妖怪
長年にわたって時間と空間に関する研究をしていたF博士は、とある漫画の本で読んだ現象に注目した。
「妖怪というものは、多くの人々がよく判らない物の姿形や性質を想像する事で実体を得るらしい。という事は、人々がエルフを認識すればエルフが現れるのではないだろうか?」
「しかし博士、それで出るのはエルフではなくエルフっぽい妖怪じゃないですか?」
B助手の主張も一理あるが、F博士は首を振った。
「それは違うぞ。どのような生まれでもエルフはエルフ。エルフに貴賤は無いのだ」
そうして二人は、綿密な妖怪エルフ誕生計画を立てて実行した。
といっても手段は簡単。街のあちこちで「夜中に道を歩いていたら、耳の長い美人と遭遇した」という噂を流すだけだ。
二人の頑張りもあり、一月ほどで街には耳長人間の噂が囁かれ出した。二月もたつと実際に目撃したという証言が数多く出始めた。「働き者で真面目」「とても親切」と噂に尾ひれが付いていたが、この程度は許容範囲だろう。
計画の成功に喜んだ二人は、早速目撃例の多い地点に張り込んでエルフを待ち構えたのだが――
「うーむ、間違ってはいない……が、何処かで噂の内容がねじ曲がってしまったようだな。伝言ゲームの難しさを忘れておった」
「やっぱり一回聞いただけで皆が同じような姿形を想像できる巨乳サキュバスの方が良かったんじゃないでしょうかね、博士!」
街角でポケットティッシュ配りのバイトに精を出す、長く立派なウサギの耳を生やした初老の紳士を見て、F博士は深くため息をついた。




