第18話
うーん。常識を学びたいって言っても、まさか異世界から来たとは言えないからなぁ。また記憶喪失ってことにしてもいいんだけど、なんか、私どっかでやらかしそうだから変な設定はなるべく作りたくない。となると、もう事情を知っているフェルカナしかいないわけだけど、まだここから移動できないからな今行くこともできない。
…あれ、そういや前に王様が、この借りはいつか必ず返す。みたいなこと言ってたな、宝石の件で。王宮になら大きい転送箱あるんじゃないか?1回聞いてみてもらうか。
私はフェルカナ商店に向けて手紙を送った。
side:ゼフィル
「ゼフィル、ユイさんからの手紙来た!」
商品を並べていた俺に、レジの列がなくなったタイミングでミレイナがそう知らせてくれた。
「了解。」
俺は手紙を手に取りバックヤードで読み始める。
「なるほど…」
手紙は2枚あり、俺達に向けたものとこの国の国王様に向けたものだった。1枚目には、2枚目を読んだうえで営業時間が終わったらこれを届けておいて欲しいと書かれている。2枚目の国王様への手紙には、もしあったら大きい転送箱を売ってほしいということが書いてあった。
…国王様か。おそらくユイさんは知り合いなんだろうし、いい人だという噂はあるが俺からしたら天の上の人なので、少し怖い。まぁ、行くけどね。直接渡すのは受付の人だし、それとは関係なくユイさんを信用しているから。
っていうか、そもそも店主のお願いを断れるわけない。
side:アレスト
「アレスト様、本日届いた手紙になります。」
「ありがとうザイラン。」
毎晩、その日来た手紙が僕のもとに届けられる。顔見知りからの手紙は別ルートのため、ここで来るのは国民からの要望か商人たちの宣伝がほとんどだ。
「今日は7通か、ちょっと少ないな。」
僕は1通ずつ読み進める。そして最後の7通目。
差出人は、ゼフィルという人か。
…いや、ユイさんじゃん。王都から出ていってしまったらしいけど、手紙は転送箱で送ってきたのかな?
頼み事は、大きい転送箱か。そのくらい余裕だね。あ、でも大きすぎるとユイさんが使ってる転送箱に入らないな。ザイランに何種類か持っていってもらって、ちょうどいいのを選んでもらおう。
side:ゼフィル
翌日
朝ミレイナと一緒に開店準備をしていると、店の目の前に馬車が止まった。
「どうしましたか?開店時間はまだですが。」
「私、王宮に勤めてるザイランと申します。ゼフィル様で間違いないでしょうか。」
「はい。俺がゼフィルですが。」
「頼まれていた品を持ってまいりました。ユイ様とは転送箱でやりとりされていますか?」
「え、頼まれていた品って転送箱ですか?」
「そうですよ。」
はっや。ユイさんとの関係を大切にしているのかな?
「それで、ユイ様と転送箱でやりとりしていらっしゃるなら、送る物のサイズを決めるため転送箱を見せて欲しいんですけど。」
「あ、ごめんなさい。今持ってきますね。」
「お願いします。」
「お待たせしました、これです。」
「結構大きいですね。この大きさだと…これですかね。」
ザイランさんは馬車の中の袋の中から1つの箱を出した。いや、どんだけ入ってるんだよ、いま袋の中満杯だったぞ。
「ありがとうございます。送っておきますね。」
「それと、この手紙も一緒にお願いします。」
「分かりました。」
「じゃあ、失礼します。」
「…あの、お代は?」
「?もちろん無料ですよ。これは借りの分ですから。」
まじですかい。
side:ユイ
うーん。!やばっ、今何時?
あ、ここ異世界だった。
「おっ?」
ふと横を見ると、転送箱の横に2つの箱と手紙があった。これは、期待していいですか?
じゃあ、まず手紙から読みますか。
手紙には、簡単に言うとこの前の借りとして転送箱をあげる、と書いてあった。それと、たまには王都にも来て商品を売って欲しいとも。
まぁ、たまには顔を出そうかな。それはともかく、転送箱ゲットだぜ。じゃーさっそくネリヤさんに届けてこっから出ますか。
…どこに行こうかな。いったん王都に戻って、フェルカナのとこに帰ろうかな。
私はネリヤさんのもとに転送箱を届け、商業ギルドで受付のお姉さんと王都の時と同じやりとりをし、冒険者ギルドで護衛の募集をした。
行きと同じように商隊に申し込まなかったのは、単純に直近で王都に向かう募集がなかったのと、冒険者と話してみたかったから。商隊にも冒険者はいたけど、護衛だったからフレンドリーに話す、と言う感じでは無かった。
依頼を受けるのは冒険者側なのでどんな人かは選べないが、一応Dランク以上・女性含むという条件を付けたし、当然商隊だって一人で行くのだって危険はあるわけでそのある程度のリスクはもうしゃあない。それに、一度でも大きな問題を起こした人はギルドから追放されるらしいしそこまで危ない人はほぼいないはずだ。
翌日
私は朝ごはんを食べに宿のレストランに向かうと、店員に冒険者ギルドからの手紙を渡された。冒険者ギルドでは、冒険者が依頼を受けると依頼者が住んでいる場所に手紙が来るようになっている。
出発は…明日の早朝か。
依頼では、出発日を5日以内の間で受ける側が決めれるようにしておいた。そのおかげかな?すぐに冒険者が見つかったね。
「もぐもぐ」
いや、それにしてもこの朝食おいしいな。これを食べれるのも最後だし、味わって食べよう。
「失礼ですが、ユイ様でお間違いないでしょうか。」
メインを食べ終わり、デザートにさしかかろうとした時1人の若い男性が話しかけてきた。
「そうですが、どなたですか。」
「私、ヴァンパイアハンターのアシュランと申します。この度はユイさんからのご支援をお願いしたく話しかけさせていただきました。」
「はぁ、どんな活動をしているんですか?」
「ユイさんは、ヴァンパイアのことをご存知ですか?」
「吸血鬼ですよね。実在するんですか?」
「はい。ヴァンパイアは、この世界に息を潜めて暮らしていて、私達はそれを滅ぼすための活動をしています。」
「へえ、でも何で滅ぼそうとしてるんですか。ヴァンパイアが何か悪さをしているとか?」
「最近では実害は出ていません。ですが、過去には人間を襲う個体もいましたので、私達は人類の敵と考えています。」
「そうなんですか。でも、私ヴァンパイアのことよく知らないんですよね。もしかしたらいいヴァンパイアもいるかもしれないし、今この場で支援の約束はできないです。」
「そうですか、分かりました。もしご興味がわきましたら、そのときはよろしくお願いします。」
といい、チラシ?のようなものを渡し去っていった。なるほど、いろんなとこに支部みたいのがあるんだね。それにしても、全然普通の人だったな。こういう手合いって厄介なのが多いイメージだったけど。




