まあ、それは俺も同意だわな。
何で魔法学園に入学しないで筋肉ムキムキの破戒僧と共に山籠りで己をストイックに鍛え上げているんですか?
何で世情の不安定から起きてしまった戦争に、志を同じとする同士と呼べる友と共に正体を隠して介入して、両軍すべて叩き潰してるんですか?
何で世界中の人々の負の感情を喰らい顕現した魔王の座す城に、喜々として単騎駆けするんですか?
「ヒーラーなのに、なんで毎回最前線で拳を振るって居るんだ?」
かつて彼女が伝説になる前。人を装い彼女の前に訪れて問い掛けた俺の言葉に、彼女は気負うことなく答えてくれた。
「ん、私が前に出る事で誰かが傷付くのを防げるなら、私は迷わす前に出る。前世も今世も、きっと来世も変わらない。性分だから、仕方ないじゃん」
そう苦笑交じりに笑って、彼女は魔王城へ一陣の風の如く消えていった。
殴りヒーラーとして、自分の為ではなく不条理を受ける誰かのために力を振るう事を当たり前のように行える彼女は尊い。
だからこそ、誰が何と言おうと俺はミナキルを聖女だと認める。
という訳なので、彼女が使徒になる際の名前候補に皆Killと入れた司法神はシメた。
俺の推しに変な名前付けんじゃねえよ……俺の推しだから付けたって?
よーし、もう一回シメる。
◇
神々の世界から地球に遣わされたミナキルの露わになる瞳に映り込むは、カーテンにより締め切られた部屋の中。
暗い室内にはベッドの上で毛布を被り縮こまる推定女子高生と、その対面で何かを言いかけては言葉が出ずにいる小学生低学年男子。
それと二人の間で右往左往しているトーガを身に纏った髭面のオッサンだった。
………何してんだゼウスのおっさん。
………いやホントに使徒を呼ぶまでして何してんだおっさん?




