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凛
twitter300字ss様、2016年3月(第十九回)のお題『別れ』で書かせて頂いたものです。
ジャンル:オリジナル
スペース・改行・ルビを除く299字
※挿絵があります。
「妖精が冬を追い払ったら、春になるんだよ」
おじいちゃん家の書斎で、僕は凛に童話の1ページを指さした。
花のドレスに身を包んだ少女が杖を振っている。
杖からは光が溢れ、影のような黒フードが逃げ惑う。
この黒フードが冬なのだろう。冷たくて暗くて嫌な感じだ。
「まだかな、春の妖精」
カタカタと鳴る窓を見上げる。
木枯らしが中に入れろ、と窓を叩いているようだ。
「春、好き?」
「と言うか、冬は嫌い」
凛は、ふぅん、とだけ呟いた。
「凛? 誰だそりゃ」
おじいちゃんはそう言って目を瞬かせた。
おじさんもおばさんも知らないと言う。
薄桃色の花びらが舞い込む書斎で、僕はあの本を開いた。
逃げていく黒いフードの下に、見覚えのある顔がいた。




