第11話
side:アレスト
セラフィナ様がオークションの準備に行かれ、僕は1人、部屋で仕事を片付けていた。
「陛下、今よろしいでしょうか。」
ザイランの声とともに部屋の扉が叩かれる。
「ああ、大丈夫だよ。」
「失礼します。」
「おかえりザイラン。どうだった?」
「ユイ様は今外出中でして、お会いすることはできませんでした。もしかしたら、今日のオークションに参加されるのかもしれません。」
あー、確かに商人ならば女王様主催のオークションには出ようと思うか。
「分かった、ありがとう。」
「それと別件なのですが、リュミエラ様という方をご存知ですか?」
「リュミエラ?」
なんか聞き覚えがあるような…
僕はハッと思い出す。
「まさか、リュミエラ・ヴェルティナ様か?」
「あ、そうです。その方が、許可証を持たず今すぐ陛下に会いたいと受付にいらしてるんですが。」
「わかった、今すぐ通してくれ。くれぐれも失礼のないようにな。」
「部屋と警備はいかがなさいますか?」
「部屋はここでいい。それと警備は無しで頼む。」
「承知いたしました。」
と言い、ザイランは部屋から出ていく。さて、リュミエラ様の話はいつも予測不能だからな。僕も覚悟を決めないと。
「アレスト、久しぶりね。元気してた?」
リュミエラ様が部屋に入ってくる。
「おかげさまで。リュミエラ様もお元気そうで何よりです。」
「そうね。それで、今日来た理由なんだけど…」
なんだ、全く予想がつかない。
「ユイって子のことを教えて欲しいの。」
「ユイ?ユイというと、フェルカナ商店のユイさんのことですか?」
「そうそうその子。もしかして、「アヤ」の人と同一人物だったりしない?」
…これは、言うしかないな。
これを聞くってことはもう半分気づいてるってことで、隠してもいずれバレるだろう。それに、リュミエラ様は秘密を言いふらすような方じゃない。そもそも僕は、命の恩人である彼女に隠し事などできない。
「はい、おっしゃる通り、ユイさんとアヤ様は同一人物です。」
「やっぱりそうよね。」
「あの、あまり他の人には言わないでくださいね。」
「それは分かってるわよ。本人が言わなかったことだし。でも、どうして隠していたのかしら。」
「ああ、それは…」
「まあいいわ、ありがとね。じゃあ、また。」
と言い私が言葉を返す前に出ていってしまった。相変わらず、嵐の様な人だ。
それにしても、やはりリュミエラ様の容姿はずっとお変わりないな。
side:ユイ
私は、ようやく名前を聞けたリュミエラさんと一緒にオークション会場にいた。壇上にいる司会者と女王様の前に数十人が座っていて、その周りには多くの人見学者がいる。参加には幾らかの参加費が必要だ。商品を買う気がない人は、参加費を払わず見学に回ったのだろう。
「それでは、これよりオークションを開始させていただきます。皆様、奮ってご参加ください。」
「今日は、アーグレム王国の商品がたくさん出品されてます。ぜひ競り落としてみてくださいね。」
女王様の言葉に皆が歓声を上げる。リュミエラさんの目もガチだ、私も負けてられないね。
ちなみに現在の所持金は85金貨、つまり8500万円ほどだ。え、私そんなお金持ってたんだ。いつも所持金なんて気にしてなかったから知らなかった。
「まず1品目、一粒で3分空を飛べるキャンディー30個入り。銀貨10枚から。」
空を飛べるキャンディーが銀貨10枚からか。地球の感覚だとあり得ないが、この世界ではそこまで珍しいものじゃないのかもしれない。
私としても、魅力的ではあるがそこまで欲しいものではないかな。いったんスルーで。
「15枚」「20枚」「30枚」
つぎつぎに声が上がる。
「70枚」
若い男が70枚をで入札し、そこで声は止んだ。
「70枚ですね、他にいませんか?…いないようですので、銀貨70枚で落札となります。」
1品目は銀貨70枚まで上がった。なるほど、こんな感じで進んでいくんだね。
「2品目。手鏡、銀貨30枚から」
え?空とぶキャンディーより開始価格高いんだ。うちでも売ろうかな。
最終価格は金貨1枚と銀貨15枚だった。これはフェルカナ商店で発売決定ですね。
「3品目、転送箱2セット!金貨15枚から。」
「転送箱ってなんですか?」
私は、いつの間にか敬語が消えていたリュミエラさんに聞く。
「そのままの意味で、箱に物を入れればもう一つに出てくるってことよ。店とかでもたまに高値で売ってるの見るけど、あそこまで大きいのはあんまりないわねぇ。」
ええ、それ欲しすぎるんですけど。フェルカナ、ガラント商店と繋げば私が旅行してもそっから商品送れんじゃん!
とか思っていたら、入札金額が金貨17枚と銀貨80枚まで行っていた。やっぱり高いか。
「金貨18枚!」
私は手を挙げた。
「銀貨10枚」「20枚」「50枚」
「金貨19枚」
負けてられん。
「いやー厳しい。」
「っまじかー。」
数人が一斉に降りる。
「10枚」
「30枚」
「50枚」
「80枚」
他の人は降りたが、最後の1人が粘ってくる。
「90枚」
「金貨19枚」
「20枚」
「…25枚っ」
「50枚!」
「…」
「金貨19枚と銀貨50枚、他にいらっしゃいませんか?…では、落札です。おめでとうございます!」
よっしゃ勝った。大きな出費だけど今日以外で特に使う予定もないし、手に入れた物のほうが私にとっては価値がある。
「勝ててよかったわね。でも、何でそんなに転送箱が欲しかったの?」
「実は、私もリュミエラさんみたいに旅行に行きたいんですよ!これがあれば旅行先からでも在庫補充ができます。」
「旅行先から在庫補充…?まるで在庫はあなたが生み出しているみたいな言い方ね。」
「あ…。」
「あなた、まだ何か隠してるわね。」
「これは勘弁してください。まだ誰にも言ってないことなので。」
フェルカナたちは知ってるけど。
「まあいいわ、またいつか聞かせてもらうからね」
なんとか許されたようだ。
その後、私は転送箱の他にアーグレム王国の服(3着で銀貨10枚)と歩いた場所が自動で埋まる地図(銀貨75枚)の2つを、リュミエラさんもよくわからないものを3つ競り落としていた。
「今日は楽しかったですね。」
「ああ、そうだな。この手のオークションにしては珍しい物が多かったしな。」
「この手ってどういうことですか?」
「屋外で、見物人がいてのオークションだよ。本当に貴重だったり高価なものを扱う時は客を守るために仮面をつけてやったりするからな。」
「はあーなるほどですね。私からしたら全部が新鮮なものでしたけど。」
「そう、そこなんだよ。」
「何がですか?」
「いや、何でもない。あ、私は数日王都にいるから。また会おうね。」
「あ、はい。またいつか。」




