8話
「今日から新しく入ることになった水本恵です、よろしくお願いしま〜す」
ファミレスにて、新しいアルバイトの紹介が行われていた。
「二宮、彼女はお前と同じ高校の1年生だそうだ。後輩の面倒見てやってくれ、頼むぞ」
店長に言われ、彼女がこっちを向いた。
揺れる黒髪が綺麗で、思わず見とれてしまいそうになる。
俺はつい目を逸らしてしまった。これはもう陰キャである以上仕方がないことなのだろう。
「に、二宮です……よろしく」
「二宮先輩……ってもしかして〜、菊間先輩と仲がいいっていうあの二宮先輩ですか〜?」
「多分そうなんだけど……えっと」
俺がそんなに有名人だったなんて全く知らなかった。全然嬉しくないけど。
「じゃあ折角だし先輩〜、菊間先輩のこと紹介してくださいよ〜」
じゃあって……
でもまあ、回りくどく言われるより幾分か気持ちが楽だ。
「水本さんは、俊介のこと好きなの?」
「あ、水本で大丈夫ですよ〜、それとも恵って呼びますか?」
「……水本は、俊介のこと好きなの?」
「好きです」
「お、おう。そうか」
「めちゃくちゃカッコイイじゃないですか〜。それにああいうイケメンが私の彼氏に相応しいかな〜って思うんですよね」
なんだそれ……
だが俊介と水本が並んで歩く所を想像すると、なぜかしっくり来る気がした。
こんな事を思ったのは初めてで、自分でも驚いている。
「はぁ。明日、教室来たら多分俊介いるから」
「ありがとうございます〜。頼りにしてます、先輩」
耳元で囁かれて、思わず顔が熱くなるのを感じた。
「バカ、その前にここの仕事、みっちり教えてやるからな」
◇
「二宮先輩」
翌朝、再び耳元で囁かれた声の主は、昨日と同じく水本だった。
「だからそれやめろ……」
水本は気にする様子も無く、隣の席に座った。
知らない先輩の席に悠々と座れるその陽キャ度や如何に。
「菊間先輩、まだ来てないんですか〜?」
話が違いますけど? みたいな意味に感じられた。
「ごめん、あいつバスケ部の大会近いから朝練あるみたい」
「へ〜。そうだ、その大会応援に行きましょうよ。菊間先輩も、健気に応援してくれるあの子、可愛い〜ってなるんじゃないですかね」
俊介がそんな事で喜ぶとは思えないが、水本は多分俺の意見なんか求めてないんだろう。
「てか俺も行くのかよ……」
「当たり前じゃないですか〜。あ、あと、連絡取れるようにしたいんで、メアド教えてください」
「ああ」
俊介と家族以外の連絡先が入っていない俺のスマホに、女子のメールアドレスが入るとは。
感慨深いな、なんて思いつつ鞄からスマホを取り出す。
ほとんど使ってこなかったので、買い換えたことは無く、かなり昔の機種のままだ。
「おはよー二宮」
丁度水本にスマホを渡そうとした時、後ろから馴染みのある声が聞こえた。
枚方と糸田だ。
「って……誰?」
普段は基本1人でいる俺が、知らない女子と喋っていたので枚方は少し驚いているようだった。
「えーっと、彼女さんですか〜?」
「思ってもないこと言うのはやめろ、ただのクラスメイトだよ」
そう否定すると、枚方はどこか不満そうな顔を浮かべていた。
「二宮先輩と同じバイトの、水本恵です〜」
と軽く自己紹介をする水本。
「へー、二宮バイトしてたんだ、よろしくね。あと私もメアド交換させてよ」
俺が手に持っていたスマホを見て糸田が言う。
「あ、私も私も」
枚方も慌てて食いついてきた。
「へぇ〜」
すると水本は何かに気づいたみたいで、ニヤニヤと笑みを浮かべる。
何かよからぬ事を考えていそうだ。
「二宮先輩、この春って人が彼女さんですか〜?」
「それは妹だ」
俺の手からスマホを抜き取って連絡先を見る水本。
特に見られて困るものも無いので、パスワードはかけていなかった。
「じゃあ、私が家族以外で初めての女子ってことですか〜」
「まあ、そうだな」
「ちょっ、貸して水本さん」
枚方が水本から俺のスマホを奪い取る。人の物を勝手に奪い合いしないで欲しいんですけど……。
「へぇ〜、先輩は二宮先輩の初めてが欲しいんですか〜? あと、恵でいいですよ」
「変な言い方するなよ……たかがメアドだろ」
「まあ、譲ってあげますよ、先輩」
「あ、ありがと」
だからそれ俺のスマホなんですけど……譲るとか無いでしょ……。
そんな感じで俺のスマホに3人のメールアドレスが登録された。




