押し入り
長年にわたって時間と空間に関する研究を続けているF博士だったが、実はその発明は失敗ばかりで、論文や研究成果も鳴かず飛ばずであった。
「やいお前ら。命が惜しければ金を出せ」
なので、このように突如として2人組の強盗に押し入られ銃で脅されても「無い袖は振れない」としか答えようが無かった。
「私はこう見えても研究者なのでな。建物は大きいが、中には発明品や道具しかないのだ」
「ほほう、なら発明品を寄越せ。俺達が高く売り飛ばしてやる」
博士も命が惜しいので、素直に強盗たちを発明品倉庫へと案内をした。
中には世界移動装置やエルフ転送装置などが並べられていたが、その素晴らしさを説明しても、どれも強盗たちはお気に召さない様であった。
「まったく、どれも発明品とは名ばかりのガラクタじゃあないか……おや、この大きなガラスの筒は何だ?」
「それは、中に入るだけでたちどころに悪い所や怪我を直す装置だ」
「そりゃあ良い値で売れそうだ。ちょうど前の仕事で肩を痛めていることだし、試運転ついでに俺を治療してもらおう」
博士から動かしかたの説明を聞いた強盗Pが、いそいそと中に入って装置を起動させた。機械の作動音が辺りに響き、強盗Pの入ったガラス管の中が液体で満たされる。
やがてすっかり元気になって出て来た強盗Pは、おもむろにもう1人の強盗Cに飛びかかった。
「ええい何をする、俺を裏切るのか!」
「うるさい黙れ、人を脅して物を奪うなどという悪事、断じて許せぬ!」
まさか仲間に襲われるとは思っていなかったのだろう。強盗Cはあっという間に取り押えられ、警報装置の知らせで駆け付けた警官によって御用となった。
取り押えた方の強盗Pも「私は今まで何という悪事を働いたのだ。この罪はすぐにでも償わねば」と言ってそのまま自首をしてしまい、事態は一件落着となった。
「うーむ。やはりこの装置は失敗作だなあ。怪我だけでなく、性悪な性格まで直してしまう」