第7話
私はいずれ子供たちを2つのグループに分るつもりだ。1つ目は私の仕事を手伝ってもらうグループ、2つ目はここをもっと発展させていくグループ。でも、最初は全員でここを人の手を借りずに暮らせる場所にしてもらう。
私が彼らにお金を渡すことは簡単だが、それだと私がいなくなった後どうなるかが目に見える。どうせ助けるならそんな不完全なものではなくなるべく私がいなくなっても持続できるようにしたい。
「みんな、レストランとかやってみない?」
私は子供たちに地球の手軽で美味しい料理を教える。自分たちだけで暮らしているだけあり、みんな手際が良い。
「ほんとに、これ、私が作ったの?」
「やば、簡単に作れんのにめっちゃおいしい!」
子供たちが自分の作った料理に驚いている。よし、これならいけそうだ。
私は机や椅子、皿などを出し、レストランとしての体裁を整えていく。幸い調理場はもともとあったため準備にはそれほど時間はかからなかった。
え?収納魔法(本当はアイテムボックスだけど)をもってることを隠さなくてもいいのかって?
…この子たちは裏切らないだろうし、めんどくさいからもういいかなって。
開店の準備が整う。ちなみに、子供たちが相談した結果店の名前は「アヤのキッチン」になった。
…まあ私の存在とここのつながりが分かりやすくなるから私としては別にいいけど。
子供たちは、年長の少年少女を中心とし3日後の開店に向け商品名を考えたり盛り付けを工夫したりしている。
私も負けてられないな。
私は仮面をしたままガラントさんに会いに行く。「アヤ」という名前を広めるためにはこの姿で王都で力を持っているらしいガラントさんと接触しないわけにはいかないが、バレるのはなるべく避けたい。
全部ガラントさんに打ち明けることも考えたが、どうしても必要な時以外は異世界転生のことは言わないと決めたのでここは隠して行くことにした。
「こんにちは。」
私は受付カウンターへ向かう。すると、受付の人が私を見るなり少し待つよう言い慌てて奥に走っていった。どうしたのかな?
「本日はご来店いただき心より御礼申し上げます。失礼ですが、アヤ様で間違いないでしょうか。」
ガラントさん!?
私はつい声に出しそうになった。ていうか、もう話が回ってるのか。「アヤ」の話を広げるのが狙いだったとはいえ商人の情報網はやはり怖い。
「よくご存じですね。」
私はなるべくいつもと声を変え話す。
「…ユイさんですか?」
あれ。
「何の話ですか?」
「その声、ユイさんですよね。よく見ると姿もそっくりですし。」
まさかこんな早くバレるとは、商人の洞察力舐めてたわ。
「あーもう。気づくの早いですよ。これじゃ意味ないです。」
「ユイさん、何してるんですか。っていうか今までのアヤ様という方の噂は全部ユイさんの仕業だったってことですか?」
もう言うしかないか。改めて思うけど私の危機管理ガバガバだね、もっと気をつけなきゃ。
「そうですよ。実は、かくかくしかじかで。」
私は仕方ないので異世界転生やカメラのことを隠しこの活動を始めた理由を話した。
「あーなるほど。あとから「アヤ」という名前とご自分を関連付けアヤのネームバリューで自分の身を守ろうとしているってことですね。」
やっぱり鋭い。
「そういうことです。」
「なるほど、それでしたら私にも協力させてほしいんですけど。」
「協力…具体的にはどうするんですか?」
「ユイさんは、「アヤ」名義でお店をやる気はないんですよね。」
「まあ、基本的にはそうですね。」
「なら、「アヤ」という名前のブランドを作るのがいいと思います。」
「ブランドですか。」
「ええ。ユイさんが卸す商品に特別なデザイン、包装をし他の商品と差別化を図るんです。その商品の質がよければ知名度や信頼は上がっていきます。」
なるほど、ブランド化か。その考えはなかった。
「いいですねそれ。じゃあお願いします。」
私とガラントさんは話し合い、いくつかの商品をガラントさんの商店とフェルカナ商店で「アヤ」ブランドとして出すことを決めた。これでアヤのネームバリューが上がるといいんだけど。
あ、宣伝もしておくか。
「あ、話は変わるんですけど、王都の端で私の知り合いがレストランを始めたので行ってあげてほしいです。」
「レストランですか、今度行ってみます。でも。私は味には厳しいですよ。」
「では、もしガラントさんが味に満足したら宣伝してほしいです。」
「分かりました。その時は無償で宣伝することををお約束しましょう。」
「お願いします。」
がんばれみんな!
「じゃあ、今日はありがとうございました。」
帰り際に、ガラントさんが少し改まって話してきた。
「ユイさん。」
「どうしましたか?」
「これからは、困ったことがあったら何でも相談してほしいです。」
「…そうですね。なるべく相談させてもらいます。」
ガラントさんが少し寂しそうな顔をする。
「まだ話していただけないということですね。」
「…ごめんなさい。」
ガラントさんは私が大きな秘密を抱えていることに気付いているらしい。でも、これだけは気軽に言うわけにはいかない。
唯がそういうと、ガラントさんは少し笑った。
「謝らなくていいですよ。いつか、話したくなった時に聞かせてください。」
「はい…ありがとうございます。」
私はガラントさんに感謝しつつ、商店を後にした。
Side:ガラント
仕事を終え、今日の夜ご飯は何にしようか考えていた時ふと少女の言葉を思い出す。
「今日あたり、行ってみるか。」
ガラントは例のレストランに向かう。
<アヤのレストラン>
「ここか…」
っていうか名前がアヤのレストランって、ユイさんのことだよな…。
扉を開けると店内には数組の客がいて、かいだことのない良い匂いが漂っている。
「いらっしゃいませ!」
少女が笑顔で迎えると、ガラントは驚き目を見開く。よく見ると、料理をしているのも料理を運んでいるのも子供だ。
「えーっと、アヤさんの紹介で来たんですけど、この店は子供だけで?」
「はい!アヤさんにいろいろと手伝ってもらいましたが経営は私たちだけでやってます。」
「そうかですか…」
子供好きのガラントは既にこの店を応援する気持ちであふれていた。
席に案内され、ガラントは腰を下ろす。
「ご注文はいかがいたしますか?」
うーん。特に食べたいものも決まってないし、店のことを知るにはおすすめがいいな。
「この店のおすすめってありますか?」
「はい、ございますよ。」
「じゃあそれでお願いします。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
十数分後
「お待たせいたしました。天麩羅盛り合わせでございます。」
なんだ、これは?
出てきたのは、見たことがないな料理だった。皿の上には薄く黄金色に輝く何かをまとった野菜や魚のようなものが並んでいる。湯気が立ち上り、香ばしい匂いが食欲をそそる。
「これは何ですか?」
「はい、これは天麩羅という食べ物でして、野菜や魚に粉をまとわせ油で揚げたものです。」
「なるほど…?」
いまいちわからないが、とりあえず食べてみるか。
ガラントは細長い野菜の天麩羅を1つ持ち上げ、口に入れる。
「美味い…」
衣のようなもので味を封じていると思いきやそれによって素材の味を高めている。食感も、外が軽く内は柔らかくまるで芸術だ。
これを子供が作っただと?信じられないが、目の前の光景がすべてだ。
ガラントは時間をかけ天麩羅を味わい、店員に美味しかったと伝え店を後にする。そして、ひとり呟いた。
「これは、約束通り宣伝しないとな。」




