第8話「ルべリオン」
きっかり一か月というw
神装都市ルべリオン
私は今、知り合ったばかりの勇者さんと共に、馬車に揺られていた。
あの後気が抜けたのか、まーた気絶したらしい。
間抜けすぎて笑いそうになったよ、一ミリも表情筋は仕事をしなかったが。
私が気絶してる間に、勇者さんは馬車を手配していた。まあ目が覚めた頃には馬車に揺られていたが。
で、今も絶賛馬車に乗っているというわけだ。だが暇なので外の景色を観察している最中だ。前世ぶりの広い景色は、地球で見たことない物ばかりだったが、それでいて幻想的な景色だった。そういえばさっき、何やら後ろから視線を感じたので、チラッと視線を向けたのだが、勇者さんが物凄―く私と話したそうな顔をしていた。が、今のところそんな気分ではないので華麗に放置している。
何故そんな気分じゃないのかって?
当たり前だろう、転生してからの15年間ずっと家族として暮らしていた人が、いっぺんに殺されたのだから。
私は実のところ、どこか他人事に思いながら過ごしていた。
だって、君は転生をすぐに信じられるようなことができるかい?私には完全にはできなかった。
だが、この激しい感情が目覚めさせてくれた。ここは夢でもなんでもない、異世界だ。
(ってこんな真面目な私はつまらないな、もっとシンプルに簡潔に・・・よし!)
私の家族を殺した野郎は絶対に地獄に笑顔で叩き落してやる♪
私はそう決意すると、外の景色を観察することに集中するのだった。
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《アル・ヴィルパート》
私は今、苦悩していた。
何故かって?
それは、先日助けた美少女が全く話を聞こうとしないからだ。いや、直接的に言われたわけではないのだが、なんかこう、話しかけないで下さいオーラが凄いのだ。
目覚めてから一度も口を聞かず、食事の時も一言も喋らずに、今も若干横目で外を眺めている超絶美少女を観察する。
少し幼げだがかなり整っている顔と、ハーフツインで結ばれているサラサラの金髪、少し黄緑に近い緑の瞳、身長は160くらいだろうか?服は何というか、くノ一風の服装だ。そして頭には狐の仮面をつけている。
(うーん美少女。抱きしめて撫でまわしたい。おっといけない、ついつい欲望が)
私が少し邪な考えをしていると、私の視線に気づいたのか。金髪美少女が私に視線を向ける。
(これはやっと話そうという気に!?)
と思ったが、すぐに外に向けられる視線に私の予想は見事に砕け散った。がくっりと項垂れて見るが、外に夢中になっているのか、全く気付く様子はない。
(というかさらっと流したけどあの狐の仮面って、どう見ても抗天の仮面だよねー、まさか修繕されてるとは。神楽坂の仕業かな?あいつそういうの得意だったからなー。まあどうでもいいか。なくてもそこまで困るわけでもないし。というかマジ美少女、めっちゃ可愛い。やはり無理やり行くべきか・・・)
との結論に至りそうになったが、わざわざ馬車で移動している理由を思い出し、何とかギリギリで踏みとどまる。
(って、わざわざ馬車まで手配してのんびり移動して、考える時間を作ろうとしたの私じゃん。やっぱり私より他の勇者の方が・・・いやダメだ私が一番自由に動ける中でまともだった・・・。)
私はその後もいろいろな思考を巡らせた・・・主に邪なこと・・・が結局目的地に着くか、相手の方から話しかけるまで黙っていようという結論に至ったのだった・・・。
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《カンナ視点》
私は、外の景色に飽きてきていた。いやだってずっと同じような風景なんだもん、いくら幻想的でも4日も見続ければ流石に飽きる。
(いい加減話しかけてみるか?でも気まずしなあ・・・)
そう、私は絶賛コミュ障を発動していた!!
話しかけれそうだったタイミングを逃してしまい、どういった風に話しかけたらいいのか
わからなくなっていたのだ!!
いや普通に喋りかければいいんだけどさ、なんか物凄く話しかけてみたいな顔をしているですよ勇者さん、つまり何が言いたいのかというと・・・このまま話しかけないでいたらどんな反応するのかが見たいという極めて悪質な感情によって今現在も黙り込んでいる。
(うん、ドSかな?いや私は悪くない。そんな顔面偏差値が限界突破してる顔で物欲しそうな顔をするのが悪いんだっ・・・!)
と物凄く自己中心的な言い訳を炸裂させてみたが、そろそろ暇度も限界に近い。
(うーん物凄くこの先も見たいが、流石にそろそろ話しかけるかあ・・・うう、まだその顔が見てえ・・・)
私が諦めて話しかけようとした時、視界の端に映っていた外の地面が影に覆われる。
反射的に窓から身を乗り出し、上を見上げるとそこには
優に20mは超えてそうな飛龍がブレスを溜めているような状態にしか見えない体勢をとって、こちらをガン見している光景だった。
(デッッッッッッッッカ!?は?こんなのいるなんて聞いてねえ、ってそもそも話聞こうともしてなかったの私じゃんッ!取り敢えずそれは置いておいて、今は・・・!)
私は、意識がカチッ、と戦闘へ移行する感覚を感じた。
(だいぶ離れてるが、間に合うか?・・・いや、間に合わせるッ!!)
反射的に使用した【思考加速】によって引き延ばされた時間で即座に判断し、スキルを発動しようとした、が
「座ってなよ、巻き込まれちゃうから」
という言葉によって一瞬だが、引き留められた。
たかが一瞬、だがその一瞬が私の命運を分けた。
次の瞬間、明らかにヤバイ威力を持ってそうな極太ビームが上空から飛来し、冗談みたいな速度で直撃し、飛龍を消し飛ばした。
見事に飛龍は悲鳴をあげる間もなく消し飛んでしまった。
(あれは当たったら死ぬやつですやん、というか余裕で飛龍の大きさ超してなかったあのビーム?怖すぎだろ・・・)
というか地面にも直撃してたはずなのになんで無傷なんですか?説明プリーズ!!
と戦々恐々(?)としていると、一つの疑問が浮かぶ
(あれ、そういえばどっから撃たれたんだ?上には何もなかった気が・・・)
その疑問が頭の中でドンッと拡大表示されると同時に、勇者さんが話しかけてくる。
「やっと着いたみたいだねー。紹介するよ、こちら我らが第10席作の、【壱番機・ルべリオン】だ。今日からここでしばらく過ごしてもらうことになると思うから、よろしくねー」
その言葉が終わると同時に、私は極太ビームが発射されたであろう上空を見上げていた。
空の景色が、捻じ曲がった。
次の瞬間、姿を表したのはバカみたいなデカさの、明らかに未来の技術感の凄い浮遊物だった。
(って、え?もしかして光学迷彩?ここって異世界じゃなくて未来だったりする?ってそれはないか。というかこれ本当に都市?)
いやまず間違いなく都市なのだろう、勇者が嘘をつく意味は私の低い知能の中では見つからない。よってこれは都市のハズだ。
(でも都市というより、要塞では?明らかにごついんだけど・・・ )
でもまあ当然か、あんなクソデカい飛龍が飛んでるわけだしな。うんうん、仕方ない仕方ない。
と、明らかにオーバーパワー&オーバーテクノロジーなビームから全力で目を逸らしつつ、勇者さん話しかける。
「あの、ありがとうございました。止めてもらわなきゃ危うく死ぬところでした。」
「ん?あ、いいよ別に。人が死にそうなのに止めないのは勇者失格だよ、こんな所で死んでもらっても困るしね・・・あとまだこの超絶美少女を眺めていたいし。」
「最後の方何か言いました?」
「い、いや、何も言ってないよ」
「・・?そうですか」
「うん、そうなんですよ、そんなことよりも早く行きましょ!紹介したい人がいるんですよ」
「はい!」
(何故か少しはぐらされた気がしなくもないが、まあ取り敢えず行こう!)
そして私は、さっきまで勇者さんと全く話していなかったことを華麗に忘却しながら、勇者さんに手をひかれたのだった。
「イズ、起きろーーーー!!今何時だと思ってんだ!もう昼だぞ!さっさと起きろお
―!」
「んーあと10分―・・・」
「いいから早く起きろーー!!!」
「んーじゃああと5・・・スゥー」
「あーもう、寝るんじゃなーーい!!」
「はぁー、めんどくせー・・・」
私の眼前には、布団から出てこようとしない女性が、勇者さんに起きろと急かされてる様子と、それを諦めた&呆れた目で傍観する黒髪の青年が映っていた。
(えっと、どうすればいいのこれ?)
助けてポリスメーン!!!
主人公はSだった