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41話 試験前のひと騒動

 実技試験は一・二学年が西棟・東棟の学校の屋上、三学年は体育館、四学年は校庭とそれぞれ別の場所で行うようだ。西棟の上に集められた私たちは強風にあおられながらクラスごとに整列する。


「全員揃ったか。それではこれより試験を開始する。試験はクラスごとに小グループを作り、それぞれに試験管を配置。試験官の指示に従い動いていくことになるからそのつもりでいるように」


 簡単な注意事項の後に名前を呼ばれていく。真っ先にあがったガイアクラスではゼータとキリトが同じグループに呼ばれていた。最後の総合模擬戦だけは実際にグループ内で戦うことになるはずだ。あの二人が戦う……あまり想像がつかないわね。


「……ファイアクラスは以上だ。続いてウィンドクラスはクリス、ザファー、メリュジア、ノノミャン。お前たちが第一グループだ」

「っ、は、はい」


 そんなことを考えていれば私の名前も呼ばれてしまった。しかも、メリュジアと同じグループだ。さぞや何か言われるのだろう。嫌だな……。


 そんな思いとは裏腹に、メリュジアは何も言わずにうつろな顔で前に出る。明らかに以前とは様子が違う。他のグループの人もそれには気が付いているようで、思わず顔を見合わせた。

 二人がお互いをチラ見してから揃って私を見て、互いにもう一度目配せを交わしてからノノミャンがザファーをこづく。

 さながら『誰か声かけなよ。嫌だよなんか言われそう。でもクリスに声をかけさせるのは逆にまずいんじゃない?』のやりとりを眼前で見た気分だ。


「な、なあ。メリュジア。お前調子悪いのか……?」

「調子……?まさか、これ以上ないくらいにいいけど」

「いやどう見……モガッ」


 どう見ても調子がいいとは思えない。声に出そうになった瞬間ノノミャンか私の口を塞いだ。


「それにしたら顔色悪いって。順番回ってくるまでせめて座ってろよ」

「平気よ、だってアレを飲んだんだもの」

「アレ?」


 ザファーの疑問にメリュジアの頬が染まる。恍惚とした表情は見ているだけで不安を掻き立てられた。

「貴方たちは知らないのよね可哀想にあんなとっても素敵な薬草のことをあのお陰で私の今の魔力はすごいのよあの田舎者にだって負けやしないんだからリベラ兄様には感謝しないとあんな薬草があるって教えてくれたんだからでも使いすぎるななんておかしいわよねのめば飲むだけ強くなるのよダイヤモンド級間違いなしよ」

「待って待って!?」

「先生!せんせーい!!」


 誰がどう見ても様子がおかしい。

 ノノミャンが先生を呼ぼうと駆け出したところでメリュジアがぼんやりとした顔のまま「ほら……成果を見せてあげるわ」と手をかかげた。


「エスメラルダ・フォルテッシモ・アグリシア・ウィンド!!!」

「え……っ、」「まずい!!」「きゃぁ!!!」


 その声と共に突風が吹き荒れる。風は束ねて嵐となり、屋上にいる人々を襲った。扉近くにいる人たちは転びそうになりながら校舎の中に戻ろうとして、それ以外の人たちは皆床にしがみつくのに必死になった。


「エ……エスメラルダ・ウィンド!」

 なんて魔力と風の勢いだ。

 慌てて周囲の風を軽減させ、あおられそうになりながら立ち上がる。魔力が爆発するとはもしかしたらこういう現象なのか。だとしたらメリュジアは……。


 ──その時、私の視界に映ったのはメリュジアがそのまま風の勢いに負けて、身体が屋上の端へ、端へと向かう姿。

 普段の彼女ならきっと慌てて床や周りにしがみついただろう。でも我を失っている彼女にはその発想がないようだった。


 無我夢中だった。

 私の足は地面を蹴って、メリュジアの方へと駆け出す。暴風のせいだろうか、誰かが叫んだような音が耳にこだまするのに、誰のものなのか、何を話しているのかわからなかった。


 分かっていたのはこのまま私が手を伸ばさなければ──もしかしたら伸ばしてもメリュジアが屋上から落ちてしまうかもしれないということだけ。

 屋上の端、木で建てられていた柵は風に吹き飛ばされてしまい、その隙間から落ちる彼女に手を伸ばす。届かない。さらに伸ばす。

 手が届いた代償は、私自身の体が宙に投げ出されることだった。永遠にも近い一瞬の中、メリュジアの頭を抱え込みながら私は腕を地面へと突き出す。


「エスメラルダ・フロート・ウィンガ・ウィンド!!」


 下で吹き荒れる突風が私たちが落ちる勢いをころす。そのままもう一つの呪文を私は口にした。


「シトロエン・グロウ・プラント・ガイア!!」


 何もなかったはずの地面を突き破り、草花が芽を出し、茎を伸ばし、葉を伸ばし、茂みを作り出す。

 どさり!!と音を立てた私は鈍い音と痛みこそあれど、大怪我は免れたようだった。


「はぁ……。びっくりした。…………ん?」


 ばくばくと跳ねる心臓を落ち着かせてようやく、私は屋上からもグラウンドからも、はたまた校舎からも大勢の視線に晒されていることに気がついた。

 身を乗り出したゼータがこちらに何かを言っているのか、大きく口を開けている。キリトが慌てて首根っこを引っ掴んで彼を引き戻した。


「おい!クリス、無事か!?!?」

「メリュジアは一体どうなって……!」


 転移魔法や高速を使ったのか、玄関からものすごい勢いで先生たちがこちらに向かってるのが見える。


「……あー、またやらかしちゃったわね」


 思い出すのは入学した時の水晶玉を輝かせた時。

 それでも、その時に比べればずっと、気分は晴れやかだった。

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