帝国興亡記
長年にわたって時間と空間に関する研究を続けていたF博士だったが、ある日ふと妙な事を思いついた。
「古い伝承にはエルフの事が書かれているというのに、なぜ現在はエルフを見かけないのか。これはもしかしたら増えすぎた人類のせいなのかも知れぬ。ならば人口を減らせばエルフが現れるのではないか」
そう考えてしまったF博士は、さっそく人類の数を減らす計画を実行した。
今の人類が増えているのは天敵が居ない為だ。ならば天敵を作れば良いと、たまたま目についた牛達に進化促進装置を使い、次々に知性ある牛へと進化させた。
さらに牛達が暮らせる拠点として太平洋の真ん中を地殻変動装置で隆起させ、人工の新大陸を作り上げたのだった。
頭の良くなった牛達は「もう搾乳されるだけの人生なんて真っ平だ!」「この牛殺しめ!」などと口々に叫び、ある者は人類への反逆を開始し、ある者は食肉の運命から逃れようと博士の手引きで新大陸へと渡った。
人類から離反した牛達は、新大陸にモー帝国という名の国を作り、『牛の、牛による、牛の為の国』というスローガンを掲げ、全世界に「牛にも牛権を!」「食べられるだけの牛生は嫌だ!」と訴えかけた。
また、世界各地の牛達の救助にも乗り出した為、世界の畜産業は大打撃を受けた。
当然酪農組合から抗議が起きたのだが、ここまで大事になった上に知性を持つ生き物が相手とあっては、さすがの国連も動物愛護団体もお手上げで、もう牛の権利を認めるしかなかった。
こうしてモー帝国は正式に国と認められ、新大陸も牛達の領土となった。
ついに人類から牛権と独立と領土を得た牛達であったが、その天下はあっという間に終わってしまった。
独立記念日と称して国を挙げてのお祭り騒ぎの最中に、何の前触れもなく新大陸が沈んでしまったのだ。
大陸の崩壊があまりに早すぎた上に、全員が浮かれて深酒をしていた事も重なり、牛達は脱出する事も敵わず全滅してしまった。
こうしてモー帝国は滅びた。
「やはり立地条件が悪かったかなあ」
「いやいや博士、国名の縁起の悪さもあったと思いますよ!」