7、違和感から確信へ
なんとか駅にたどり着いた。
人の気配がないホーム。
止まったままの電光掲示板。
改札の機械が、規則的に点滅を繰り返している。
それでも電車は動いている。
車両の中も昨日と同じ光景。
喉が焼けるほど乾いていた。
会社の最寄り駅に着いた。
急いで電車を降りる。
駅を出ると心なしか空気が軽くなった。
助かった——そう思って、駅前のガラスに映った自分を見た。
……その瞬間、凍りついた。
影が、ない。
太陽は高く昇っている。
それなのに、地面には何も落ちていない。
足を動かしても、光の角度を変えても、影は生まれない。
ゆっくりと手を伸ばす。
ガラスの向こうで、同じ動きをする“それ”を見つめる。
姿形は自分そのものなのに——違う。
あの空洞のような暗い目が、笑っていた。
背筋が冷たくなる。
その瞬間、耳の奥で“機械のような声”が響いた。
「おめでとうございます。
あなたはすべての“違和感”を発見しました。
《LIFE SIMULATION》は、これで終了です。」
声は感情を欠いていた。
だが、わずかに笑っているようにも聞こえた。
次の瞬間、世界がひび割れた。
駅舎が、街並みが、ガラス細工のように砕けていく。
足元の地面も音も、光もすべてが崩れ落ちる。
色が消え、音が消え、感触がなくなる。
世界は、白い光だけになった。
まるで、最初からここに何も存在しなかったかのように——。
視界の端で、誰かがこちらを見ていた。
白い空間の奥、ノイズのように揺れる“人影”。
それは、ガラス越しに見た自分に、よく似ていた。
「……テスト完了。次の被験者、転送を開始します。」
声が途切れ、光が爆ぜた。
何もかもが、遠ざかっていく。
そして——意識は、完全に途切れた。
お読みいただきありがとうございます。
次回最終話です。




