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31話 商塔での食事会

 総合商塔の二十四階。

 穴場だとヤーラカーナが教えてくれた店はさほど待つことなく入ることができる。メニューは猪肉のステーキなどのがっつりしたものから黒小麦でできたパンにパスタ、東洋の国から輸入したという食材でできた煮込み料理など多種多様だ。


「全然見たことない料理もあるわね……このページ真っ赤すぎない?」

「あ、このマークがついているものは辛いので、苦手な方には向いていませんわよ」


 ヤーラカーナに教えてもらいながら料理を選ぶ。頭を使って疲れていたのでがっつりとした食べ物と甘いものが欲しくて、中にチーズが入っているというハンバーグとケーキを注文した。


 四人分の注文を終えた個室の中でゼータが目を輝かせる。


「どんな味がするんだろうな。楽しみだ!」

「まあ、あなたも普段はこんな場所に来るはずがありませんものね……」


 どこか納得した顔をするヤーラカーナ。一体何の話だろうか。ゼータ自身には心当たりがあったようで、身を縮こまらせる。


「う……察しがついたのか」

「ええ。私もそこまで時勢に強いわけではありませんが、それくらいは」


「何のこと?」

 意味深なやり取りに口を挟むが、肩をすくめているのを見るに二人とも教えてくれる様子はなさそうだ。


「まあまあ、クリス嬢。そういうのは聞かぬが華というものだよ。クリス嬢だって何も話せない状態であれこれ聞かれても困るだろ?」

「……ま、それはそうね」


 ついさっきまで聞かれていた側としては、聞かれたくないことや聞かれて困ったことだらけだったものだ。

 料理が届く前に飲み物が席へと順に置かれていく。グラスを手に取りキリトが立ち上がった。


「何にせよ、これで勉強会チーム存続の危機は保たれた。互いを労って乾杯しようじゃないか!」

「おい、何でお前が仕切るんだ」

「全くですわ。頑張ってたのはクリスでしょう。それとゼータも」


「別にいいけど。……今日は休みだったのに、来てくれて、一緒にいてくれてありがとうね、みんな」


 その言葉に、三人がめいめいに笑みを浮かべる。……少しくすぐったい。


「では、乾杯!」


 掲げたグラスを重ね合う音に、一歩遅れて私もグラスを掲げあげた。



 ***



 お勧めされるだけのことはあり、届いた料理はサラダやスープもふくめてどれもおいしかった。

 野菜はさすがに採れたてには負けるけれど、それでも風魔法で鮮度を保っていたのがわかるし、ドレッシングがクリーミーで野菜の甘みを引き立てる。スープはスパイスが効いていて、これだけで朝ごはんだったら満足していたかも知れない。メインのハンバーグを一口切った時のチーズがとろける具合と、その味といったら!


「おいしい……!これ、家でも作れないかしら」


 鹿や猪は部位によっては柔らかいけれど、ここまで柔らかいお肉は食べた覚えがなかった。


「どうでしょう。ここまで細かくお肉をミンチにするには専用の機械が必要だと聞いたことがありますが……」

「いやあ、でもクリス嬢の魔法ならいけるんじゃない?風魔法で細切れにする感じでさ」


 それにこうして話をしながら和やかな食事も久しぶりだ。この間の食堂のような乱入者が現れることもなく、ゆっくりと食事は進む。


「そうでしたわ、クリス。私あの後部屋に戻ってからも魔力の感知と集約を試していたんですの」

「えっ!?」


 ヤーラカーナの言葉にフォークが止まる。


「昨日のあの流れで、夜にやったの……?」



 先生に怒られて問題視されていた、そのタイミングで?

 信じられなかったがヤーラカーナはやけにすっきりとした顔で笑みを浮かべる。


「ええ、勿論。だって教えていただいた集約のやり方を忘れないうちに実践したくて。あの場ではゼータに先を越されてしまいましたが、長引くようなら私も割って入るつもりでしたの」


「ふむ……ということは、僕は君の見せ場を奪ってしまったわけか」


 それはすまない、なんて大真面目な顔でゼータが頭を下げる。


「あら、そんなことありませんわ。あんな場所で仮面を外す気概は私もありませんでしたし」


「……そうだ。その件については俺もお前に物申したいぞ、ゼータ」


 キリトが不機嫌そうな声を出す。と、いうか。こんな声を出すキリトを見るのは初めてだ。


「……もしかしてだけど、キリトは前からゼータの事情を知ってたの?」


 秘匿の仮面を外せば身の上を話すことは可能だ。私がすでにヤーラカーナにティターンとの生活を教えていたように、ゼータもキリトに事情を話していた可能性はある。


「…………ん、まあそんなとこ」

「魔力不感能症の話も?」


 だとしたら納得がいくのだ。メリュジアとの話で強引に私を巻き込んだ件や、ジュエルクラスの話まで持ち出してそれを頷かせたのが。


「まあそんなとこ。トイレ行ってくる」


 あいまいに濁すことこそがその証拠だろう。立ち上がったキリトの後ろ姿に鼻息を鳴らす。

 ──全く。だったら最初から素直に言えばいいのよ。


 仮面のせいで言えなかったことが多々あったことも事実だろうが。友だちのためなら、クリスだって正面から頼んでくれれば無碍にはしないのに。



「あいつ、逃げたな……悪い。ちょっと様子を見てくる」

「あんたも人がいいわね……行ってらっしゃい」


 ゼータが彼の後を追いかけて、残ったのは女性二人。


「全く……仮面ってのは便利だけど不便よね」

「全くですわ。とはいえ、少しだけメリュジアが何であんなちょっかいをかけたのか分かる気がします」

「んぇ?」


 あれ、今そんな話してたっけ?

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