信仰心
長年にわたって時間と空間に関する研究を続けていたF博士だったが、研究の合間に息抜きを兼ね、たびたびB助手を伴って山歩きもしていた。
その日も二人で裏山の散策に出たところ、目的地の池に着いて一息入れようとした時に、博士がうっかり杖を池に落としてしまった。
これだけなら運の悪い話で終わるのだが、2人の目の前に、何とも古風な洋装に身を包んだ神秘的な女性が、金色の杖と銀色の杖を持って池の上に浮かびあがってきたのだ。
「研究所の裏山で第3種接近遭遇を経験するとは思いませんでしたね博士! 巨乳サキュバスでないのが残念ですけど!」
「おちつきたまえB。彼女は円盤に乗っている訳では無いから、接近遭遇という表現は当てはまらぬぞ。どちらかというと、どこかで聞いた昔話の様な……」
戸惑う2人に向かって、女性が口を開いた。
「私はこの湖に住む女神です。いまあなたが落としたのは、この金の杖ですか? それとも銀のつ――」
「私が落としたのはもちろんスレンダーで見目麗しいエルフ娘に決まっているじゃないか!」
「いいや、博士が落としたのは巨乳サキュバスでした! 僕はこの眼ではっきりと見ましたよ!」
2人の浅ましさに呆れたのか、女神は言い分を最後まで聞かずにさっさと消えてしまった。
「むう、我々はもしかしたら、素晴らしいチャンスを逃してしまったかも知れん」
「いいえ博士。我々は確かに金の杖と銀の杖は逃しましたが、代わりにこの湖には美しい女神が住んでいる事を知りましたよ!」
「確かにそうだ! あの女神もエルフ娘に勝るとも劣らぬ美女であったな!」
それからという物、2人は湖のほとりに祠を建て、女神にお供え物をするのが習慣になった。




