35話 所詮は民間療法(メリュジア視点)
「……はぁ!?一体何を見せられているのよ私は!」
放課後の寮内、一人部屋に閉じ籠りながらメリュジアは深く息を吐き出した。
部屋の中で見ているのは魔法で共有されている光景だ。あの子生意気な推定田舎娘がガイアクラスの劣等生を鍛えることになって以来、特訓とやらを見て真似してやろうとこうして見ていた。
目ではなく鼻で魔力を感知するとか、魔力を外に出して取り込むとか、よく判らない話ばかりやっている彼ら。民間人に噂されている魔力向上のおまじないかしら?
モーリス先生に叱られている姿が映ったところで一度途切れてしまったが、その翌日の休講日に彼らが学校へ呼び出されたことは知っていた。これはひどいお叱りと勉強会の停止を命じられるだろうと、良い気味だと思っていたのに。
ふたを開けてみれば今日また再会をしていて、しかもラブコメの一幕のようなものを見せつけられたわけだ。
「ふっざけてるわね!こんなんで本当に強くなれるわけないでしょうに。……ああ、お可哀想なキリトさま」
部屋には誰もいない中でハンカチで目元を拭う。こんな面々の中にいてしまっては彼もまた得体の知れない奴らに染まってしまう。それを防ぐことこそ私の──メリュジアナ=クォルツ=チャイスの使命だった。
チャイス家は中堅の貴族だ、あるいはなりあがりの成金一族だと心ない中傷を受けたことがある。実際はチャイス家ほど誇り高き家はないというのに。
お父様もお母様もお兄様も皆私を可愛がってくれた。本当は一学年下に生まれたのに、お父様が所属している組織の資料を書き換えて私が入学できるようにしてくれる計らいもあった。
『次の期にシトロンの末裔が入学するそうだ』
『この家は風属性が強いから、先輩後輩だとあまり接点がないかもしれない』
『それなら今のうちに入れるようにしてしまおう。なぁに、お前なら問題ないさ、可愛いメリュー』
『そうだな、メリューは天才だから』
そういってくれたというのに!!
あの女ときたら食堂であろうことか私を指して言ったのだ。魔力量が大したことないなんて!!あんな公衆の面前で!!
──その前に自分も同じようなことをゼータへ告げたことなど棚に上げて枕を壁に投げつけた。
本当に理解できない。
キリトさまのような方が何故あんな面々とつるんでいるのか。メリュジアナはキリトこそがシトロンの末裔だと信じて疑わなかった。秘匿の仮面で顔はわからずとも、所作ふるまいは隠せないものだ。
だから基本のマナーもおぼつかないクリスが田舎娘だとメリュジアには看過できたし、キリトの上流階級のふるまいもすぐに分かった。あれだけ魔法の才能があるガイアクラスの男子生徒、しかも貴族としての立ち振る舞いができている存在は彼をおいて他にいなかった。
ゼータは魔法がてんで駄目そうだし、彼の身の回りを整えるための従者だろう。メリュジアナの周りにもそういった使用人や従者は大勢いた。彼らは自分たちに仕えるための者なのだから扱いに遠慮はいらないと教えてくれたのは父だった。
だからその通りにしてやったのに……再びふつふつと怒りが込み上げてくる。
「絶対絶対見返してやりますから!!覚悟してなさい!!」
……そう大声で宣言してから急に不安が募ってくる。
彼らがやっているのは民間療法めいたやり方だ。途切れ途切れにしか聞こえていない内容だが、恐れるに足りない。私は真面目に学校のプログラムを受けているのだからきっと大丈夫なはずだ。
でももし、いえ。でも……。
しばし悩んだ結果、浮かんだのは一つの案だった。
「……そういえば、お兄様が仰ってたわよね。学園のとある場所に咲いている薬草を飲むと、一時的にだけど魔力が跳ね上がるって」
ただでさえ広大な学園には、時折不思議な場所に繋がる扉や穴、鏡があるという。決まった時間にしか入れなかったり、
探す難易度は高いが煎じて飲めば一時的に魔力が跳ね上がるという。生徒の中にはそれを使ってジュエルクラスに上がったものもいたという。
よし!よくわからない民間療法よりよほど信頼できる。何てったってお兄様の言葉だものね。
「早速明日から探させるとしましょうか。協力者にも煎じた薬を分けてあげて、あとは謝礼をばら撒けばどうとでもなるでしょう」
あの生意気なクリスの鼻をあかして、キリトの目を醒ませてみせよう。それがいい。
結局なあなあになりながら勉強会を終えた彼らの光景を切断して、メリュジアナは大きく伸びをした。




