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8話


「今日から新しく入ることになった水本恵(みずもとめぐみ)です、よろしくお願いしま〜す」


 ファミレスにて、新しいアルバイトの紹介が行われていた。

 

「二宮、彼女はお前と同じ高校の1年生だそうだ。後輩の面倒見てやってくれ、頼むぞ」


 店長に言われ、彼女がこっちを向いた。

 揺れる黒髪が綺麗で、思わず見とれてしまいそうになる。


 俺はつい目を逸らしてしまった。これはもう陰キャである以上仕方がないことなのだろう。




「に、二宮です……よろしく」

「二宮先輩……ってもしかして〜、菊間先輩と仲がいいっていうあの二宮先輩ですか〜?」

「多分そうなんだけど……えっと」


 俺がそんなに有名人だったなんて全く知らなかった。全然嬉しくないけど。


「じゃあ折角だし先輩〜、菊間先輩のこと紹介してくださいよ〜」


 じゃあって……

 でもまあ、回りくどく言われるより幾分(いくぶん)か気持ちが楽だ。


「水本さんは、俊介のこと好きなの?」

「あ、水本で大丈夫ですよ〜、それとも恵って呼びますか?」


「……水本は、俊介のこと好きなの?」

「好きです」

「お、おう。そうか」

「めちゃくちゃカッコイイじゃないですか〜。それにああいうイケメンが私の彼氏に相応しいかな〜って思うんですよね」


 なんだそれ……


 だが俊介と水本が並んで歩く所を想像すると、なぜかしっくり来る気がした。

 こんな事を思ったのは初めてで、自分でも驚いている。


「はぁ。明日、教室来たら多分俊介いるから」

「ありがとうございます〜。頼りにしてます、先輩」


 耳元で囁かれて、思わず顔が熱くなるのを感じた。


「バカ、その前にここの仕事、みっちり教えてやるからな」


 





「二宮先輩」


 翌朝、再び耳元で囁かれた声の主は、昨日と同じく水本だった。


「だからそれやめろ……」


 水本は気にする様子も無く、隣の席に座った。

 知らない先輩の席に悠々と座れるその陽キャ度や如何に。


「菊間先輩、まだ来てないんですか〜?」


 話が違いますけど? みたいな意味に感じられた。


「ごめん、あいつバスケ部の大会近いから朝練あるみたい」

「へ〜。そうだ、その大会応援に行きましょうよ。菊間先輩も、健気に応援してくれるあの子、可愛い〜ってなるんじゃないですかね」


 俊介がそんな事で喜ぶとは思えないが、水本は多分俺の意見なんか求めてないんだろう。


「てか俺も行くのかよ……」

「当たり前じゃないですか〜。あ、あと、連絡取れるようにしたいんで、メアド教えてください」

「ああ」


 俊介と家族以外の連絡先が入っていない俺のスマホに、女子のメールアドレスが入るとは。

 感慨深いな、なんて思いつつ鞄からスマホを取り出す。


 ほとんど使ってこなかったので、買い換えたことは無く、かなり昔の機種のままだ。


「おはよー二宮」


 丁度水本にスマホを渡そうとした時、後ろから馴染みのある声が聞こえた。


 枚方(ひらかた)と糸田だ。


「って……誰?」


 普段は基本1人でいる俺が、知らない女子と喋っていたので枚方は少し驚いているようだった。


「えーっと、彼女さんですか〜?」

「思ってもないこと言うのはやめろ、ただのクラスメイトだよ」


 そう否定すると、枚方はどこか不満そうな顔を浮かべていた。

 

「二宮先輩と同じバイトの、水本恵です〜」


 と軽く自己紹介をする水本。


「へー、二宮バイトしてたんだ、よろしくね。あと私もメアド交換させてよ」


 俺が手に持っていたスマホを見て糸田が言う。


「あ、私も私も」

 

 枚方も慌てて食いついてきた。


「へぇ〜」


 すると水本は何かに気づいたみたいで、ニヤニヤと笑みを浮かべる。

 何かよからぬ事を考えていそうだ。


「二宮先輩、この春って人が彼女さんですか〜?」

「それは妹だ」


 俺の手からスマホを抜き取って連絡先を見る水本。

 特に見られて困るものも無いので、パスワードはかけていなかった。


「じゃあ、私が家族以外で初めての女子ってことですか〜」

「まあ、そうだな」

「ちょっ、貸して水本さん」


 枚方が水本から俺のスマホを奪い取る。人の物を勝手に奪い合いしないで欲しいんですけど……。


「へぇ〜、先輩は二宮先輩の初めてが欲しいんですか〜? あと、恵でいいですよ」

「変な言い方するなよ……たかがメアドだろ」

「まあ、譲ってあげますよ、先輩」

「あ、ありがと」


 だからそれ俺のスマホなんですけど……譲るとか無いでしょ……。

 

 そんな感じで俺のスマホに3人のメールアドレスが登録された。


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