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第五章 高橋

河川敷で来年、桜の花をつけるであろう木を見た後、

俺は学校に戻っていた。

行くところなんてない。

家に居てもどうせ同じような光景が広がっている。

止まっているのは死んでいるということ。

家族が死んでるところなんて見たくない、と。

素直にそう思うんだ。

俺は学校に向かう途中で、小さな公園に出くわした。

さっきは色々考え事をしていたため気がつかなかったんだろう。

ああそうだ。たしかここでは、みんなで花火をしたんだっけか。

それはもう、つい最近のことになるけど。


         *



夏の夜は少し涼しい。

空には幾つかの星が見える。

俺は辺りを見回した。

何がどこにあるか、確認出来る程度の、丁度良い暗さになっていた。

「じゃあ花火買ってくるなー!」

そう言って、沖田と北島と櫻井はコンビニへと向かった。

残ったのはいまだにゲームをし続けている高橋と、ただ単に

コンビニに行くのが面倒だった俺だった。

あいつら帰ってくるまで何するかな。

俺は俺の中にある疑問を押し潰して、違うことを考える。

すると突然、高橋は話しかけてきた。

「お前、いわゆる人間不信だろ」

時間が止まったような気がした。

ああ、俺はコイツが嫌いだな、と。今しがた気がついた。

ゲームをしたままの高橋に、俺は言葉を投げ返した。

「よく見てるんだな」

「まあ大体分かるよ。沖田や北島や櫻井は馬鹿正直だからわかんねえんだろうな」

ああ、そうかもな。

そう心の中で返事をする。

「お前、俺らのこと全く仲間とも思ってないし、信じてもいないだろ?

滲み出てんだよな、そうゆうオーラが」

「…で、それでなんかお前に迷惑かけたかよ?」

俺は少し睨みを効かせたが、全く効かなかった。

まあ当然か。

すると高橋は、予想外な答えを返してきた。

「かけてねえよ。気になるだけ。俺も同じようなものだから」

「……は?」

「言っておくけど、嘘じゃねえぞ。俺も人と関わるのは嫌だ。怖いし、くるしい。

だからずっとゲームしている。高校に入っても、ずっとずっとゲームしてようって、

そう思ってたのにさ、沖田の奴が来て、出会い頭に相性良いから仲間になれって。

冗談じゃねえって思ったよ。なのに、なんなんだろうな。

あんなに嫌だと思ってたのに、なんで俺はまだここでゲームしてんだろうな…」

高橋は一気にまくしたて、最後のほうは声がしぼんでしまったようだ。

「不覚にも、今ちょっと楽しいって思ってる。なんでだろうなあ。

……お前も、そう思わねえか。楽しいって、仲間っていいなって、思わねえか…?」


どうして俺に答えを求めるんだよ。


「………思わない」



認めるわけにはいかなかった。

俺の中にあった疑問は高橋とびっくりするほど一致していたから、

なおさらだ。

これはもう意地だ。

くだらない意地だ。

笑うなら笑ってほしい。

とにかく俺は認めるわけにはいかない。

認めて、何かが変わるのが、怖いんだよ。



高橋は、


「まあ、お前はまだ時間かかるよな」と。妙に悟った顔をして、またゲームに戻ったのだった。




         *



あの後にやった花火は、どうしようもなく綺麗だったということを、

今でも覚えている。

俺は足を動かして、学校に向かう。

人間こうゆうとき、何か嫌なこと考えているとき、

とてつもなく嫌な汗をかく。

俺は高橋の言葉を思い出す。



『楽しいって、仲間っていいなって、思わねえか?』


なんだよ今更。


『不覚にも、今ちょっと楽しいって思ってる。なんでだろうなあ』


知らねえよ。


知るわけねえよ。

俺ちょっと今おかしいから。

1人取り残されて、頭おかしくなってるから、こんなこと思っちまうんだ。きっと。

大嫌い。こんな自分大嫌い。


ああ。





俺はその場でうずくまった。

今、俺はどこを歩いていたんだっけ?












「……楽しい………………」






震えていても、はっきりと自分の耳に伝わった、俺の本音。



楽しい。楽しかった。

仲間っていいなって、思ってた。

きっと、高校一年生の終わりごろには、もう既に…。









走った。



とにかく走った。




俺のすべきことはもう分かった。分かったから。




早く俺を学校に着かせてくれ。





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