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(習作)剣に誓いと魂を込め(1)

流行の異世界トリップ、学園風味。

テンプレ展開だと楽なことと、なろうの機能確認とテストを兼ねて書いているため、大した内容もなくあっさり終わる予定。

◆序


 自分の手すら定に見えない濃霧の中を幾日彷徨ったことだろう。

 バッテリーが切れる寸前に携帯電話を眼前にかざした時は、すでに二日と十時間が経過していた。

 霧のせいで天も地もなく、いまの時刻すら定かでないまま、北沢玲(きたざわあきら)は山中を手探りで歩いていた。

 

 本来ならば起伏が激しく、いつ崖から落ちるともしれない中を歩くのは自殺行為に他ならない。山岳で遭難した際に最も助かる可能性が高いのは、低体温症に備えつつその場から動かないことなのだ。


 だが、玲にもそういった知識はあったものの、今回ばかりは移動せざるを得ない事情があった。

 滅多にないことだが、玲の背丈もあろう藪をかき分けて山菜を採り進むうち、親子連れのクマと出会い頭に遭遇した。さらに不幸なことに、本州であるにもかかわらず――胸に白い三日月は見あたらなかった。

 北海道から本州に流れ着いたやつがいるらしいとは噂に聞いたことがあったが、まさかこんなところにと嘆息せざるを得ない。

 それは、かつて玲が遠目に見つけたものの二倍はありそうなヒグマ。

 まして子連れの気が立っているものに出くわすとは、自分の不運を呪うしかない。

 焦ったら一巻の終わりだと自らに言い聞かせつつ、玲は唸る母グマを刺激しないようゆっくりと後退し、お互いの息遣いが遠くなった頃、山道を全速力で駆け下りはじめた。

 どれだけ急いでもすぐ後ろにクマの足音が聞こえるようで、一度ならず振り返りつつ麓の駐車場を目指す。

 だが、動転していた玲はいつしか道を間違え、何かおかしいと気付いた頃には遭難者の一員となっていたのだった。 


 こうした事態に備えていたため、保存食と水、雨具については問題ない。

 だが、夕立後から発生した濃い霧は翌日になってますます濃度を増し、太陽が出ている時刻であっても山中は薄暗い霧の帳に閉ざされ、一度ならず木々に頭を打ち付ける羽目になっていた。ここはじっと霧が晴れるのを待つべきだというのは考えるまでもないこと。だが、いつ目の前にヒグマが現れるかという恐怖から、玲は山のセオリーを無視して、麓と思われる方向へゆっくりと歩き出した。崖から落ちない限りは、元の街なり山を越えて隣の県なりに出るだろうと。

 

 それからも永遠と思えるほど歩き続け、霧が薄れるのを感じたとき――突然、後頭部に強い衝撃を受け視界が暗転する。

「ヒューセンツァ! ヘルテュライア!」

 意識を失う直前に聞いたのは、耳慣れない言葉だった。 



◆1


 「見てよあれ。まだ剣の魂が来ないんだって」

 「いっそ、そのまま契約なしでお払い箱になればね。それにしても不格好に大きい剣! いくら貧乏騎士の出だからといって、父親のお古を持ってくるなんてありえない。あんなの持つくらいなら、聖剣士にならないほうがよほどマシよ」

 「その剣だってまともに振れないでしょ。ほら、もう素振りで剣が上がらなくなったし。……早くここを辞めればいいのにねー」


 聞こえよがしに会話する声が、修練場の片隅で剣を振る少女の耳にも届く。

 いつものことだ、こんなの慣れっこだと少女は自分に言い聞かせ、折れそうな心が体から力を奪い剣を取り落としそうになるところを、歯を食いしばって耐える。額から汗がつたっていて良かったと彼女は心から思った。でなければ、涙がこぼれていることがすぐに分かり、更にバカにされただろうから。


 「たまたま聖剣士の素質があったかもしれないけど、それだけでしょ。何やるにしても鈍くさいし、魔物と戦ったらすぐに喰われそうだよねー」

 「それより、あんなのがウチらと同じ聖剣士見習いだと思われるのって最悪じゃない? 帝国の誇りである乙女聖剣士団には、やっぱり相応の人間が入るべきよね」

 「言えてるー。『いつから乙女聖剣士団は豚臭い農家の娘が入るようになったのか』なんて親類に言われたら、私お屋敷から出てこれないわ」


 三人の声が聞こえないふりをして、少女は懸命に剣を振るう。

 貴族の娘たちは華麗な彫刻をふんだんに施された細身の剣を持っており、たしかに自分の無骨な長剣と比べるべくもない。それに彼女たちと違って、自分に剣の魂となるパートナーがいないのは事実なのだ。一年前に聖剣士見習いとして、ここ騎士団領へやってきたとき、剣の魂となれる男性は見習いと同じ四人ほどいた。だが、三人の貴族のうち一人が双剣使いだったため、彼女は二人のパートナーと契約し、身分的にも実力的にも一番下の自分は未だに独り“ただの鉄剣”を振るっている。


「そうだ、せっかくの自習だし、この間の授業で『いつも剣が側にあるとは限らない。身の回りの物を使って戦う術も重要』と習った実践をしよっか」

「え、なになに。何するつもり?」

「ほら、ここに手頃な石がたくさんあるんだし、投擲の練習よ」

「あー、なるほど。こんな感じでしょ。それっ!」


 突然飛んできた石に驚き、少女は剣を放して頭をかばう。


「ユウメ、おめーは素振り二百回がまだ終わってないだろ! さぼってんじゃねーよ」


 素振りをすれば、三人の投げる石を防ぐことはできない。だが、彼女たちは剣を置いて(つぶて)を防ぐことを認めないだろう。下手に反抗して、いじめが更にひどくなることを恐れたユウメは、自分に重すぎる剣を再び手に取る。

 早くこの自習の時間が終わればいい。導師の前になれば、彼女たちは貴婦人然として自分に危害を加えてこないのだから。そう自分に言い聞かせ、痛みを堪えつつユウメは剣を振り始めた……。

 

 悪夢のような自習の時間が終わり四人が宿舎へ向かう途中、二人の導師が足下を眺めながら、深刻そうな表情をしているところに行きかかる。 

 何事だろうと最後尾のユウメも注視すると、そこには変わった服を着て、大きな袋を背負った男が倒れていた。


「あの……、この方、どうかしたんですか」


 先ほどの態度を完全に隠し、良家の婦女子然とした口調で三人のリーダー格であるスオリが尋ねる。


「心配しなくてもいいですよ、スオリ。どうやら迷い人のようですが、男性であるため何か間違いが起こる前に気絶させ縛り上げたところです」


 そう言って剣の導師であり、乙女聖剣士団隊長の一人であるトライン女史が微笑む。

 その言葉を聞いたユウメが改めて男を見直すと、たしかに両手両足が縛られている。だが、それ以上に目を引いたのは薄汚れて憔悴しきった顔と、不思議な服装だった。見れば見るほどこの国の人間には見えない。


「しかしトライン隊長、結界が貼られているにもかかわらず、乙女聖剣士団領に迷い込むなどということがあり得るのですか?」


 導師の一人、イフレイドが男の袋の中身を検分しながら疑問を呈する。

 彼女は最も年若い導師であり、ユウメたちとさほど年齢が変わらないため、見習いにとっては話しやすい相手だが、いまは険しい表情をしており軽口を叩ける雰囲気ではない。


「さて、私の専門は剣であって結界術ではないから何とも言えないな。だが、恐らくだが剣の魂となる素質があるから、結界を無効化して入って来れたのではないかと思う。それに、これほど変わった衣装を着ているということは、秘密裏を好む密偵の類ではあるまい。だが、憶測で決めつけるのは危険なことだ。しばらく監禁し尋問する必要があるだろうな」


「トライン導師、この方は剣の魂となれるのですか?」

 スオリが一瞬、口の端をあげて邪な笑みを浮かべたあと、確認するように質問する。

「あくまで私の勘だがね。いくつかの状況証拠から、まず間違いないと思う」

「じゃあ……、ユウメのパートナーにしたらいいんじゃないですか?」  

「――えっ!?」


 その発言に、この場にいる全員の視線がユウメに集まる。


「そういえば、ユウメのパートナーはまだいなかったか」


 イフレイドが思い出したように呟くと、足下の男を見た。


「帝都に問い合わせてはいるけど、病人だったり子供だったりと希望通りの男がいないのは事実なのよね」

「なら丁度いいじゃないですか! ユウメがいつまでも聖剣を扱えないのは気の毒ですし」


 スオリの言葉にユウメは困惑を隠せない。

 自分の剣の魂となるパートナーが欲しいのは事実だ。聖剣士にとって、それがどれほど強い願いかは、この場にいる人間なら誰もが知っている。だが、目の前にいる男は彼女の想像の範囲外だった。ユウメとしても贅沢を言うつもりは欠片もなく、凛々しい王族や貴族の子弟なんて夢のまた夢。それなりの騎士か商人の出の男でもパートナーとなってくれるのであれば御の字であり、年齢や容姿もあまりにひどくなければ目をつぶろうと思っていた。だが、どこの馬の骨とも分からない不審者が自分のパートナー候補になろうとは、目の前が真っ暗になりそうだった。


「ふむ……一考の余地はありますね。剣の魂のなり手も貴重ですし」


 どうか否定してほしいというユウメの願いは、イフレイドの言葉によって粉々に砕かれる。


「だが、それもこの男が危険人物ではないことを確認してからだ。少なくとも今日は反省房に監禁して様子を見ることとしようか」

 




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