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40話 望む成果

「……これはすごいエーテル量ね。バランスも悪いけど、高い数字は本当に高いんじゃない?」


 ゼータの中の魔力量。10が鉱石の期待する内包魔力値、150が人間の平均値だと説明された数字を見て私たちは声を漏らす。


「地属性の魔力が1000を越えてるわね」

「それに水属性も高いですわ。439ということは一般の方の三倍近いでしょう?」

「ふふ、そうだろうそうだろう」

「なんでキリトが自慢げなのよ」


 当のゼータ自身は驚いた顔で紙を眺めているが、最終的に一点に目線を向けて難しそうな顔をしてしまった。


「だが、代わりに火属性と風属性が低いな……」

「そうですわね。風属性は74ですから平均の半分くらいで、火属性に至っては……0.004と」

「全然ないのね……」


 まさか1にも満たないとは思わなかった。これは体の状態がチグハグになるわけだ。検査をしてくれたモーリス先生が自身のあごを撫でる。


「とはいえ、だ。異常が明らかになったことは喜ばしい。解決策を考えるのに繋がるからな」

「そうねえ。エーテルバランスが乱れているなら該当のエーテルを流し込むことで改善するかもしれないし」

「そうだな。ということでクリス、任せたぞ」

「…………はい?」


 当たり前のように肩を叩かれた。

「え、そこは先生がやるところじゃないんですか?ここで私に役割戻すことあります!?」

「当たり前だろう。他人に魔力を流し込むなど繊細な調整と膨大な魔力が必要になる。シャム師なら治癒と同じ要領で調整できるだろうが、私たち一般教師はあくまで論理構成が主だ」


 当たり前のように堂々とサジを放り投げられた。いえ確かに、機械を貸してもらってその操作をしてくれるだけで助かりましたけどね!?


「じゃ、じゃあシャムに頼めば……」

「魔力属性が悪い。彼も水はさておき火のエーテルをそこまでは扱えないだろう。魔力量的にもクリス、お前が適任だ」

「ところでクリス嬢の魔力量を同じ機械で測るとどうなるんです?」


 はーいと声をあげてキリトが手をあげてきた。目は楽しそうに細められている。


「ダイヤモンド級の輝きをあの水晶で放てるとなれば、5000は優に越えているだろうな」

「わぁ……」

「聞いておいてその反応やめてくれない??」


 失礼な男ね。

 ……何にしても私以外できないのなら試す価値はあるだろう。


「じゃあ、明日からはその辺りも試していきましょう。試験まで日も短いからどれくらい効果があるか分からないけど……」

「ねえ、クリス。それって手を握りますの?」

「?ええ。握らなきゃエーテルは流せないもの」


 何を聞いてくるのだろうかとヤーラカーナを見れば、楽しそうに彼女はゼータの肩を人差し指でつついた。


「ですってよ、ゼータ。頑張ってくださいまし♡」

「ヤーラカーナ!!!」


 真っ赤になったゼータがヤーラカーナへと大声を放つ。……いや、一体なんなのよ。



 ***



「ふふ。まあ成果が上がらなくてもゼータからしたら役得だったかもしれませんが……」

「ヤーラカーナ!」


 今もまた、口元を隠して笑うヤーラカーナへとゼータが小声で語気を荒げる。試験が終わったっていうのに元気なことだ。疲れた頭のご褒美に頼んだシャーベットをひと匙食べれば、果物の甘みが口の中に広がる。


「正直試験で目覚ましいほどの結果が出るかは分からないわ。キリトがメリュジアとデートする可能性は十分あるわね」


 私がゼータの魔法の腕前を鍛える話になった大元の話題を掘り返す。デートするとまでは言っていなかったかもしれないが、鍛えられなかったらそれくらいして見せろと言い出すのは想像に難くない。

 キリトもそうなる可能性は理解しているようで、眉を下げながらも口調はのんきなものだった。


「まあ、そこは仕方ないさ。俺としてはクリス嬢がここまでゼータに力を貸してくれただけでありがたいしね。そのキッカケになってくれたメリュジア嬢へお礼のデートを一回くらいするのはやぶさかじゃないというか」


「なんでそこで礼をするのが私じゃないのよ」

「え?クリス嬢にお礼のデートをした方がいい?」

「はっ!?!?」

「いえ、いらないけど」


 本当にいらない。勢いよく振り返るゼータをよそに断れば、ヤーラカーナとキリトが揃ってまた吹き出したところで予鈴が鳴る。そろそろ教室に戻り、最後の試験だ。



 ***



 午後に行う最後の座学は魔法陣術。これは魔法を物質に定着させる時に使う魔法陣を覚える、あるいは新たに生み出す学問だ。一年の試験では描かれた魔法陣がどのような効果を持つのかを答えているのが中心となる。

 魔法が使えない人の生活を豊かにする他に、魔法を使える人が不調でコントロール出来ない時のために備蓄品に刻むこともあった。


 歴史に比べればまだマシな分野ではある。ティターンと暮らしていた時にもいくつか魔法具をティターンが作っていたことがあった。大抵は動物を捕まえる時の罠や、農作物を育てるために定期的に草をむしったり水をあげる道具に刻んでいたか。


 選択肢を埋めていきながら、前の方に座っているメリュジアへと視線を向ける。左右に揺れる姿は他の人たちと比べてもどことなく危うかった。

(集中できてないのかしら……)


 ここ数日ぼんやりと宙を見つめているメリュジアの姿を目にしていた。もっとも、それは彼女一人に限らず、彼女の取り巻きたちにも似たような人はいたけれど。


(風邪でも引いたとか?だとしたら試験の結果もうやむやになってくれたら助かるんだけれど)


 食堂であんなやりとりをしたとはいえ、別に表立って争いわけじゃない。出来ることならこちらには構わず勝手に学園生活を謳歌していてほしい。私の関わらないところで。


「試験終了まであと十五分!」


 監督役の声にはっと我に返り、慌ててペンを握り直す。まずは目の前の試験に集中しよう。少しでもティターンに近づくために。

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