23話 体外集約
「……という事情ですの。あまり詳しいお話はできませんでしたが、自らの学びを研鑽させるための集まりとならば断る理由もありませんでしたので」
放課後、学園の一室。
その時間なら申請をすれば誰でも使える小教室の一つに私とヤーラカーナ、そしてゼータとキリトの四人が向かい合っていた。
昨日のヤーラカーナとの会話の詳細までは話さなかったが、試験のために意欲を見せる少女を見て男子生徒二人は笑みを浮かべて頷いた。
「なるほどね!いきなり別クラスのお嬢さんがいて何事かと思ったが」
「ヤーラカーナか。君も勉強会に参加してくれるのだな、よろしく頼む」
ゼータとキリトに相談もなく誘ってしまっていたので、改めて事情を説明したところで快諾してくれたことに安堵する。
二人が名乗りを終えたところで、ヤーラカーナが頷いた。
「ゼータとキリトですわね。にしても、ガイアクラスの二人となんてどこでお知り合いに?」
「おや、それはヤーラカーナ嬢もじゃないか?……なんえ、アクアクラスの才媛の噂は俺も聞いているよ。大なり小なり他クラスだろうと噂は入ってくるものだろう?」
キリトの笑みにヤーラカーナの視線は自然と鋭くなる。
「……ふうん、まあよいでしょう。あなた方の噂は私も聞いたことがありますし」
「……へえ。まあそうか、有名どころには有名だろうしね」
「?」
気のせいだろうか。二人の言い回しがずいぶんと含んだように聞こえる。
何のことだろうかとゼータを見れば、彼も困惑したように私の方を見る。
……とにかく、このままの空気はよろしくない。
目線だけで同じ思考に入ったのだろう。ゼータが咳払いをして二人に話しかけた。
「二人とも、今日の本題に入っていいだろうか」
「ああ、悪い悪い。今日は体外集約のやり方を教えてくれるんだったか」
「体外集約?」
「魔力を一度体の外に出して廻らせて、もう一度体内に取り込むの。これをやると水属性や風属性の魔力が活性化して、効果が増すのよ」
一度例をやってみせた方がわかりやすいだろう。
両手を前に突き出して「手のあたりから私の周りを見てて」と告げる。
魔力は本来目に見えないものだ。
分かりやすくするためにわざと水の魔力に地の魔力も混ぜて視認性をあげる。
そのまま魔力を水の球体をイメージして放出する。
手のひらから浮かび上がった魔力は、私の周囲を三周した後にもう反対の手に吸い込まれていった。
その光景に湧き立ったのはゼータとキリトだった。
「……!!すごい、魔力がこんなふうに動くものなんだな!!」
「へえ、見事なもんだ」
う、なんかいたたまれない。
ただ昔教えてもらったやり方を繰り返してるだけなのだけど……。両頬がもごもことゆれるのを、誤魔化すように咳払いした。
「実際はここまで何周もする必要はないんだけどね。手のひらの端を器を作るイメージでくっつけて、手のひらから手のひらに魔力が通せれば十分よ」
「へえ、じゃあ今のはパフォーマンスってこと?」
「……まあ、外に魔力が出てる時間が長ければ長いほどいいけど。でもそうすると今度は集約が大変なのよ」
自分以外の魔力を操るのは至難の業だ。
外に一度でも出してしまえば外部のエーテルとも混ざり合い、引き込むことが難しくなってしまう。
クリスだって、昔は今伝えた手のひらを近づけた状態で移動させるのがやっとだったのだ。
「慣れてきたら距離を離すのもいいけど、まずは出した魔力をちゃんと体の中に戻すのになれることが大事よ」
「ふんふん、それじゃあ早速やってみようか。ゼータ、魔力を出すのは出来そうかい?」
「……っ!なめるな、クリスに循環の手伝いをしてもらってから少しは魔力を出せるようになったんだからな!」
循環についてはあくまで詰まりを一つ解消させただけだから……どこかでまた様子を確認した方がいいのだけど。
何にせよ、地・火属性の循環とは仕組みが違う。本人がやる気なら一度見守ることにしよう。
***
十分ほど彼らの試行錯誤を見守り、アドバイスをしていく。当たり前だが結果は個々人で異なっていて、私も少しばかり驚かされた。
「……一発で成功させるとか変なところ器用よね、あんた」
「あはは、クリス嬢にお褒め預かり光栄ですよ」
キリトは全く問題なくこなしていく。
改めて考えたら何でこいつここにいるのかしら……いや、例の対決を言い出したのはキリトなんだから、いうだけ言って放置よりは全然いいのだけど。
対決の矢面に立つゼータは、以前の時点で想像はしていたが魔力を出すことの方に四苦八苦しているようだった。
「力んだところで魔力は出ないわ。むしろ風や水のエーテルを放出するときは、トンネルをイメージするの」
「トンネル?」
「ええ。後ろから押し出すんじゃなくて、自然と流れるように……って言えばいいのかしら」
地や火は熱をもつものだから押し出すようなエネルギーを与えるのは悪いことではない。だが風や水は熱を持たないものだから、逆にエネルギーを与えることで相殺することもあった。
「自然と、流れるように……、……!!こうか!?クリス」
そう説明するだけで本当にわずかだが魔力を出せたのだから、ゼータはもしかしたら地属性よりも風属性寄りなのかもしれない。
「ええ、その感覚を練習してから、循環させるトンネルをイメージしてみて」
ゼータが練習をする間に、後一人を確かめようと振り返ったところで私は絶句する。
「…………え?」
何と、床が水浸しになっていたのだ。
そしてその中央に、崩れ落ちるヤーラカーナの姿があった。




