22話 昔話と提案ひとつ
──あれはたしか、ティターンとともに暮らすようになって一月半くらいのことだった。
料理や狩りにも使えるからと教えてくれた火の魔法。とても小さな火の玉を生み出して草を燃やせたのは、私にとって衝撃的なことだった。
その気になれば誰かを傷つけることだって出来る魔法。
この力があれば孤児院の人たちを見返せるかと……あの時いじめてごめんなさいと言ってくれるかと。眠る前に尋ねたことがあった。
『……クリス、きっとお前は分かった上でそれを口にしているのだろう。だから俺も半端な返答はやめるとしよう』
そんな前置きとともに、寝台に横たわる私の髪をあの人は柔らかくかき混ぜた。
『お前が求めているのが言葉だけなら、力に任せて蹂躙すればその言葉も手に入るだろう。だがそれは理解も感情もない虚無だ。きっとお前は、それでは満足しきれないよ』
分かっていた話だった。私も分かっていて、それでも胸に空いた傷を埋めたくてティターンにすがったのだ。
手のひらの熱を感じながら私はあの時なんと続けたのだろうか。
詳しい内容は覚えてないけれど不公平だと、彼らにされた行いをひたすらに養父に訴えていた気がする。
その全てを彼は頷きながら、時折短い相槌や私の当時の感情を聞き出してくれていた。
『……私がこれだけ傷ついたって伝えても、ダメなのかな』
『どうだろうな。結局のところ相手による』
分かっていたことだけれど世界は不条理だ。
頬を膨らませて寝台そばの椅子に腰掛けるティターンに手を伸ばせば、暖かな手に包み込まれた。
『自らの非を認め謝罪を出来るものは少ない。それが出来るものは誠実な人間か、お前に対して誠実でありたいと思ってくれる人間だ』
『……誠実で、ありたい』
『ああ。……過去のお前を傷つけていたやつを俺は知らん。だが、お前がこの先そうして誠実にありたいと互いに思える相手が出来ればいいと願っているよ』
***
……ううん……。
思ったよりも長くなってしまった。
「え、ええと。説明が下手でごめんなさい。とにかく、私はあなたがそうやって謝ってくれたのは嬉しいと思うわ。私にか自分にかは分からないけど、誠実であろうとしてくれてるって伝わったから」
これでいいのかしら。……いいのかしら。
上から目線みたいな物言いになってないわよね。
こういう時なんて言えばいいかわからなくてどうにも落ち着かない。
カップのお茶を勢いよく飲み込んでから顔を上げれば、口を開閉させながら顔を赤くしているヤーラカーナの姿がそこにはあった。
「……ヤーラカーナ?」
「っ!何でもございませんわ!こほんっ……つまり、ええと。私の謝罪を受け入れてくれると、そう思ってよろしいのね?」
「ええ。……さすがに二回目がもしあったら、私も相応に怒るけど」
「間違ってもあんなみっともないやり方は致しませんわ」
そんな会話をしていれば、部屋に、寮に鈴の音が響き渡る。
後30分で消灯の時間だ。
「……!もうこんな時間!?そろそろ寮に戻らないとまずいんじゃ……」
「そ、そうですわね。……でしたら帰る前にこれだけ」
お互いお茶を飲み終えて空になったカップを持ち上げようとする前に、手で制される。
悩みはするが……水で軽くすすぐだけなら水魔法で出来る。一度座り直すことにした。
ヤーラカーナの青い瞳が私を見つめる。
「私は治癒院で生まれ、あの中で育ちました。たとえどのような方でも分け隔てなく癒やし救うのが治癒院の信条。あなたやあなたに類するものがそこからこぼれ落ちてしまっていたなら、それを許してはおけません」
「……」
「ですから私はまず、それを確かめることをしたいと思います。そのためにはまず実家に戻らねばなりませんが……帰省は長期休暇の、最短で半年後しかできませんのがもどかしいですわね……」
「あの、それなら」
思わず言いそうになった提案に、きっと一番驚いていたのは私だろう。それでもその声は止まらなかった。
「私たち……私とあの場にいた二人なんだけど、中間試験に向けて勉強会をするつもりなの」
「ああ、彼女との口喧嘩を聞いていた感じ、そんな流れでしたわね」
「ええ。私はジュエルクラスを目指してるのもあるけど……あなたも、一緒にそこで勉強しない?」




