第6話
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私はまずガラントさんの元へ行き、売れ行きが好調らしい折り畳み傘の追加分を届けるついでにあの男の顔や性格の特徴を話し彼を知っているか聞く。詳しい事情、そしてカメラのことはまだ言わない。
「あー、それはリオ・ヴェルディスさんかもしれないですね。ノクティア教の司教をやってる。」
あまり期待していなかったが、どうやらガラントさんは彼を知っていたらしい。癒しの力を持っていて、宗教団体の司教をやっているそうだ。
なんで仕事してんのに店に来たんだよ
彼の考えが分からない。というか分かりたくもない。
私は仮面をかぶり彼がいる場所を見に行く。別に今どうこうしようというわけではない。確認しに行くだけだ。
ガラントさんが言っていた通りに歩くと、豪勢な建物が見えてきた。やっぱり宗教ってもうかるんだね。
私は信者を装い教会に入る。…彼がいた。本当に教会で働いてるじゃん。こんなのが神に仕える人とか世も末だな、いつか覚えてろよ。
私は、この世界で権力に脅かされずに、つまり私の存在を大きなものにするために2つの方法を考えた。1つ目は、必要不可欠なものを売る、つまり私がいなければ世界が回らないようにすること。二つ目は、私が善人であると広めること。具体的には不作の地を立て直す、戦争の英雄になる、とか。偽善ではあるが、だが少なくとも悪ではないから構わないだろう。
私はまず大まかな相場を調べるために市場調査を行う。王都中の店を回り、いくつか商品を買い価格と精巧さをみる。
予想通りだった。雰囲気と同じくここは魔法や冒険者、それにかかわる一部のもの以外は中世ヨーロッパと似ている。地球では安価、ここでは高価なものは胡椒、衣服、人造のダイヤやパールといったものだ。
ありがたいことにこの世界の商店はほとんどが持ち込みを受け付けている。早速私は仮面をかぶり、目を付けていた商店の一つへ向かう。
「こんにちはー。」
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いいたします。」
仮面をかぶった、若い声の女。そんな見るからに怪しい相手に対しても丁寧に接するのはさすがだ。
「持ち込みなんですけどー、」
といいながら私が大きな瓶に入った胡椒を出すと、店員は怪訝な顔をする。
「これは…?」
「胡椒です。」
店員は再び瓶に目を向け、驚きへと顔つきが変わっていく。
「っ!少々お待ちください。」
すぐに別の男性がでてきた。
「お待たせしました。店主のゼル・ノークスと申します。この度は当店にお越しいただきまして誠にありがとうございます。」
いきなり店主ですか。まあこんな高級品を大量に持った客がきたらそりゃ当然か。
「えーっと、胡椒を売りたいんですが。」
「伺っております。恐れ入りますが、1粒お借りしてもてもよろしいでしょうか。」
「ええ、大丈夫ですよ。」
店主が胡椒を一つ手に取り鑑定を始める。
「…」
「あの、これはどこで手に入れられましたか?」
「それは言えないですね。」
「ああ、ごめんなさい。そうですよね。」
なんか反応が鈍い。表情には出ていないだけで動揺しているのかな。
「それで、買取はしていただけるんですか?」
「ああ、失礼しました。もちろん買い取らせていただきたいと思っております。価格はこれでいかがでしょうか。」
相場よりもかなり高い価格が提示される。地球のものはこの世界よりも質がいいので当然といえば当然だが、これなら納得の値段だ。
「わかりました。それでお願いします。」
「ありがとうございます。では、こちらにサインをお願いします。」
あ、名前どうしようか。この姿のとき唯を使うことはできないし、お母さんの名前にでもするか。
私は名前の欄に「アヤ」と書く。
…そういえば地球のみんな元気にやってるかな。私が消えて悲しんでるかな。地球のことを思い出して少し寂しい気持ちになる。
でも、今できることはこの世界で生き延びるだけだ。私は次の店へ向かう。
「こんにちは。」
私は今日だけで10件ほどの店を回った。売った商品は胡椒のほかに地球製の紙、安物の宝石、ライターなどだ。中には私の格好を見て追い返した店や、商品を安値で買いたたこうとした店もあったがその辺の店には売らずに帰った。あとで後悔するがいい。
「よし、帰るか。」
最後の店を後にし、自分の家へと変える道中。ふと横を見ると、道の隅で子供たちが座っていた。その子たちはまだ幼く粗末な服をきていて、目の前には数枚の銅貨が入った木の器が置いてあった。
「…」
唯は打算と子供を思う気持ちの両方から声をかける。
「君たち、どこに住んでるの?」
子供たちは少し警戒した目をする。おそらく少々のお金を恵んでくれる人はいても話しかける人はいなかったんだろう。
「おねーさん、なんでそんなこと聞くの?」
その中で一番年長の子が聞いてくる。おそらく15歳くらいだろう。
「ちょっと君たちを助けたいと思ってね。」
「なんのために?」
「助けたいと思う気持ちに理由なんているの?」
「そういうのいいって。無償で他人を助ける人なんているわけないから。」
少年は諦めたような笑みを見せいった。他の何人かの子もうなずく。
うーん。異世界とかその後のこととか説明するのはやだな。でも理由ないなんて言っても信じてくれないだろうし。まあ適当に理由作るか。
「実はね、ちょっとした仕事を探してるんだ。荷物運びとか、掃除とか…手伝ってくれる子がいれば助かるんだけど。」
少年は眉を顰める。
「なんでわざわざ僕らに頼むの?僕たちが裏切るとか考えないの?」
「みんなは裏切ったら他の子たちに迷惑がかかると思って裏切らないでしょ、それだけで他の大人よりも信用できる。それに、君がそう言うってことはそのつもりがないってことの証明にもなるんだよ。」
私はガラントさんと同じ理論を使う。
少年はじっとこっちを見つめる。そして言った。
「わかったよ。じゃあ、ついてきて。」
「ここが僕たちの住んでる場所だよ。」
少年たちに案内され着いた場所は、割と広くしっかりした建物だった。
「中でおねーさんのことを話してくるから少し待ってて。」
といい、子供たちは中に入っていく。
「ただいま。」
「お帰り。今日は少し早かったね、何かあったの?」
「僕らに仕事をくれるといっている人を連れてきた。」
「信用できるの?」
「わからない。けど、一度は信じてみようと思う。このままだと未来がないことはノアもわかってるでしょ。」
「…そうね、わかったわ。」
「早速だけど、仕事って何?」
私が中に入った途端、鋭い声で少女が聞いてくる。おそらくこの子ももまだ私のことを信用してはいないのだろう。子供は全員で15人ほどで、大人の姿は見えない。
「ね、そんなに警戒しないで。まずはご飯にしようよ。」
私はみんな大好きカレーライスを出す。
「「「しゅ、収納魔法!」」」
あ、見せちゃいけないの忘れてた。
カレーライスを出した後しばらくはみんなスプーンでつついたりして食べるのを躊躇っていたが、いい匂いに我慢できなくなったのか男の子が一口食べる。。
「おいしい…」
男の子は驚きと戸惑いが混じった声で言う。それを見た他の子達も食べ始め、皆が驚いた表情をする。中には涙を流す子もいた。
「おねーさん、何者なの?」
少年が聞いてくる。でも、それを言うわけにはいかない。
「内緒。でも、あなたたちの味方であることは確かよ。」
「じゃあ、仮面を外してほしいな。」
「それも、もう少し仲良くなってからかな。」
「なんだよ、それ。」
別の少女も口をとがらせながら言う。でも、その目からはさっきよりも少し親しみを感じた。
「じゃあ、仕事について説明するね。」
子供たちは興味半分、不安半分の顔で聞き耳を立てる。




