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第三章 沖田

不思議な感覚だ。

俺1人しか生きていないなんて、到底信じられそうにないけれど、

認めるしかない状況で、現に少し認めてる。

俺は瞼をつむり校庭のど真ん中に立った。

風なんて吹いてるわけないのに、何故か心地よかった。

ああ、これで桜が舞っていたなら、『あの日』そのものなのにな。

と、意味のないことを考える。

俺があいつ等と出逢った、『あの日』。



           *


「いいか?相性占いによるとな?俺とお前は最高に相性が良いらしいんだ」


出会い頭に変なことを言われた。

コイツ頭大丈夫か?

「だから何だよ?」

と俺は少し睨みを効かせる。ああめんどくさい。

しかしコイツは全く怯みもせず、ニヤリと笑った。

「だから、今日からお前は俺の仲間だ」と。

桜がひらひらと舞い落ちる中、俺は思った。


理屈通じねえ奴ほんとに居るんだ…、と。


「俺、そうゆうの嫌いだから。仲間欲しいなら他あたれ」

俺はそういい残してスタスタと自分の教室に入っていった。

撒いた、と思ったのに。

あろうことか、ソイツと俺は同じクラスだったのだ。

「おお、同じクラスか!やっぱこれって運命ってやつなんだな。

俺とお前は仲間になる運命ってやつなんだよ。うん」と、

そいつは1人で頷いていた。

冗談じゃない。

俺はもう仲間なんていらないのに。必要ないのに!

でもそんな気持ち、ソイツが悟ってくれるわけもなく、

俺は面倒になって放置をすること一週間。

グループ的なものの1人にされていた。

しかもまたそのグループの集め方が酷い。

ソイツ、沖田との相性占いでよかった奴を集めたグループだという。

それって沖田はよくても俺との相性が良いとは限らないではないか。

という思いもあった。

大体、俺はもう仲間なんて必要としていないんだ。

作りたくないんだ。

本気の本気でそう思っているんだ。


   

 

半年、過ぎても。その状況は一変せずにいた。

俺はもう半ば諦めていた。

グループから抜け出そうとしても結局沖田が試行錯誤して止めてくる。

俺1人抜けたって構わないだろと言ったら、

「お前は俺と一番相性がいいんだぞ!?」と言われる始末。

もういいよ。めんどいわ、色々と。

そうやって、俺は諦めた。

放課後の教室は俺と沖田以外誰も居ない。

残りの3人はコンビニに行っている。

橙色の光りが差し込んできて、

なんともいえない切なさが溢れてくる。

「なあ、加嶋」

椅子に深く座り込み、机にうつ伏せになった状態のまま沖田は俺に話しかけてきた。

その机の反対側に座っている俺は肘をついたまま、

「…なんだよ?」と返事をした。

「俺と仲間になるのが、そんなに嫌か?」

そう聞いてきた沖田の顔は、見えなかった。

「……なんだよ、突然」

一応、聞いてみることにした。

今聞かなければ、後悔するかもしれないと思ったからだ。

沖田は少しだけ顔を上げ、俺の目を見て話しだした。

「だってさ、なんか、あきらかじゃん」

「なにが?」

俺は知らないフリをする。

少しだけ暗くなった空には橙色の他にも蒼やら紫やらが入り混じっていたのに気付く。

「ていうか、最初からおまえ言ってたじゃん。そうゆうの嫌いって。はっきりさ」

「言ったな」

「正直に言ってくれないか?ぶっちゃけ、俺と仲間になるのは嫌か?」

言ってもいいのだろうか。

何故今更この時期なのだろうか。

それら全部振り切って、俺は正直に告げた。

「嫌だな」

「…そうか」

沖田の顔は、いずれ未来でも見ることがあるであろう、なんともいえない顔。

なんでそんな顔すんだよ。

調子狂うじゃねえか。

俺は言われっぱなしはしょうにあわないので、こっちからも聞いてみることにした。

「なあ、聞いていいか?」

なんだ?と、無理矢理笑って返事をする沖田。

笑えてねえぞ。

「おまえさ、仲間を選ぶ基準、なんであんななの?」

相性占いとか、馬鹿だろ。そう俺は付け加えて、乾いた笑みを零した。

きっと沖田はムキになって、ケンカ腰で答えてくるんだろう。

そう思っていたのに、俺の予想とは裏腹に、沖田らしくない返事が返ってきた。

「……だーってさー…やじゃん。そんな仲良くない奴と、つるんでさー…。

でも、自分じゃ仲良い奴なんてどれか分かんねえし。

だからもう占いに頼ってみたっていうか。相性占いで最高な奴とだったら、

そうゆうの気にせず笑い合えるかもとか、思ってさー…」

「女子か」

橙色の光りを浴びて、金髪は更に光りを帯びる。

「しょうがねえじゃん。俺だって強くないよ」

沖田はまた目を伏せた。

ああ、


「俺もだよ…」


自分でも、やってしまったと思った。

つい口に出てしまったのだ。

恐る恐る沖田の顔を見ると、沖田は顔を上げこちらを

見つめていた。

そしてそのまま、俺に言葉を投げてきた。

「強くねえのに、なんで仲間必要としないんだよ?」

学校生活において、仲間は必要不可欠だろ。と、沖田は言う。

馬鹿だなと思う。

実際言った。

「お前馬鹿だろ」

そう言ったら沖田は「はあ!?」と言って、がばっと起き上がった。

「俺のどこが馬鹿なんだよ?」

少し怒り気味のようだ。

でも俺も少し怒ってるから、お互い様だ。

「仲間居なくても、学校で生きていけるだろ」

俺はそう言い放った。

「おまえなー…俺が言ってるのは、精神的な生死を言ってるんだよ!

学校で仲間が居ない状況、お前に分かるのかよっ」

お前こそ分かるのかよ、と言いたくなったが、グッと堪え、

代わりの言葉を吐いた。

「仲間が居た方がくるしい」

これが俺の本音だ。

「は?意味わかんねえし」

だろうな。

お前に分かるはずない。

というより、簡単に分かってほしくない。

「もう意味わかんねえよ。何でそんな仲間否定すんだよ。お前に何があったんだよ…」

沖田は頭を抱え込むような姿勢で椅子に座っている。

「お前には関係ないだろ」

なんで知ろうとするんだよ。

なんで皆仲間必要とするんだよ。

いいじゃん1人で。楽しいじゃん1人。

そんなに1人が嫌なのかよ。馬鹿じゃねえの。

人は皆最後は1人で死んでいくんだよ。

馬鹿じゃねえの。

マジで、もう…。



「馬鹿じゃねえの…」



俺はそう言った後、沖田1人を残して、家に帰ったんだ。





            *



結局あの日の翌日、沖田はケロっとした顔でまた俺に話しかけてきた。

何もなかったかのように、あまりにも自然に、話しかけてきたから、

俺も普通に返事をして、今に至る。

結局、高校三年生にもなって、いまだにその話をひきずっている俺等が居る。

俺が何故仲間を拒むのか、俺はまだ誰にも話していない。

なんだそんなことかよって、笑い飛ばされるレベルの、くだらない理由だからだ。

それでも、そんなくだらない理由でもあっても俺にとっては凄く納得のいく理由であるわけで。

俺は他人に自分の理由を否定されるのが怖くて。

誰にも話せていなかった。




中学二年生の頃の話になる。

俺には『仲間』が居た。なんでも気軽に言い合える、最高の仲間が。

本気の本気でそう思っていて、一ミリも疑ってなんかいなかった。

今考えると、凄いアホだなと思う。

でも当時は全然気付かない。そこもまたアホだと思える。

俺はある日、聞いてしまった。

学校に忘れ物をして、教室に入ろうとドアを開けようとした時、

『仲間達』の声が聞こえた。

そのまま入ればよかったのに。

俺は入るタイミングを失って、聞いてしまったのだ。


「加嶋って、うざいよな」


「ああ、俺もそう思うな。だってアイツ、俺らのこと仲間仲間ってうるせぇもん」


「漫画の読みすぎだろー」


「あいつが俺らの仲間なわけねえのにな」


「ただ1人で居るのを見て、『可哀想』だと思ったから俺らのグループ入れてやっただけなのにな」


「アホだよな。加嶋って」






あっけない、と思った。

俺が頭の中で描いていた仲間達との映像は、

もろいだけで儚くなんてない。

ガラガラという音さえ立てないで、ひっそりと崩れていったのだった。



それ以来仲間を、他人を、信じることが出来なくなった。

単純だとは思うけど、本当に無理だ。



俺は目を開き、自分が校庭のど真ん中に居ることを再確認する。

あーあ。

この理由を沖田に言ったら、沖田はどんな顔をしてくれていたのかな。

答えはもう分かっている。

きっと沖田なら、櫻井なら、北島なら、高橋なら。



きっと、受け入れてくれていたんだろう。






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