第5話
「じゃあ、加入したいと思います。」
「わかりました。では、ここにお店の名前とサインをお願いします。」
【フェルカナ商店】 ユイ
「はい、これでいいですか?」
「ありがとうございます。ではこれ、ギルド証とさっきの手数料の半分の2銀貨と50銅貨です。」
私はもらったギルド証を見る。黒色の四角い板で、表面に【王都支部】と書かれていた。結構かっこいいデザインじゃん。っていうか、王都支部?
「これ王都支部ってことは、他の場所にもギルドってあるんですか?」
「はい、各領地に一つずつありますよ。」
ということは、フェルカナの村がある領地にもギルドはあったんだろうか。
「ギルド証について説明してもよろしいですか?」
「ああはい、お願いします。」
「ギルド証は名前の通りギルドの一員であることを意味していて、各領地ごとに色が異なっています。王都で発行されたものは黒ですが、他の地域では白や赤のギルド証もあるということです。」
「なるほど。」
「また、一部ギルド証を見せることで入れる施設、まあほとんどが酒場なんですけど、があります。」
そういう酒場とかって商人たちだけの情報交換が行われてたりするのかな。まあ私地球だとまだお酒飲めない年だししばらく行く気はないけど。
「最後に、ギルドは常にギルドメンバーの味方です。いつでも頼ってくださいね。」
「よ、よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
私は先輩職員と新人さんとあいさつを交わし、商業ギルドを後にする。
「ガラントさん。今日はありがとうございました。」
「いえいえ、お気になさらず。ではまた。」
ガラントさんとも別れ、私は店に戻った。明日からも頑張りますか。
翌日、閉店時間となり私が片づけをしていると、女性が訪ねてきた。
「すいませーん。ここで働きたいんですけど。」
お!早速きた。
「ギルドの紙を見てうちに来た感じですか?」
「そうでーす。」
「わかりました。じゃあそっちの部屋で面接を行います。今からで大丈夫ですか?」
「いけまーす」
本当に大丈夫か?
…全然大丈夫じゃなかった。全部伸ばし棒付けてしゃべるし、所々言葉遣いおかしいし。まあ次の人に期待しますか。
翌日
今日は3人来た。男女ペアと、男性1人。早速面接をする。
うーん。今日もだめだね。男女ペアはカップルで、私が話してる間もなんか見つめあってるし。もう一人の男性はお前より俺の方が偉いと思ってることが態度からにじみ出てた。
さらに翌日
「あの、ギルドの紙見てきたんすけど。」
いや、今言う?お客さんの対応中なの見てわからないの?
「不採用で!」
この世界の人は全員こんなんなの?でもガラントさんとかギルドの先輩はめっちゃ丁寧でいい人しなぁ。あっ、そういや新人さん無事かな。
「まあ、ここは辛抱かな。」
と思わず独り言をつぶやくと
「こんにちは!就職希望なんですけど、今お時間大丈夫でしょうか。」
声が聞こえてきた。振り向くと、一人の男性が立っていた。わあぉ、爽やかイケメン。
「あー大丈夫ですよ。じゃあそっちの部屋で面接しましょう。」
「はい、よろしくお願いします!」
完璧だった。こっちの質問にすらすら対応し、敬語もしっかり使えてる。おまけに顔もいい。私も地球では就職活動中だったけど、ここまでの学生はあまりいなかったと思う。
「じゃあ、明日1日体験して、互いにいいなと思ったら採用っていう形でいいですか?」
「わかりました。明日もよろしくお願いします。」
「おはようございます!」
出勤してきた彼は、笑顔で挨拶してくる。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「はい、一生懸命やらせていただきます。」
「君なら大丈夫だと思いますよ。私も時々見に行きますし。」
「ありがとうございます。ご指導のほどよろしくお願いします。」
閉店後
「今日はどうでしたか?」
私は彼に質問する。ちなみに彼の勤務態度は余裕で採用したいレベルだった。
「はい。今日一日働いてみて、ますますここで働きたいという気持ちが高まりました。ぜひ採用していただきたく思います。」
「そうですか、それは良かったです。結果はこれから決めるので、明日か明後日来れますか?」
「明日お伺します。」
「わかりました。ではまた明日よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。では失礼します。」
彼を見送った後、私はいつも通り商品とレジの金を確認していく。今のところ万引きなどはないが、いつ起こるかわからいため商品の数と金額を記録している。また、当然カメラもつけている。この世界にカメラなんてないから証拠としては出せないが、その事実を私が知らないと何もできないからだ。
…あれぇ。お金、足りないなぁ。
いや、偶然だ偶然。たまたま彼の勤務日に万引きは発生しただけのこと。早速私はカメラを確認する。
「……」
画面の奥では、彼がお客さんから受け取った金をポケットに入れている姿が映っていた。
私は少しショックを受ける。はぁ、やってんらんねーわこんなん。
「おはようございます!結果はどうですか?」
開店前に来た彼は今日も笑顔だ。昨日は素敵な笑顔だな、とか思っていたが今はどうしてそんな表情ができるのかという疑問と嫌悪感しかない。
「ちょっとこっち来て。」
私と彼は部屋で向かい合う。
「どうしたんですか?そんな顔して。」
相変わらず笑みを浮かべながら彼は聞いてくる。私は今どんな表情をしているんだろうか、まあなんでもいいいけど。
「君さぁ、店の金とったでしょ。」
「…なんのことですか?」
彼の笑顔が途端に消え、無表情に変わる。
「いや、もうわかってるから。お金、返してくれる?」
「なんだ、バレてたんですか。よくわかりましたね。記録でもしてたんですか?」
「お金、返してくれる?」
「何言ってんですか、返すわけないじゃないですか。」
「は?」
「あなた、王都に来たばっかりでしたっけ。知ってますか?王都の裁判では現行犯を除いて証言する人の信用の強いほうが勝つんですよ。そして、この出来事に対して証言できるのはあなたと私しかいない。どこにもらえる金を返す人がいるんですか?」
確かにこの世界にはカメラも録音機器もない。証拠なんて考え方があるかすら怪しい。
「それが事実だとして、あなたに信用なんてあるの?」
「実はあるんですよ。一商人にすぎない、しかも王都に来たばかりのあなたとは違ってね。あなた、ギルドには入ってます?」
「入ってるけど。」
「へー、行動が早いですね。でも、ギルドの職員がこのことを見ていたわけではない、なのでギルドが証言できることはないんですよ。結局あなたはあなたの信用だけで戦わなければいけない。」
彼は私に対しての嫌がらせなのか、ペラペラと話してくる。後でガラントさんに聞いてみるが、彼の言っていることは余裕からして真実なのだろう。ならば、今これ以上話しても無駄だ。
「わかりました。ではお帰りください。」
「お、諦めがいいですね。ではまた。」
またじゃねえよ二度と来んな。
はぁぁーむかつく。結局この世界も権力がすべてか。…ちょっと本気出すか。私は今まで通販アプリを使って力を持とうとかは考えていなかった。でも、それが身を守ることにつながるなら使わないという選択肢はない。
でもこの店は続けたいしなー。どうしよう。
「ありがとうございました。」
店を閉め、いつも通り片づけをする。普段と変わらぬ1日だったが、やはり心は重い。
「こんにちは、今いいですか?」
ああ、今日も来たか。
「ああ、大丈夫ですよ。就職希望ですか?」
「はい、ギルドの紙を見てきました。」
男女ペア、おそらくカップルだろう。もういいってそれは。
「じゃあ今から面接するんですけど大丈夫ですか?」
「はい、よろしくお願いします!」
二日後…
「はあ、結局採用しちゃったよ。」
最初はカップルが二人で働くとかありえないと思ってたけど面接での受け答えもよかったし、次の日の接客も少し不慣れだが懸命にやっているのが伝わってきた。もちろん金を盗むなんてこともないしね。でも、これで私のフェルカナ商店での仕事は在庫を補充するだけになった。
よし。じゃあ始めますか。




