人形
長年にわたって時間と空間の研究を続けていたF博士は、研究に必要な広い建物を持っていた為、友人たちから預かりものをお願いされることが多かった。
なので、古い知人から一体の日本人形を預かる事になってもさして気にせず、普段通り研究室の隅の机の上に置いた。
「なんでも、朝起きると置いてあったのと違う場所にある、などという事が頻繁に起こる人形らしい」
「ひとりでに動く日本人形だなんて珍しいですね!」
そして、徹夜をしていたF博士が、ようやく作業がひと段落つき、ソファで仮眠をしていた時の事。
B助手が隣室から戻ってくると、部屋の隅に置いてあったはずの日本人形が、机の上にあったはずのハサミを構えて床に立っていた。
はてと首を傾げ、いったん扉を閉めてまた開くと、床の日本人形が少しだけ、寝ているF博士に近付いていた。
B助手が面白がって何度か扉を開け閉めすると、その度に日本人形はF博士に近付いていた。
最初は面白がっていたB助手だったが、ハサミを構えて博士へ迫る日本人形に段々と不安を覚え始めた。
そこでふとある事を思いついた。
「で、Bよ。もっと良い考えは浮かばなかったのかね?」
「すみません博士。何せ、手頃な大きさの物がそれしかなかったもので」
どことなくやり遂げた表情にも見える日本人形を持ち上げ、人形が握りしめていた肉球スタンプを取り上げると、顔の至る所に肉球マークを付けたF博士は、憮然とした表情でため息をついた。




