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魔王様とお菓子

魔王様とお菓子2

作者: かなめ

 王妃となってもう一年経ちました。ええ、業務はきちんとこなしてますよ。元老院の方々や侯爵家、伯爵家の令嬢には厳しいお言葉も頂きましたけれども、家にいた頃に比べれば、表に出ている分マシになったのではないでしょうか。


 私に子供ができないせいか、周りからは側室を持つよう言われている魔王様ははね除けているらしい。愛されている感じはするんだけど、国としてはそうも言ってられないのも十分わかっているつもりだ。私から進言したら大変なことになったので、もう何も言わない。言いたくない。

 夫婦となってから、毎日午後にお菓子を作っている。初日こそ、料理長が作っていたが、お気に召さなかったようで、私の役目になった。


 今日はハイデルベルク侯爵夫人がいらっしゃった。そのシャルロッテ様はお茶仲間で最近はよく一緒にいる大切な友人の一人だ。娘のエマちゃんは可愛らしく、羨ましい限りだ。

「ご懐妊なさったのですか?」

「ええ、そうなの。次は男の子だといいのだけど」

 シャルロッテ様は第二子を身籠られたようだ。

 私も焦りを感じる。そう思ったのを感じたのか、シャルロッテ様が手を握ってくれて、大丈夫と言ってくれた。

「焦っても何も変わらないわ。エマのときは私もひどく焦ったのよ」

 シャルロッテ様も最初はなかなかできなくて焦りを感じていたらしい。誰でも一緒なのかな。

 すると、エマちゃんが私の元に駆け寄ってきた。そして、私の顔を見るなり、こう言ったのだ。

「エル様はお母様になるの?」

 私とシャルロッテ様は顔を見合わせた。

「どうしてそう思ったの?」

「あのね、男の子と女の子が見えたの。声をかけようと思ったら消えちゃった」

 エマちゃんの一言は信じられなかったが、最近、魔王様のスキンシップが嫌になるときがあった、確かに。さすがに嫌がりはしなかったけど。シャルロッテ様は受診をすすめてくれた。第二子の妊娠がわかったきっかけにエマちゃんの一言があったそうだ。全く兆しのようなものもないけど、一応受けてみるだけしてみようと思う。


「おめでとうございます。ご懐妊です」

 主治医の言葉に私も付き添ってくれた母も驚いた。双子だそうで、さすがに性別まではわからない。

 小さな子が妊娠を当てることはよくあることなのだそうで、エマちゃんの件も同様だった。

 不安でもある。初めてなのに双子なんて、親戚のお姉さんが双子を妊娠していたが、見ている方も不安になるくらいお腹が大きく、大変そうだったのを覚えている。

「安定期に入るまでは激しい運動などもってのほかですからね」

 しっかり厳重注意を受けた。母はしばらくいてくれるようだ。心強いなあ。弟たちは父に任せてきたようです。

 自分一人の身体じゃないと思うと急に怖くなる。私が母になれるのか、怖いという気持ちでいっぱいで。母は優しく背中を撫でてくれた。

 魔王様に伝えなければならない。そろそろお昼になる。お昼過ぎには魔王様と会うことになるので、どうやっていうか、考えておかねば。気が気でなく、昼食もあまり入りません。母には怒られた。


「あの、お話があるんですけど」

 やっと話題を切り出した。静かに佇んでいただけだったので辛かった。

「何だ?」

「私、できたんです。赤ちゃん」

 おそるおそる魔王様を見ると、唖然としていました。自分でもこんなにストレートに言ってしまうとは思いもしなかった。

「それは(まこと)か?」

「はい、午前に医師に診てもらいましたから」

 魔王様は難しい顔をし始めた。都合が悪かったのでしょうか。不安でしかたがない。

「エル」

 呼ばれて顔を見上げると、魔王様は満面の笑みを浮かべていました。強面(こわもて)だからちょっと怖いですけど。

 私を優しく抱き締めてくれた。今日感じていた不安がすべて吹っ飛んでしまうほどの安心感に包まれる。しかし、突如その雰囲気もぶち壊された。

「それじゃあ、今宵から激しくはできなくなるな」

 すっかり忘れていたけどこういう人だった。何を期待したわけでもないけど。自分が恥ずかしくなった。

「私を実家に返してくださいっ」

 私の言葉にさすがに焦ったのか、取り繕おうと頑張ってますが、もう決めたのだ。

 魔王様の拘束から抜け出して、母の待つ部屋へと帰る。部屋に着くと最低限のものを持って母と実家に帰る。魔王様が絶対に実家に来れないようにうちに結界を何重にもかけておくのを忘れない。魔王様以外は通れるので大丈夫だ。あとで主治医と女官の何人かは来てもらった方がいいかもしれない。

 初体験の夫婦喧嘩である。



 実家に帰ってきてから、じっとしていることもできなくてひたすらお菓子作りに励んでばかりだ。レパートリーも増えてきたように思う。

 母にはそろそろ戻ったら、とも言われたが、それはごめんだ。せめて子供を産むまでは魔王様のそばにはいたくない。何に不満かって言えば、“我が道を行く”あの性格を直してほしい。無理なのはわかっている。わかっているつもりなのですが! 誰にも理解されないのが悲しい。

 弟とじゃれあうのは楽しい。見ない間にずいぶん大きくなった。赤ちゃんの成長は早い。自分の子もそうなるんだろうか。まだ膨らみもわからないお腹に手を当てる。

 早く大きくなってね。

 それだけを願うばかりだった。



 もう魔王様と顔を会わせなくなって季節が二回変わった。一年も半分以上を過ごしてしまった。さすがに不安になってくる。おそらく、妊娠したことで王妃の公務は控えてあるようだ。安定期に入ってからは最低限、お手紙を書いたり、お茶会も開いてはいる。ただ、今となってはお腹が大きくなって非常に動きづらくはある。

 そういえばシャルロッテ様はもうご出産なさったらしい。予定よりは早かったようだが、母子ともに健康ということで、今度お見舞いに行きたいと考えている。


 違和感を感じたのは予定日も過ぎてしまった頃。なかなか出てきてくれる様子もないので、どうするべきか母や主治医とも相談していた。魔王様にも来てもらおうという話になったが、こんなことでお手を煩わすこともないので断った。

 違和感は大きくなる。次第に立っていられなくなった。蹲っているところを弟が見つけてくれて最悪な事態は免れた。このままでは母子ともに命の危険があるということで陣痛を促す薬を飲むかどうかの選択を迫られた。

「早く会いたいなあ」

 お腹を撫でながら言う。薬は枕元に置いてある。できれば自然な形で産みたかった。

「エレオノーラ。魔王様に立ち会ってもらいなさい。あなた、とっても不安そうな顔をしてるわ。そんな様子じゃ、赤ちゃんも安心して出てこれないじゃない」

 母の言うことは一理ある。あんなに拒絶しておいて、結局魔王様に頼ろうとしている自分が情けなく思う。

 私は家の結界を全て解いた。

 魔王様はすぐに現れた。どうしたらいいのかわからなかったけれど、魔王様は何も言わず抱き締めてくれた。安心が伝わったのか、お腹が痛くなる。すぐにお産体制に入った。



「おめでとうございます。若様と姫様ですよ」

 エマちゃんの言ったことは合っていた。産むのと痛いのとで疲れていて、子供の顔を見るので精一杯だった。

 魔王様はずっとそばにいてくれたけど、なんか色々不味いことを言ってしまった気がする。それに、終わったあとの魔王様は青い顔をしていた。なんか謝りたくなる。


 一週間で、体調も回復し、ハイデルベルク侯の邸宅へ訪問することにした。城に帰る途中ということもあったが、第二子の顔を見るのと、うちの双子を見せるのと二つの目的があったので今回は特に楽しみだった。


「いらっしゃい」

 シャルロッテ様は優しく迎え入れてくれた。早速、話題は子供の話になった。シャルロッテ様の二人目は男の子で、お母さんそっくりな柔らかそうな茶髪とお父さん譲りの深い緑色の瞳を持っていた。そして、姉となったエマちゃんと並ぶと、お父さんとお母さんの要素をそれぞれ引き継いでいて二人の子供だなあと思う。名前はもう決めてあって、クラウスという。将来はなかなか楽しみなのではないだろうか。

 うちの双子も名前は決めてある。とはいっても、私が考えたんじゃなくて、魔王様が考えてくださったのだ。離れていた期間に悩んでたらしい。会えない分、ってことですかね。女の子はジークリンデ、男の子はエルマーという名だ。私たちから少しずつ名前をとったらしい。

 可愛い可愛いとお互いに言いながら、シャルロッテ様との楽しい一時はあっという間で、ヴォルフラム様がお帰りになり、私たちを迎えに、レオンハルト様がいらっしゃった。

「また、お茶しましょうね」

 シャルロッテ様は旦那様に肩を抱かれて、お見送りをしてくれた。私付きの女官も一緒に来てくれていたので、荷物を預けて、私は子供たちを抱く。

「はい、ぜひ。お待ちしてますね」

 ハイデルベルク家を離れて城へと帰った。


 自分の部屋を見ると、ベビーベッドが二つ置いてあり、その付近には山ほどつまれた箱の数々が見える。

「陛下がお集めになった品々にございます」

 女官長が丁寧に説明してくれた。魔王様がベビー用品を買い漁る画を想像してむせる。どうしよう、魔王様が可愛く思えてきた。

 早速、ベビーベッドに赤ん坊をそれぞれ寝かす。すでに私が疲れていたので、それよりほかない。二人とも気に入ったようで嬉しそうである。

「本来なら、乳母をつけてお育てするのですが、陛下がエレオノーラ様に、とのことでしたのでこちらにご用意致しました」

 ちょっとした気遣いがこんなに嬉しいものだったなんて、思いもよらなかった。私の家では当たり前に母が私たちを世話してくれた。友人はたぶん、乳母がいたと思う。私は自分で育てたかったから、こういうのが嬉しかった。出逢ってからの一年としばらく会えなかった時間、そしてこれから過ごす時間とを大切にしていこうと思う。そろそろ帰ってくる魔王様のために、美味しいお茶を入れておこう。

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