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43話 また一歩

 治癒室で過ごしている間にそれなりの時間が経っていたらしい。気がつけば太陽は真上近くまで登っていて、屋上の扉を開ければ何グループかが試験を受けていた。


「ごめんなさい、今どこまで進んだかしら?」

「あ、クリス!」


 フェンス側にいる同じグループの二人に声をかければ、ノノミャンがぱっと笑顔を浮かべて振り向いた。その表情に安心よりも先に困惑が出てしまい、つっけんどんな言葉が出てしまう。


「な、なによ。……言っておくけど私はこのまま試験を受けるわよ」

「何の宣言よ、それ」


 くすくすと笑みをこぼしたノノミャンが言うには、属性試験を終えて次は召喚術の順番待ちだそうだ。まだ余裕があるのならよかった。番号と呼ばれた数字を考えればあと二、三組の余裕はありそうだ。


「あ、そうだ。さっきはごめんね。クリスの口を急に抑えちゃって」

「え?ええ……あー、メリュジアが様子おかしかった時?」

「うん。……いえ、正直あそこで変なことを言って喧嘩にならないかなって心配しちゃって」


 喧嘩……喧嘩かぁ。

 なってたかもしれない。あの時はたまたまメリュジアの様子がおかしかったから平気だったけど。


「それに、ええと……ごめんなさい」

「?何が?」


 聞き返せば、バツの悪そうに舌を出してからノノミャンが言葉を続ける。


「クリスって結構ツンツンしてるところあったから、私たちもちょっとあなたのことを誤解してたなって」

「え……ええ?そう?」


 ツンツンしてたか……してたかもな?


「うん。いっつもつまらなさそうに教室の隅っこにいて、授業が終わったら誰にも声をかけずに帰っちゃうんだもん」

「お高くとまってるって印象だったよな。正直声かけにくいっていうか」


 ザファーもうんうんと頷いてくる。


 客観的に見た私、そんな印象だったのか……。


「ご……ごめんなさい?」

「別に謝ることじゃないわよ。そうしないとダメとかおかしいって話じゃないし」


 それはそうだろう。私だって今でも別にきゃっきゃとお喋りしたいかと言われると分からないが勝つ。嫌ってくる人間に無理にすり寄りたいわけでもない。


 でも決して、怖がられたり、変に遠巻きにされて距離を置かれたいわけでもないのだ。



「……どうすればいいのかしら」

「そりゃお前、まずは挨拶からじゃね?」


 ザファーが当たり前のように言ってくる。ノノミャンも「ま、そこよね」と頷いた。


「私たちもこれまでずっとクリスのことを誤解してたなって分かったもの。テストが終わってからはさ、お互いちゃんとおはよう!とかさようなら!って言うようにしようよ」

「…………そんなことでいいの?」

「挨拶はコミュニケーションの基本だからね」


 確かに家にいた頃はティターンといつも挨拶をしていた。同じ家で過ごしている中でもおはようとおやすみの言葉は欠かさなかった。


「そうね……うまく言えるかは分からないけど」

「まずは私たちからも言うようにするよ、そしたら手をあげるとか頭下げるとか笑顔になるとかさ、動きだけでもいいから返してくれたら嬉しいな」

「……うん、頑張ってみるわ」


 そんな話をしていれば、私たちの番号がよばれる。


「お、来た来た。はぁ……式の召喚だるいな……」

「クリスは召喚術も得意なの?」

「人並みだと思うけど……」

「「クリスの人並みは信頼できない」」

「声を揃えて言うこと!?」


「おい、呼ばれたなら早く来い!」


 焦れた先生の言葉に慌てて足取りを早める。少しだけ、試験明けが楽しみになった気がした。



 ***



 召喚術と魔力探知は危なげなくこなせたが、私は治癒室に行っていた分属性魔力の試験を受け損ねてしまっていた。

 せめて一人で受講させてくれないかとモーリス先生に声をかければ「お前はもう免除で構わない」と手を振られてしまう。


「な、何でですか……!?」

「さっきお前が使用した魔法で十分すぎるほどに十分だからだ。あんなのを見て百点未満をつけられる教師はおらん」

「ええ……」


 そんな適当でいいのだろうか。

 いっそジュエルクラスのために底上げしたいからもう一周分と試験を受けさせてもらえないだろうか。

 納得しきれていない私の顔を見て、モーリス先生の眉間のシワが深くなる。


「しのごの言おうと教師陣の間で決まったことだ。……精々試験の結果を楽しみにしてるといい」

「でも……」

「それよりもお前は、向こうの見学をしたらどうだ」


 そう言って先生は隣の棟の屋上を指し示す。あちらでは別クラスの一年生たちが同じように試験を受けている。


「向こうの……?」

「……先ほど報告が来た。ガイアクラスの属性魔法試験はもう直ぐ開始されるそうだ」

「…………!!」


 その言葉に弾かれたようにモーリス先生を見れば、眉を下げながらも笑っていた。

「本当は全ての試験が終了する前に会場から出ることなど許可出来んのだがな。今回は特別だ。行くなら早くするといい」


「……ありがとうございます!」


 ゼータが特訓の成果を出せるかどうかを見られるかもしれない。大きく一礼をして、私は屋上の階段めがけて走りはじめた。

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