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26話 爆発と問題

「ご、誤解です先生。教室で爆発なんて起こしてません……!」


 開け放たれた部屋の入り口に立つ一学年の担当主任、モーリス先生へ慌ててとりなす。

 私は怒られたことはないけれど、授業が開始するときにお喋りをしている生徒に喋るのをやめるか教室から出ていくか好きにしろと言い放った時の圧は忘れられない。言われた本人でないのに胃が重くなった心地だった。


「たしかに今は魔力量も落ち着いているようだが……先ほど職員室で警報が鳴り響いた。大気中六割ほどの魔力濃度を感知したと」


 もう一度、皆の視線がこちらへと注がれる。私もそこに来てようやく理解した。もしかしてさっきの属性把握クイズが原因……!?


「え、ええと……魔力の入った空気って吸い込みすぎると問題があったりするんでしょうか」


 だとしたらまずい。

 本当にまずい。


 だってさっき私はこの教室を魔力で満たしてしまっていた。この部屋にいる人々は私の魔力で満ちた空気をさっきまで吸っていたのだ。もちろん体外集約で放出した魔力は全て自分の身に納めたが、濃い魔力を彼らも短時間ではあるが吸っているのも確かだ。もしそれが彼らに害をなすと言うなら……考えるだけでゾッとする。



「いいや。むしろ取り込んだ側はより強い魔力にさらされることで対魔力強度が増すという研究結果も出ている」


「そうなの?ラッキー」

 キリトののんきな声が聞こえてきて思わずうめき声がもれる。

 その反応はさっきまで魔力で部屋が満たされていた──先生曰く魔力の爆発が起きていたって認めるのと同義でしょ!!


「やはり魔力爆発が起きたんだな!?!?」


 ほら!


「誰だ、魔力を爆発させたのは!早く治癒室でしかるべき処置をせねば最悪魔力喪失症になるかのうせ、い、が……」



 教室中の目線が私に向けられる。

 気のせいだろうか、ゼータの目はちょっとキラキラしているように見えたし、キリトに至ってはちょっと笑いをこらえてるように見える。今度あいつに理由をつけて飲み物でも奢らせてやる。絶対だ。


「…………はい……私です」


 そう告げれば、モーリス先生は目に見えて動揺する。


「く、クリス。君が……?いや、たしかに入学時の君の魔力量を考えれば部屋を満たす事は可能だろうが、それでもあの濃度のアラートが四回もなるほどの魔力を放出したら倒れていてもおかしくないぞ!?」


「体内に集約したので……」

「しゅ、集約?それはなんだね?」


 戸惑う先生に事情を説明していく。

 今度の試験に向けて魔力量を増やすために体外集約という方法を教えていて、その延長で自分以外の魔力を目以外で感知する方法を教えていたのだと。


 ……ひとまず皆に害があることじゃなかったらしいし、次からちゃんと報告しろよ、くらいに収まったらいいなあ。

 そんな祈りが届く気配もなく、一通り説明を終えたところでモーリス先生は難しい顔をして腕を組んでしまった。


「ううむ……いや、魔力感知の方法として嗅覚や聴覚、触覚などを活用する方法はある。より上級の感知方法として学年が上がれば君たちも学ぶことだろう」


「じゃあ、その方法は良くあるものなのですわね?」


 ヤーラカーナが心なしか弾んだ声だ。

 魔力感知が苦手といっていたから、これをうまく活かせる道があることを喜んでいるのだろう。


 一方で、モーリス先生の視線はさっきから私を見続けている。


「そうだ。だが……問題は体外集約についてだ。そのように一度出した魔力を身体に戻すなんて聞いたことがない。クリス、そのやり方は誰から教わったんだ」


 強い語気に体が強張る。叱られる感覚というのは何度味わっても慣れるものでない。……違う。私一人が叱られるだけなら身を縮こませて相手が満足するのを待つだけだ。


 でもモーリス先生が気にしているのは私が誰からこの方法を教わったのか。

 方法を教えてくれた人が……ティターンが、もしかしたら悪く言われてしまうかもしれない。問題にされるかもしれない。そう思ったら喉から息をうまく吐き出せなくなってしまった。


「……モーリス教諭」


 歩み出る人がいた。ゼータだ。

 彼は庇うように私の目の前に立ち、先生の視線を受け止める。


「そんなきつい物言いはやめてください。僕は彼女から、これとは違う方法で魔力を扱う術を学びました。学園で学ぶ体系と違っても、信頼をおけるものかと」


 庇ってくれている……のだろうか。

 少しだけ息を吐いて、吸う。ようやく空気を取り込めた。


「それに、彼女もですが僕ら生徒は秘匿の仮面を身につけています。どれだけ教諭が聞こうと、彼女が身の上をここで話せるわけがない」


 その言葉に先生も頭をかいて視線を空へと泳がせる。

 張り詰めていた教室の空気がゆるみかけて……再び満ちた。


「たしかに、ここで事情を聞くのは酷だったな。それはこちらの配慮が足りなかった。……だが、我々教師が知らない魔法体系を使っているとなれば放置もできない」


「……だったらどうしろっていうの。このやり方をやめて、学園のカリキュラムだけをやれっていうのかしら」


 それでも私は構わなかった。……異論を唱えたのはキリトだ。


「いやいや、それは先生方の横暴がすぎるんじゃないかい?学園が知らない秘術を彼女の師が知っていただけの可能性もあるだろう?」


「そうだ。だからクリス、明日は休講日だが学校に来い。秘匿の仮面を外し、他の教師も交えて改めて事情を話してもらおう」

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