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3話 魔法でできること

 ティターンの養女(むすめ)として引き取られて、数ヶ月経ったところでいくつか分かったことがある。


 養父はずいぶんと出不精らしいこと。

 私が引き取られて以来、森から出た様子がない。日がな家のことをやりながら、思い出したように私に文字の読み書きや計算、魔法の基本について教えてくれる。


 雨の降る今日もまた、小屋の一室、炎のエーテルを宿したランプが家を温める中で私たちは向かい合っていた。

 コツコツと、ティターンの人差し指がノートの中央を叩く。端には名前や単語の書き取りに、魔法で使うエーテルの構成式が描かれていた。四角い図形と一つの線。六属性を示した構図だ。


「生きるために知識は有用だ。お前がこの先どんな道を歩むにしても基本最低限の知識を得て損はない」


 ティターンの一人芝居のような声に私は顔を上げる。


「……魔法も?」

「ん?」


「読み書きや計算は分かるけど、魔法はなくても生きていけるわ。それに私は……咎魔女の娘よ」


「それがどうした。魔法の才は血縁的な素養もあるが、最も重要なのは日々の鍛錬だ。お前がどれほど才能ある魔法使いの娘だろうと、使わなければ腐るだけだぞ」


「……そう言う意味じゃなかったんだけど」


 咎魔女の娘を魔法に触れさせることへの忌避を……この男が持っているとも思えなかった。本当に変人だが、憎めない。


「治癒院はお前を拒絶するだろうが、治癒術を別に覚えておけば厄介になる必要もない。クリスがこの先も無事に過ごすなら覚えておいたほうがいいだろう」


 クリスと私の名を呼ぶ声も優しいから、つい反発をしようと思う気が失せる。緩みかけていた筆を握る手が強くなった。



 もう一つ分かったこととして、ティターンは魔法に長けているらしい。

 普通、魔法使いといっても地水火風の属性で得意苦手があるものだと聞く。だが彼は当たり前のようにあらゆる属性を操り、どれに当てはまるかも分からない魔法すらも扱っていた。


「でも、水魔法で魚の鮮度を保つとか、使い方しょぼくない?」


 昔話で聞いた魔法は。……あるいは、咎人と呼ばれる母が魔法で引き起こした所業はそれよりもずっと恐ろしいものだった。

 魔族を倒し、森や川の地形を変えて。そういった自然を変えるほどの力を持つ魔法使いすら殺す力。


「何を言う。魔法を応用して生活を豊かにするのは風の商会もやっていることだ。始祖魔導師が一人、エメラルド卿が編み出した考えを使わないなどもったいない」


「……そういうもの?」

「そういうものだ。全ての属性の応用を学べば、少なくとも生きるのに困りはしない」


「……そっか。じゃあ頑張る」



 ティターンに拾われてからずっと、この森から出ていない。それでもいいと思えるほどにここは居心地が良かった。外の世界になんて出たくない。ずっと彼とここで二人、穏やかに生きれたら。

 そのために必要なものの一つが知識なら。


養父(とう)さん」

「ん?どうした」

「さっきの魚を保存する方法、教えて」

「ははっ。ずいぶんと意欲的だな」


 頑張って知りたいと思った。この生活を守るためにも。

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