20/92
希望
twitter300字ss様、2016年2月(第十八回)のお題『光』で書かせて頂いたものです。
ジャンル:オリジナル
スペース・改行・ルビを除く300字
その店は眩い光に溢れていた。
僕がその店に足を踏み入れたのは、電灯におびき寄せられる蛾と似たようなものだったのだろう。
丸い硝子玉の中で灯るのは蝋燭だろうか。
なんの気なしに僕はそのひとつを覗き込んだ。
金色の炎だ、と思ったのも束の間、それは顔を上げた。
人の形をしたそれは、儚げな笑みを浮かべて僕に手を伸ばす。
「この子に気に入られてしまったね」
職人といった風情の店主が笑いながらその硝子玉を取り上げた。
僕は首を振った。
僕には必要ない。だって――。
「連れて行っておやり。“希望”を」
そんなものがまだ残っているのだろうか。
半ば押しつけられるように持たされた硝子玉の中で、その子が微笑む。
先程より少し明るい笑みで。




