25話 五感と感知
「魔法感知のタイプ、ですか?」
「ええ。ヤーラカーナは外に出た魔力がわからないって言うけど、それは目を使って魔力を見ようとしてるからよ」
私の言葉に皆が揃って首を傾げる。……え、まさかこの考えも一般的じゃないのかしら。ティターンに教えてもらった常識がこうも違っているとなると、ただでさえある不安が大きくなっていく。
「ごほん。……君のいうことを今更疑うつもりはないよ。まが、目以外の何で魔力を感じるというんだ?クリス」
「え、ええと。五感でならどれでも感じようと思えば感じられるのよ。でも目の次に使いやすいのは鼻、その次に耳かしら」
「鼻と耳で魔力を?」
キリトの不思議そうな言葉に頷く。こういうのは口頭で話すよりも実際にやってみせたほうがいい。
「皆、目を閉じてちょうだい。今から私が部屋をそれぞれの属性で順番に満たしていくから、どれがどの属性か考えてみて」
全員が目を閉じたのを確かめてから私は魔力を魔法へと変換しないまま、手のひらからゆっくりと放出する。
まずは風、火、水、そしてもう一度火の順番で。部屋を自らの魔力で満たしてから体内に集約し、もう一度別の属性で部屋を満たす。それを繰り返す動作。一つコツがあるのは、火と水はただ放出するだけだと部屋を温めて、あるいは凍えさせてしまう。室内の温度を上げるようにもう片方の手で温度を調整することで、単純な温度の変化をなくして行なった。
「……よし、こんな感じよ。じゃあ順番に聞いていくわね。最初の属性は何だったと思う?」
「水」「風じゃないか?」「風……だと思いますわ」
意外なことにキリトが水、後の二人が風をあげる。
「どうしてそう思ったの?」
「なんとなく肌寒く感じたからね」
「空気がきれいになった感じがしたから……かな」
「私もゼータに同じく。それと鼻の通りがスッキリした気がしましたの」
同じように他の属性を聞いてみれば、キリトがおよそ半分、ゼータが七割、そして魔力が分からないといったヤーラカーナ自身も七割の正答率だった。
ゼータがキリトに魔法関係で上回ることは滅多にないようで、分かりやすく勝ち誇っているのが微笑ましい。だが同じ正答率を出したヤーラカーナは納得がいってないようで上目遣いでこちらを睨んできた。
「そこは四属性全部出すところじゃございませんの!?」
「そんなの分かりやすすぎるじゃない。引っかけの一つは必要よ」
それに問題に正解することが目的じゃない。
「大事なのは大気に満ちるエーテルをざっくりでも感じ取れたってこと。目に比べると精度は落ちるけど、訓練をすればかぎ分けもできるようになると思うわ。
体外集約をする時にも内側から外に出すんじゃなくて、手のひらの中をそのエーテルの香りで満たして、その香りをもう片方の手の中に取り入れるイメージでやってみればいいのよ」
「……!」
私の言葉にヤーラカーナの目が大きく見開かれる。
……あとはうまくいくか、彼女自身の問題だ。少し時間をおいて見守ろう。
自身の掌を握っては開く彼女から一歩距離を取ると、ゼータがこちらへと歩み寄ってきた。まだ先ほどのやりとりの余韻か、嬉しそうに笑みを浮かべている。
「あらゼータ、ずいぶんとご機嫌そうじゃない」
「それはもちろん。久々にキリトの鼻をあかせたんだ。普通の魔力感知じゃこうはいかない」
「そういうもの……あー、かもしれないわね」
目を使う魔力感知は魔力さえ目に貯めればいいから、実のところ使いやすいのも事実だ。
一方で属性の香りを嗅ぐというのは感覚的なものが強い。
「何で言えばいいのかしら、属性の魔法を使いこなそうと研鑽すればするほど研ぎ澄まされるものなのよ」
「つまり?」
「ゼータが感知できたってことはこれまで魔法を使おうとしていたその成果が出た……ってことじゃないかしら」
そう言えば、ゼータの目が大きく見開かれた。
「……そう、なのだろうか。だったら嬉しい」
きっとそうよ、と微笑みを返そうとしたところで……大きな音を立てて扉が開く。
「きゃっ!?」
扉の向こうにいたのは一学年の担当主任、モーリス先生だった。まだ壮年と呼ぶには若い年頃の先生は、顔を真っ赤にして私たちを見渡す。
「おい!この教室で魔力を大暴発させたやつは誰だ!?」
………………。
…………。
……皆の目線がこっちに向いている。
……えっ、まさか私!?




