第四章 櫻井
学校を出て、近所を散歩してみた。
いつもの通学路は、ひっそりとしていて、本当に皆動きが止まっている。
俺は首が痛くなるほど上を見上げ空を見ていた。
空の色はまだ変わらない。
気がつくと学校の近くにある河川敷まで来ていた。
河川敷のすぐ近くには、今はもう緑に染まった桜の木が堂々と立っていた。
そういえば、と。
はたと思い出した。
俺はここで初めて、櫻井と一対一で話したんだっけか。
*
俺は自分が負けたという事を確認した。
相手はパーで俺はグー。
ああ。負けたのか俺はと、再確認。
「じゃあ河川敷で待ってろよ」
そう言って沖田と高橋と北島はコンビニに向かった。
「へいへい」と櫻井は短く返事をした。
沖田が花見をしたいと言い出した。
高三にもなって名に言ってんだとか思いつつも皆賛成していた。もちろん俺も。
花を見るのは嫌いじゃないから。
学校の近くにある河川敷には大きな桜の木が一本、堂々と立っている。
ちょうど今が見ごろで、俺らの周りにも花見をしている人を何人か見かける。
俺と櫻井はじゃんけんで負けたため、場所取りとなった。
(あとの三人は菓子やらジュースやらを買ってくる係だ)
ここがいいだろうというところにレジャーシートを敷いてその四隅に手ごろな石を乗せる。
そして靴を脱いで俺と櫻井はごろりと寝転がった。
それなりに大きいレジャーシートなため俺と櫻井が寝転がってもまだ余裕がある。
ふと気付いた。
三年間、このグループで居たけれど、櫻井と2人きりになるのは初めてだった。
なので少し緊張気味だ。
すると、櫻井の方から俺に話しかけてきた。
「沖田ってさあ、アホだよな」
俺は少し間を置いてから、
「ああ、アホだな」と言った。
櫻井は少し笑う。
「相性占いだぜ?馬鹿だろ」
「…櫻井も、相性占いがいいからって、言われたのか?」
「ああ。出会い頭にな。俺とお前は相性が結構良いから仲間になれ!ってな」
「同じだよ、俺も」
そう言っているであろう沖田は、簡単に想像できた。
「俺思うんだよな。沖田は自分にとって相性良い奴集めたわけじゃん?
でも集められたメンバーは他の人と相性良いかはわかんねえじゃん?
現に俺、北島とあんまり相性よくねえし」
いや、結構いいほうだろう。とは、言わないでおいた。
「でもさ、そうゆうのもいいよなって、最近思い始めた。
占い最悪であっても、覆せばいいんだもんな。簡単すぎる答えだったよ」
はははと笑う櫻井。
「何が言いたいんだ?」
俺は静かに問いかけた。
「つまり、俺はお前と仲間になれて、よかったって。そうゆうことだよ」
そうやって笑った櫻井は、桜の匂いに誘われて、
やがて浅いであろう眠りについたのだった。
*
緑色の葉は緑のままで。
桜なんて咲いているわけがないのに、
桜の匂いがしたような気がした。