第8話
「うーん、暇って最高。」
私は王都を散歩したり、家で地球の漫画を読んだり、こっそり子供たちのレストランに行って、様子をうかがったりしてしてここ数日を気ままに過ごしていた。
ちなみに子供たちは私がユイとしてきたとき全然気づいてくれない。気づいて欲しくて言ってるわけじゃないけど、ちょっと寂しい。
雑貨屋の経営は社員の二人の働きとブランド「アヤ」によって順調、子供たちのレストランもガラントさんの宣伝のおかげもあり毎日忙しそうだ。言うまでもなく「アヤ」は日々売り上げを伸ばしていて、アヤという人物は謎の商人として注目と信頼を集めている。まあ私なんですけどね!
借りていた金貨10枚も返し終えたし、私がやることと言ったら私の雑貨屋とガラントさんの商店の在庫補充くらいだ。
「すいません、ユイさんはいらっしゃいますか?」
私が今日の予定を考えていると、1階からガラントさんの声が聞こえてきたので私は下の階へ降りた。
「ガラントさん、どうかしましたか?」
「あ、ユイさん。今日は昼からギルドの会議がありますけどユイさんご存じでしたか?」
あ?何の話?
「なんですかそれ。」
「やっぱり知らなかったんですね。商業ギルドに入るときの説明で会議があるって言っていたじゃないですか、それが今日ですよ。」
あー確かにそんなことも言ってた気がする。でも日程っていつ言われたっけ?
「それって当日に決まるものなんですか?」
「いえ、10日前からギルドに張り出されてましたよ。」
「あー、ギルドなんて加入して以来行ってないですよ。」
「まあ確かにユイさんにはギルドに行く理由がないかもしれないですが、少なくと10日に1回は行っといたほうが良いと思いますよ。大事な情報が張られたりもしますし。」
「…善処します。」
「そうですか。それで、今日は来られますか?」
「それって行かなきゃダメですよね。」
「皆が納得できる理由がありギルドに届けを出せば休むことができます。ですが理由なく何度も欠席すると、そのうち除名処分になります。」
…まあさすがに行くか。情報収集もしたいし。
「今のところ行こうと思うんですけど、行ったらアヤ=ユイってバレそうじゃないですか?ガラントさんは気づいたし。」
「確かに。じゃあとりあえず髪切ったらどうですか?他には服装をいつもと変えるとか。」
「そうですね、何とか対策して会議に出ようと思います。」
「わかりました。では私はもう行きますので。また後で会いましょう。」
私は美容院に行って髪を切ってもらい、新しい服でギルドに向かった。
「こんにちはー。」
「あ、ユイさん。お待ちしておりました。」
ギルドの扉を開けると、いつかの新人さんが待っていた。
「どうぞ、奥へお入りください。」
案内されたのは大学の講義室のような場所。前に司会者らしき人がいて、数十人が席についている。私は端のほうの席に座った。
数分して、司会者が話し始める。
「では、定刻になりましたので会議を始めさせていただきます。皆様、お手元の資料をご覧ください。また、意見や補足がある方は挙手をしての発言をお願いします。」
私は机の上に置いてあった紙を読む。紙には、今日の議題の概要が書かれていた。私に関係あるものは特になさそうかな…
「7:「アヤ」について」
あれ。なんかあるなぁ。
会議は順調に進み議題が次々と片付いていく。ガラントさんは何回か発言していて、結論に反映されていた意見もあった。私はもちろん無言を貫き空気になっていた。
「では、次の議題に移らせていただきます。」
おっ、ようやく来たか。とはいっても求められないない限り私は発言する気ないけど。
「えー、次の議題はブランド「アヤ」についてです。まずは私の方から状況説明をさせていただきます。」
「現在、ガラント商店とフェルカナ商店から販売されている「アヤ」というブランドの商品が王都で人気を集めています。」
いくつかの視線に私とガラントさんに向く。
「現在、「アヤ」は今までになかった商品を売り出しているだけなので問題ないのですが、既存の商品にまで手を出されると少し不味い状況となります。」
…それって、自分たちの売り上げが落ちるからってこと?
「不味いというのは商人たちの売り上げが落ちるからということでしょうか。もしそうでしたら、それは私達1人1人が解決すべきことに思えますが。」
私と同じことを思ったらしい。一人の若い商人が質問する。
「いえ、まあ商人の皆さんにとってはそれも大問題でしょうが、私が申しているのはのはそういうことではありません。問題なのは、「アヤ」の商品を誰が提供しているのかが分かっていない点です。もしこのまま「アヤ」が売り上げを伸ばし続け、王都にとって不可欠な存在となった後急に王都から消えるとかいうことがもし起これば、王都は大混乱に陥ります。」
あーなるほど。確かにそのことは考えてなかった。たしかに今私は王都を離れる気はないが、ずっと離れないという確証はない。
「つきましては、ガラント様かユイ様に「アヤ」を提供している方のことを明かしていただきたいのですが。」
うわ、どうしよう。
私はガラントさんの方を見る。すると、ガラントさんはもう私にすべて任せたような表情をしている。そりゃそうか、アヤの正体私だし。
「発言してもいいですか?」
「お願いします。」
私は手を挙げ、立ち上がる。
「アヤは私の親友です。それに、今ある商品と似たものを作る気も王都から離れる気もしばらくはないと言っているので大丈夫だと思います。」
「しばらく、ですか。」
「もしアヤがしたいと言ったら私が止めます。絶対とは言えませんが。」
「…わかりました。あなたを信じることにします。」
よし、どうにかなった。
「それでは、次の議題に移ります。」
あーやっと会議終わったー。
「おい、ユイとやら。」
会議が終わり私が会議室を出ようとすると、誰かに声をかけられた。私が振り向くと、そこにいたのはいかにも悪徳商人といった顔つきの太った男だった。
うわ、めんどくさそう。
「どうかしましたか?」
私は気持ちを表情に出さないように気をつけつつ返事をする。
「アヤという奴に、俺にも商品を卸すように言え。そうしたら、お前の店を私の商会の傘下に入れてやる。」
はあ?何言ってんのこいつ。よくこんなのが商人やれてるな。
「無理ですね。まず誰に商品を提供するかは私ではなくアヤが決めることです。それに、私があなたの傘下に入ることが対価みたいに言っている意味が分かりません。私にとってのメリットは何ですか?」
「俺はあのドラヴァ商会の商会主だぞ!俺の商会の傘下に入れるなんて弱小商会主全員が望むに決まっている。」
「そうですか、それは良かったですね。でも少なくとも私の望みではないのでお引き取りください。」
「それは、俺の提案を断るということか!」
「なんでこの流れで提案をお受けする可能性があると思ったんですか?」
私がそうと、男は顔を真っ赤にした。
「断ったこと後悔させてやるからな。覚えてろよ!」
やれやれ、なんだったんだね一体。




