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33話 シトロンのプリンス

「あら、お気づきになりませんでしたの?……いえ、ずっと森で暮らしていたのなら無理もありませんが」

「それは褒めてる?喧嘩売られてる?」

「事実を述べたまでですわ。喧嘩を売るなら今更まどろっこしいイヤミでなく、まず顔面を狙います」


 それはそれでどうなのよ、治癒院育ちのお嬢様が。

 男二人がいなくなり二人だけになった部屋で、食後の甘いものをつつきながら話を続ける。

 和の国のゼンザイという甘味は食堂で出てくる菓子類との甘味と全く違う。ねっとりと濃厚な味わいを新鮮に口の中で転がす。そのままだと味が濃すぎるから、白いオモチ?とやらを延ばして延ばして、ゼンザイの黒い豆と一緒に食べるのがコツだ。


「それで、メリュジアがちょっかいをかけたってこの間の食堂の話?何でそれがわかったの」


 最終的には私が油を投下してしまった自覚はあるが、わざわざ声をかけてきてまでゼータに嫌がらせをした理由。

 いえ、どんな内容だとしても勉強会に手を抜いたり力を入れすぎることはないと思うけど……。


「ええ。元々学園に入る前から噂になっていましたもの」

「噂?」


 噂とは治癒院でだろうか。治癒院の偉い家のお嬢さまらしいから、立場が上な人たち全般かもしれない。


「そうです。今期はシトロンの系譜が入学すると」

「シトロン……地の始祖魔導師よね」


 以前の歴史の授業を思い出そうとする。たしか、この国の王も兼任していて子孫が役割を継いでいるのがシトロンだったか。


「ええ。シトロンの直系ということは間違いなくガイアクラスに入学するでしょうし、たとえ次期国王でなくとも王家の血を継ぐ者とお近づきになりたいと思う方は多いでしょうね」


 ……いまいちピンとこない。要は偉くなるかもしれない人にお近づきになりたいという話だろうが。


「それとメリュジアの件と、何が関係してるのよ」

「ですから、キリトをシトロンの直系と思って近づこうと考えてる可能性があるという話ですわ」

「キリトを?」


 黄色いこれはお芋かしら。ホクホクとした感触を味わいながらヤーラカーナを見た。


「ええ。彼は地魔法の腕も高いですし、普段の立ち振る舞いを見ても気品がある。うまくいけば王家に取り入れるとあれば下位の貴族ほど見過ごせません。何せこの学園ではお互いの身分を気にせずに近づける最大の場なのですから」


「……お貴族さまって大変ね。顔もわからないのに人探しをして仲良くなろうとするなんて」

 しかもそれは空回ってるように思う。だってキリトがゼータを蔑ろにする相手と仲良くするようにはとても思えないからだ。


「ええ。なので必死になっているのでしょうね……それが逆効果ともしらずに」

「大変ねえ」


 素直な感想を口にして最後の一口をほおばる。

 この店の料理はどれも美味しいものだった。また何かの時に来てもいいけど……一人じゃなんだかんだ来ない気もした。他の人と食べるからこそここまで美味しくなるのだと、クリスはもう知っていたから。


 だからまたこの味を楽しみたいなら彼らと来ないと意味がない。今度は試験が終わった後に、打ち上げとしてくるのはどうだろう。早速ヤーラカーナに提案しようと顔を上げたら、どこか疲れた様子の半目と鉢当たった。


「どうしたのよ、そんな変な顔して。疲れたの?」

「いいえ……クリスって存外そういう話に鈍いのですわね」

「当たり前じゃない」


 貴族連中の思惑など、森で暮らし続けていた私に何の関係があるのか。素直に伝えてもなお、ヤーラカーナの歯切れは悪い。


「う〜ん……そう仰る気はしていましたが……いえ、そもそもの確認なのですが、クリス?」

「なによ?」

「ゼータのこと、どう思っていらっしゃいます?仮面を外されたでしょう」


 うん、確かに外していた。


「わざわざあそこで顔をさらすなんて無茶するわねと思ったわね。だってあんなことしてもゼータに得はないし、見せられた側だって困らない?」

「…………はぁ〜……」


 思ったままを伝えると眉間に手を当てて深々とため息をつかれた。え!?なんで!?!?


「わ、私変なこと言った!?」

「いえ……そうですよね。一方の常識が他方にとっても常識であるはずがありませんものね。分かってはおりましたが……そうですか、あの顔を見てもその反応」


「???」


 嘆くヤーラカーナの意図が分からない。そうこうしているうちに肩をぽんと叩かれる感触がした。振り返ってみればキリトの満面の笑みだ。


「あら、おかえりなさ……」

「いやぁ、さっすがクリス嬢!そのままでいてほしいなぁ〜」「……戻って最初に言うことがそれ?」


 ジト目でにらみつけてやってもまるで応えた調子がない。レシートを持った手を、旗を振るようにひらひらと……ん?レシート?


「ちょっと!?もしかして勝手に会計済ませてきたの?」

「うん、今日は俺の奢りね〜」

「いやいや、自分で食べた分は払うわよ」


 たしかに昼飯くらい奢れといったのは私だけど!?


「いいのいいの。ここのお昼代くらいなら皆分出してもそんなに懐は痛まないし?」


 四人分のお昼代を……?


「……あー、これだけ寛大だったらそりゃメリュジアもあれだけアプローチするわよね」


 そう呟いたら「まっっったく分かっていらっしゃらないじゃないの!!!」とヤーラカーナの大きな声が聞こえてきた。……本当に何なの!?

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