勇者召喚
長年にわたって時間と空間に関する研究を続けていたF博士とB助手だったが、異世界に召喚されるのは初めての経験だった。
ある日、いつものように研究室で研究をしていたのが、一瞬にして石造りの部屋へと移動したのだ。これにはさすがの2人も驚いた。
「はるばる異世界からようこそ、勇者様。どうか私たちの願いを聞き届けて下さいますよう……」
目の前に立った豪華な衣装を着て王女を名乗る少女が説明する所によると、この世界では魔王とその手下達が大アバレをしているせいで人類は全滅寸前になっており、王族の生き残りである王女が最後の望みを掛けて伝説の勇者召喚の儀式を行ったのだという。
「なるほど、だいたい分かった。つまり我々が勇者になって魔王を倒せば、報酬でエルフ娘を貰えるのだな」
「さすが博士、物わかりが良いですね! 僕の報酬には巨乳サキュバスをよろしくお願いします!」
「え、えーと……?」
残念ながら、この世界にはエルフやドワーフといった亜人種は居ないらしい。
すっかりテンションの下がった二人は、元の世界に戻る為、依頼された魔王退治を終わらせることにした。
戦いは実にあっけなく終わった。
どうもこちらの世界は、元の世界の10分の1程度しか重力が無いらしく、建物も武器もまるで発泡スチロールのような強度しかなかったのだ。その上、F博士とB助手は低重力のおかげでどんな城壁や山脈もひとっ跳びで越えられるぐらい身軽になってしまった。
これで勝てない筈がない。
こうして世界に平和が訪れた。
人々が涙を流して感謝をし、報酬に金銀財宝を渡そうとするのをF博士は断り、代わりに召喚術や魔法に関する書物を譲り受け、さっさと元の世界へと帰ってしまった。
「なんという無欲さであろうか。まったく勇者の名にふさわしい人達であった」
民衆も王女も、口々にF博士とB助手を褒め称えた。
一方、元の世界へ戻ったF博士とB助手も大満足であった。
「まさかたったあれだけの働きで、貴重な異世界移動理論を譲って貰えるとは! これで念願のエルフ娘にまた一歩近づいたぞ!」
「おめでとうございます博士! 今日も頑張ってエルフと巨乳サキュバスを探しましょうね!」