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Ision  作者: 芝刈り機
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上澄高校

 

「ダンジョンはダンジョンコアを核とし作られている。ダンジョンコアは地中にある天然宝石に何らかの理由でイシオンが付着し変異、進化したものだ。ダンジョンコアは意志を持っており他の生物内にあるイシオン及び、セルアズを効率よく摂取するためと、自衛のためにダンジョンを作ると言われている。また、魔物達はダンジョンコアを求めて迷宮内を跋扈ばっこしている」

 現在迷宮学の授業中。迷宮の成り立ちや種類なんかを主に教える授業となっている。これにより、迷宮の造りを理解し知識を蓄え、迷宮に潜った際の安全度を増すための授業である。


 ここは国立上澄高校。生徒に勉強を教えるといった意味では普通の学校と同じなのだが、その内容はどこの学校よりもぶっ飛んでいる。その理由が十年前に起こった侵食革命が原因だったりする。

 細かな部分はうろ覚えだが、十年前の侵食革命の後に発見された細胞イシオン。これにより発生したダンジョンと魔物を国は殲滅しようと奮闘したものの、既存の銃火器では魔物を駆逐するには火力が足りず、イシオンの一番の特性により魔物達の強度を上げるにとどまってしまったらしい。

 しかし、小型の魔物を殺して持ち帰ることには成功し、国の研究機関が全力を持ってイシオンの研究、原因解明に当たった。その結果イシオンは生物の強制的な進化と適応、厳密には突然的自然変異を一世代で行い、その中には変態してしまう生物がいることが判明した。

 詰まる所どういう事かというと、ストレスを解消し同じストレスを受け付けなくなったということだ。具体的には、外部的刺激ストレッサーにより歪んだ部分を元に戻し、同じ刺激により歪まなくなったということになる。

 寒いところで住んでいる生物たちが、寒さに強くなる事の究極形というのが一番分かり易いと思う。

 これによりダンジョンの中でひしめき合っていた魔物達は近代兵器なら大よそ全てを無効化してしまったのである。試してこそいないが核兵器なら効果はあると思う。

 幸い魔物はダンジョンの外に出てくることは無かった。ダンジョンコアを入手しようと魔物達は徘徊はいかいしているが中には、ダンジョンコアを奪われてしまったダンジョンもある。しかし、今度はその魔物がダンジョンコアとして機能するためダンジョンが倒壊したりして、魔物達が迷宮外に溢れ出すような事態にはおちいっていない。ダンジョンコアを手に入れた魔物はボスと呼ばれ、通常の魔物とは一線を画する存在となる。

 だからといって、そのままにする事は勿論出来なかった。その後の再三に渡る研究の末、魔物と戦うためのすべセルアズを発見することが出来た。


 このセルアズというのは魔物の体内で飽和したイシオンが集合し結晶化したもので、サイズは小さいものだとBB玉ぐらいで大きいもので野球ボール位のものが発見されている。基本的にはビー玉ぐらいの大きさだ。

 特徴は金属を侵食する。侵食した金属の切れ味を上げ今までよりも強固になり、更に属性を付ける事が一つ。二つ目の特徴がイシオンを吸収する事だ。

 魔物の体内にいるイシオンを吸収しすることによりセルアズは、一つ目の特徴を底上げすることが出来る。これにより、イシオンが侵食した武器は切れば切るほど攻撃力が上昇することになる。

 この特徴により、セルアズが侵食した武器は魔物を切り裂き、魔物のイシオンを吸収することにより外部的刺激キズを受けても進化する事は出来ず、殺す事が可能となった。

 セルアズの特徴が一定の段階を超えたものは能力と呼ばれ、ただ属性が付いただけの物と比べると桁違いな力を持つ。

 しかし不可解なのは、この構造からセルアズは第三者に使って貰わなければ価値を見出せない点なのだそうだ。これ程の力を持ちながらも、その使い方を自分で決められないのは生物としては欠点とも呼べる。

 ともかく、セルアズの発見でダンジョンの攻略への期待は高まったのだが、刀やナイフによる狭い迷宮内での集団戦闘は、兵器や銃器での戦闘訓練を受けていた自衛隊には荷が勝ち過ぎていた。またプレス機による量産されたナイフや刃のついた模造刀ではセルアズの侵食は完全ではなく、その効果も薄いものとなった。


 これにより国は、自分で自分の得物を造り、対魔物用の訓練をする人材を育てるために学校を設立したのがこの学校になる訳だ。

 ダンジョン教育の内容は大きく分けて知識、体育、鍛冶の三種類になる。知識は言わずもがなの勉強であり、体育ではダンジョン内の戦闘を前提としたもので各々おのおのの使いやすい武器を使い授業を行う。最後の鍛冶は武器を作るための授業となる。長き日の研究により、セルアズは量産の出来ない手作りの武器の方が侵食が進み、より性能が高いものと事が分かったので自分の使いやすいものを自分で作る事に主眼を置いている。

 また、鍛冶に使う道具にもセルアズを使うことにより、ずぶの素人でも三年程度でそこそこの物は鍛えられるようになる。これはセルアズが金属に反応し最適状態を見極めるためである。しかし自転車の補助輪みたいなもので、しっかりと修練を積んだ人の物の方が質は高い。


 ここで授業風景に触れておきたいと思う。

 黒板で授業を行っているのが小金井先生だ。見た目四十前後だが、確か五十を超えているらしい。引き締まった体や深みのある顔立ち、鋭い眼光は格好いい男であると同時に、誠実で厳しい様は子どものころに憧れた出来る大人そのものだ。

 この人はダンジョン攻略の第一人者でもあるので、経験の伴った授業内容は分かり易いと評判である。しかし時々ではあるがその経験談が下手なホラーよりも怖い話に変わるときもあるのだが。

 迷宮学以外にも武器概論も受け持っていて結構多忙な先生だ。

 教室は普通の学校とは変わりないが、新築のため全部新しいものとなっている。校舎の方も二階建てで特筆するべきことはないだろうが、この学校ならではの場所は地上ではなく地下となっている。

 地下は鍛冶の授業をするときに使い、放課後も午後十時まで開放されている。この地下室、鍛冶室の驚くべきは設備の充実さと広大さだ。

 地上部分は建築の都合やら土地の形でL字型になっているが、地下部分はそんなこと関係ないとでも言うべく、必要な広さをしっかり取っており作業がしやすくなっている。

 また、最新の工作機械を取り揃えており、デザインに必要なパソコンなども完備されている。しかし、本当の設備と言った意味では最新の技術で作られた工具こそが一番である。

 昔ならではの工具をより使いやすくしながらも、工具としての本質からはみ出していない作りは俺達みたいな学生には勿体ないほどのものであるが、あくまでも工具は道具なので、作り手の腕が見るに耐えないものでは宝の持ち腐れなのでそうならないように鍛錬は重要である。


「えー、次の部分だが赤石答えられるか? 現在見つかっている迷宮は三種類に分類される。その種類と特徴を言ってみなさい」

 迷宮学は得意科目なので、いきなり聴かれても回答に詰まるようなことはない。自信があったのではっきりと答えていく。

「現在発見されている迷宮は、上昇型、下降型、地形型の三つに分かれます。上昇型は地上から上に向かって拡張していき、反対に下降型は地下へと下るように拡張されていきます。地形型は少し違って山や谷等の地形に沿うように拡張されていきます」

「その通り正解だ。これはダンジョンコアそれぞれの性格とも言える。基本的にダンジョンコアは地下深くにあるので下降型や地形型になることが多いが、たまに上昇型と呼ばれる上に向かって拡張を始めるダンジョンコアもある。また、住み着いている魔物の種類も変わってくる。ここまでは大丈夫か?」

 俺がの答えが合っている事を告げると、こちらに向けていた顔を再び黒板に向け、かつかつとチョークの音を響かせながら解説し始めた。最後の文を書き終えると確認の為に教室全体を見回した。

「続けるぞ。下降型は地下に生息していた動物が多かったので地面を掘ったり出来る魔物が多い。モグラや蛇、ミミズにムカデを原型にした魔物が多く生息している。昆虫の幼虫や魚類、軟体動物も下降型に見られるぞ。次に地形型だがここには多くの生物の原型がいる。脊椎動物から、無脊椎動物まで数限りない。長くなるので今日は省略する。最後に上昇型は、鳥類や昆虫類の成虫を原型にしたものが生息している」

 そして小金井先生は一呼吸を入れ、

「本日の授業はここまでとする。質問がある生徒は昼休みに私のところに来なさい。以上。日直号令を頼む」

「起立、気を付け、礼」

「ありがとうございました」


 迷宮学は四時間目の授業だったので現在は昼休み。即ち昼食である。

 昼食と言うと購買に駆け込むイメージがあるのだが、あれは漫画や小説のフィクションだけのものだろう。うちの学校ではまずありえない光景だし、大半は弁当を作ってきたり持ち込むのが普通なので買い忘れたりした生徒が行くだけだ。

 この学校は全国の条件を満たした生徒を集めてきている為、寮暮らしが九割を超えている。一人一室、1Kとそこそこの待遇の良さがある。が、高校生の目から見ると不満らしい。文句のつけようもないと思うんだが。

 寮は学校から五分程の場所にあり、学生生活を行うにはかなり便利だ。

 俺も寮暮らしの一人ではあるが、今で言う所の弁当男子である。学校からと言うより国から生徒に対し、返す必要のない奨学金が毎月振り込まれ生活している。弁当の購入程度ではビクともしない額なのだが、節約と趣味と健康の為自分で作って持ってきている。

 本日のメニューは、ゆかり御飯に牛肉の八幡巻やわたまき、出汁巻き卵、白和しらあえに、キャベツの甘酢漬けと完全に和食で攻めてみました。

 八幡巻は昨日の余りの金平牛蒡きんぴらごぼうを使い、冷蔵庫整理も兼ねてます。この時のポイントが牛肉は腿肉等の脂身の少ない部分で作ること。

 牛の脂は他の動物に比べて融点が高いので、お弁当などの冷めているおかずとして食べると脂が口の中で溶けずに美味しくない思いをするので注意が必要になる。

 出汁巻き卵は市販の出汁を使った。流石に昆布と鰹節の出汁は常備してないし。カンテラと呼ばれる銅製の四角い卵焼き鍋を使い、色が付かないように焼く。卵1に対し出汁0.5の割合が俺は作りいい。

 白和えはグリーンピースに人参、椎茸、蒟蒻をチョイス。和え衣は昨日のうちに作って、野菜は茹でて味を入れておいた。和えてしまうと野菜から水が出てしまうので、和えるのは今朝行った。

 キャベツの千切りに生姜、大葉の千切りも一緒に入れ甘酢に漬けたものだ。箸休めの一品になる。


 俺はこの弁当を二つ持っている。何故かと言うと、そいつは四時間目終了のチャイムと共にやってくるからだ。

 俺の弁当を摘み食いし文字通り味を占めたのか、つい先日「オレの分の弁当も持って来い」とか言い始めやがった。自分の分のついで且つ金を払うのを条件に結局作ることになったのだが。

「鋼鎚、弁当作って来たか?」

 そして、やつはやってきた。と言っても同じクラスなので移動してきただけなのだが。

「ちゃんと持って来たよ。おまえのを持ってくるのは初めてだから、和食で攻めてみた」

「おお、本当か! 流石は鋼鎚。やれば出来る子じゃないか」

 感極まったような反応をするのが、俺の友人茶々川 智(ささがわ とも)である。

 こんな喋り方をするけど女の子である。身長は女子の中でも低く、体も控えめな成長をとげたので髪を切れば男の子に見えなくもない。栗色と表すのがぴったりの茶色い軽い髪は、くせっ毛なのかふわふわしている。

 顔はかなり整っていて、小顔で目は大きく、きめ細やかな肌に健康的な身体を表すかのような血色の良い頬はまるでお人形さんみたいだ。

 ただし、見た目に限る。口を開くと男と変わらない上に、大人しさや上品さとはかけ離れた行動を取ることもしばしばある。

「お前に子ども扱いはされたくないな。まあいいや、早く飯食おうぜ」

 智に着席することを促すと、近くの席から椅子を持ってきて座った。

「では、いただきます」

 食事の挨拶はきちんと。実家にいたころに躾けられたので、絶対に欠かすことのない習慣だ。

「いただきます」

 智の方も俺に合わせて、挨拶を行い食べ始める。

 俺はあまり食事中に喋る事はなかった。これも習慣の一つだったのだが、こいつは飯時の方がよく喋るので自然と合わせているうちに会話になってしまったのだ。

「これ、うまいな。八幡巻。中の牛蒡が少し辛すぎる気もするけど」

「それは、昨日の金平を流用したからだよ。本当は八幡巻の牛蒡は、適当な大きさに切って出汁と醤油で煮るんだけど、金平の余りがあったからそれを巻いて作ってみた」

「へーそうなんだ。後、白和えになんでグリーンピースを入れた。オレ、コイツ嫌いなんだけど」

「俺もあんまり好きじゃないんだけど、春だから季節感を出すために入れてみた。まあ、缶詰のだからありがたみ無いけどね」

 弁当の批評がほとんどなのは、ご愛嬌と言った所だろう。

 昼休みは弁当を食って駄弁るのが俺と智の使い方だ。予習や復習に使ったりすることは今後ないと思われる。


 昼休み終了のチャイムが鳴り、智は自分の席の方に帰っていく。次の授業は初の鍛冶の実技なので、全員教室で待機するように朝のHRで担任から言われている。

 間もなくするとあんたはどこの世紀末の武人だよ、と突っ込みを入れたくなるような体をしている爺が教室に入ってきた。

 この爺は当学校、上澄高校の校長兼、現役鍛冶師兼、俺の祖父の赤石 剣(あかいし つるぎ)である。名前は本来剱と書くのだが読めない人も多いため正式な時以外は剣で通している。

 日本刀を作らせたら、この学校では右に出る者はいないし、下手をすれば日本刀以外の武器に関しても右に出るものはいないかもしれない。

 普段はそこそこに温厚な感じではあるのだが鍛冶に関しては一切の妥協を許さない職人肌でその姿は歳刑神さいぎょうしんとよばれ恐れられている。

「儂がこの学校の校長赤石 剣じゃ。入学式の挨拶以来なので忘れている生徒もいるかもしれないが、改めてよろしくのう」

 雷鳴のようなデカい声で話し、男子生徒でも後ろに隠れられそうな巨躯を忘れた生徒がいるのであろうか、いやいない。

「この前鍛冶室の使い方は、授業でやったと思う。なので今日は、実際に鍛冶室を使いナイフの作り方を教える。なので、全員着替えて鍛冶場に集合するようにのう。時間は十五分以内に集合すること、遅れればそれなりの処置を取らせてもらうので注意するようにのう」

 そういうと爺は教室から出て行った。台風かくやと言った感じに、皆ポカンとしていたが俺は席を立ち智の席に移動する。

「智、早く行くぞ。あの爺の対処は間違いなく鉄拳制裁だ。あれを喰らうと頭蓋骨が割れるかもしれない」

 あの爺は昔気質むかしかたぎなので体罰に躊躇ちゅうちょはない。シンプルに悪いことをやったら叱り、良い事をしたら褒めるが爺の基本教育だ。なので、遅れていくのは自殺行為にならない。

「今時そんなことする教師がいる訳ないだろう? モンペが怖いなんてよく言っているじゃないか」

「阿呆か、うちの爺は魔物でも一刀両断出来ちまう。怪物親モンスターペアレントなんて歯牙にも掛けねーよ。悪いけど、聴いている暇は無いないから急ぐぞ」

 友人を見捨てたくないので、智の手を取り足早に鍛冶室へと向かう。

「ちょっと待て、手を離せ!」

 細かいことを気にしている暇はないので、黙殺させてもらう。智の反抗よりも爺の拳の方が、明らかに脅威度は上である。

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