8話 憂鬱な学園生活
私にとっては非常に、この上なく、残念な事実が判明した。
なんと地の水晶だけでなく、他の三つの水晶玉でも同じだけの強い輝きを放ってしまったのだ。
おかげで目の前の教師たちは円陣を組んでさてどう振り分けるかと相談をしている。
そんな状態では周りも気が付かないわけがない。他の生徒たちの視線もこちらにつきささってくる。
驚き、羨望、嫉妬、疑心……ひそひそと話す声は内容こそわからないが、いいものではないだろう。
「帰りたい……」
植物を育てて狩りをして、家事に少し魔法を使っていただけなのに。こんな騒ぎになるとは思っても見なかった。
「(これも私が咎魔女の娘だからなの?)」
始祖魔導師を殺した魔女の血が、これだけの巨大な力を操っているのだろうか。
だとしたらこの場でもういりませんと投げ捨ててしまいたかった。
「……ふむ。やはり光の総量を見るにアクアクラスが適切か」
え。それはいやだ。
「い、いいえ! アクアクラス以外にしてください!」
一番老齢の教師がそう頷いたのを見て、いてもたってもいられなくなり大声を出してしまう。
ますますひそめく周囲の声にも構っていられなかった。
水属性のアクアクラスは治癒院の創設者、ハイドラ=アクアマリンを始祖として掲げている。
治癒院に所属するような人々が集まる中に入って、万一母のことがばれてしまったら……。
同じ孤児院の子の治癒すら断られ続けたというのに、ただですむとは思えなかった。
「ふむ?そうか、まあこれほど他の才があるのなら希望も多少聞けるが……なら、ウィンドクラスはどうじゃ?」
「は、はい」
もうアクアクラスでなければ何でもいい。
こくこくと頷いて見せれば、「決まりじゃな」と老教師の目が細められた。
「これで全員のクラス分けがなされた!寮はクラスに準ずるものとする。皆の者、寮務教師の案内に従い、速やかに寮へ戻りなさい。明日からカリキュラム及び授業について説明するものとする!」
寮。
昔ティターンからもらった本の話が正しければ、生徒たちが共同で寝食をする場所だったはずだ。
そこにいくということは、本格的に学校に根を下ろすことが決まったということで……。
「…………帰りたい」
思わずがくりと項垂れてしまった。
何度目になるかわからない本音がこぼれる。
歩くたびに柔らかな感触が伝わる濃い緑色の絨毯も、螺旋階段を降りるたびに遠く鳴り響く雷鳴も、光景が変わるたびに歓声を上げる生徒たちも、クリスにとっては恐怖や不安が先に来るものだ。
「やりたいことなんて、見つけられるわけがないわ」
帰りたい気持ちしか浮かんでないのにどうしてと、唇だけで弱音をこぼす。
こうして私、クリスティーナの憂鬱な学園生活は幕を開けたのだった──。
**
学園生活がはじまって一週間。
当たり前だが、私はクラスで浮ききっていた。
最初の二日間はそうではなかったのだ。
どうやら破格の魔力を持っているらしい私は、クラスでも質問攻めをされた。
仮面で顔は分からず、自らの身元は明かせない。家族や親しい友の名前もここで告げることは出来なくなっている。
だがここに来るまでどんな風に過ごしていたのか、食事の作法はどうか、挨拶の手順は。そういった端々の情報をもとに貴族の子女は周りの人々を判断しているらしい。
私はといえば……作法はまあまあだが礼儀がなってない田舎者の娘という判断を落とされたようで、最初の二日間周囲の取り巻きのようにいた人々は気がつけば一気にいなくなっていた。
「ま、一人の方が気楽なのはいいけど……問題はこっちよね」
深くため息をついたのは第四倉庫の薄暗い室内だ。
埃を被った天候観測機や、競技場で使うためのボールや杖。それらと共に私は閉じ込められている状況だった。
ありがちな話だ。
授業が終わったところで先生に荷物を運んでほしいと頼まれて、人気の少ない倉庫へ足を踏み入れたところで外から鍵をかけられる。
悲しいことにこういったことには慣れている。
孤児院でどれだけ嫌がらせを受けたと思っているのか。
犯人が誰なのかを考える気持ちすら失せていた。
「壊したら怒られるかしら……でも寮に帰れなくて晩ご飯食べれない方がいやね……」
気にすることなどそれくらいだ。
「……怒られるよりも呆れられたり同情される方がしゃくだものね」
なにより養父さんは、扉を壊した程度なら笑い飛ばすと思った。これくらい直せばいいだろうとも。
うん、壊して出て直そう。そうしよう。
そうと決まれば早速、扉に手を当てて簡易呪文を口にする。
「シトロエン・ガイア」
大地とそれに連なるもの……例えば木造の扉などに干渉できる地呪文を唱えれば、木造の扉がきしみ、やがてぱきりと音を立てて細かなひびが入る。
ここまで脆くなれば、あとは押せばそのまま出れる。私はそのまま勢いよく力をこめて………。
「な、なんだ!?!?うわっ!!」
「…………あ」
なんと不幸なことか。
誰かに砕けたドアのかけらたちが思い切りぶつかってしまったようだ。




