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27話 葛藤と夢

「先生!だからそれは!」


 批難の声を上げるゼータに厳しい顔で横に首を振るモーリスは、もう一度言い切った。


「いいや、これは譲れない。この学園は魔法の最高学問機関でもある。そこで知られていない魔法体系を放置するなど論外だ。もしその技術が問題ならもう他の生徒に広めないよう勧告の必要もあるし、それを拒むなら退学の選択肢もある」


 退学。

 その一言に体の動きが止まる。学校に帰れないと諦めていたけれど、そんな抜け道があったなんて。……でも。


「だったらせめて、僕たちの同席を認めてください。教諭の皆様方でクリスを囲むなど!」

「そうですわね。複数人相手に一人は心細いでしょう。それとも先生方は生徒を皆で囲んで詰問する趣味でもおありで?」


 ゼータとヤーラカーナの二人が前に出て執りなしてくれている間、私の頭はずっとぐるぐるし通しだった。



 ──え。これで「いやです話したくありません」って上手くできたら晴れて退学できるんじゃない!?


 ──いやいや。万一話したら、ティターンが最悪捕まっちゃったりしないの!?



「……同席者をこちらで狭めることはしない。だがクリスの事情をその場で聞くこととなる。彼女の同意がなければ同席は許せん」



「それは……そうだな。秘匿の仮面を外して話す以上、僕たちもクリスの顔を見ることになる」

「あら、ゼータはまだ見ていらっしゃらなかったの?」

「そりゃあそうだろう。……クリス、どうだろうか。行っても問題はないか?」


 ゼータが振り返ってこちらを見たことにも気がつかないまま、私は物思いに沈んでいた。ヤーラカーナが顔を覗きこんで再度呼びかける。


「クリス。……クリス?」

「「クリス!!」」

「っ!?な、なな、何かしら!?」


 しまいには二人に挟まれるような形で大きな声をかけられて体が飛び上がった。



「明日のあなたへの聴講会、私たちも言ってよろしいかしら?」

「もちろん、君が事情を僕らに聞かせたくないと、仮面をはずすのをためらうなら……無理にとは言えない。でも、心配なんだ」



 二人の言葉に一瞬言葉が詰まる。


 どうしよう、流石に二人の前で話したくありません退学したくないですとダダをこねるのは恥ずかしい。

 ……いや、そもそも退学したら彼らにはきっと会えなくなるのだ。


 ヤーラカーナはまだ名前を知っているから探せばどこの人かは分かるだろう。でも治癒院の出身の彼女に咎魔女の娘が易々と会えるとは思えなかった。

 ゼータに至っては彼のことを何も知らない。たとえもし私が街に行く未来があって、そこですれ違っても……お互い気がつくことすらないのだ。


 ………………。……それは、いやだな。


「……ううん。一緒に来てくれたら心強いわ。きっと話そうって、思えるようになる」


 彼らとまださようならを言いたくはなかった。

 不幸中の幸いなことに今回問題になっている話はティターンに教えられた魔法についてだ。母の、咎魔女の件についてではない。

 それならきっと、彼らの前で話しても友だちでいられると思いたかった。


「そうか。なら明日の10時に職員室前に来なさい。改めてそこで話を聞かせてもらおう」



 ***



 その夜、夢の中に出てきたのはティターンだった。

 二人で過ごした家で、二人で向かい合いながら温かなミルクを飲んでいた。


「ねえ、ティターン。……学園で過ごすって難しいわね」


 家で過ごしていた私が学校の話をするわけがない。だというのに夢の中の私は当然のようにその話題を切り出して、ティターンも「どうしたんだ、急に」と問いかけてきた。


「私ね、ティターンがいればそれでよかったの。だってティターンはいつだって笑いながら私の頭を撫でてくれたから」


 だからどんな手段を使っても帰れるのならよかったのだ。帰省ができると聞いたから、勉強会をすることになったりしていた。ウィンドクラスの人と仲良くなる気も最初からなかったから、倉庫に閉じ込められても何かいうつもりもなかった。


 なのに、もしこれで彼らに会えなくなったらと思った時にティターンから教えてもらった魔法について話さない選択が頭から飛んでしまってたのだ。



「教えてもらったのに、ひどい裏切りよね……ごめんなさい」


 嫌われたくない。この人だけには見限られたくない。

 そんな一心で頭を下げる。ティターンがそんな時になんていうか、私は自分でもわかっているのに。彼の手が私の頭を撫でる。温もりはない夢の中の手。


「何を謝る必要がある。言っただろう、世界を知り、人を知る機会を得なさいと。そのために歩き出しているお前を否定などするつもりはないさ」


 彼ならそういうと思っていた。ほっとしたような寂しいような気持ちになりながらも、その夢はゆっくりと光に溶けていった。

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