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21話 仮面下の吐露

「……は?」


 何を言われたか分からない、というようにあんぐりと口を開けたヤーラカーナ。


 けれども沸騰するお湯のように次第にグラグラと体を震わせて、ついには立ち上がって身を乗り出してくる。


「よくもまあ、そんな言いがかりを!いつ私たちが、あなたを拒んだというのです!!」


 ──ああ。私はまた言葉を間違えてしまったのかもしれない。


 心臓が嫌な音を立てる中、どう話せばいいのかともつれる舌を必死に動かす。


「ええと……ちがう、あなたじゃ、あなたじゃない。でもあなたたちが……」


「どっちなんですの!?もっとハキハキ喋りなさい!」

「こんな状態でハキハキ喋れるわけないでしょ!」


 次第に涙声になってきた私を見て、ヤーラカーナも大きく深呼吸をする。


「はああ……失礼、取り乱しましたわ。でもあなたの言い方も悪いですわよ」


「う……分かってるわよ」


「分かってるのならもう少し、順序立てて説明しなさいませ!そっちと言いますが、アクアクラスの人間に入学前に嫌がらせをされでもしました?仮面がないのなら身の上くらい話せるでしょう」


 そういいながら、ヤーラカーナ自身も仮面を外す。

 これまでは分からなかったが、栗色の髪を高い位置でまとめた彼女の表情は凛々しく、誇りの高さが顔立ちにも現れていた。


「アクアクラスじゃないわよ……その上。あそこって実質卒業生のほとんどが治癒院に行くでしょ」


「それはもちろん、ハイドラ=アクアマリン様が司る組織であり水属性の本拠地ともいえる場所ですもの。……まさか、治癒院に嫌がらせをされたと?そんなことありえませんわ」


 はっきりと言いきったヤーラカーナに好感と苛立ちの両方が浮かぶ。


「あそこは全ての方に平等に治療を行う組織。平民も貴族も受けられる治療に貴賎はありません。あなたがどれほど貧しい家の出であろうと……」


「でも、私は断られたわ。私だけじゃない、同じ孤児院にいる子たち全員が」


 彼女に怒りをぶつけるのはお門違いだと分かっていてもいらだちが声に出てしまう。


「そのせいで追い出された。そのことはどう説明をつけてくれるの?」


「それは……」


 そこではっきりと傷ついた顔をしたヤーラカーナにはっと息を呑む。


 ああ、まただ。またやりすぎてしまった。


「…………ごめんなさい。あなたを責めても何も解決しないし、こんな話だけしても迷惑よね」


 誤魔化すようにマグカップの一つを手に取りティーパックを取り出す。揺れ動く水面をぼんやりと見つめた。


「…………いいえ」


「え?」


「解決しないなど、そんなことありますか!私はプレヴァイス=ヤーラカーナ。治癒院幹部の娘なれば!

 私が直接お父さまに問いただしてそのような事実があったか聞けば分かること!もしあなたのいうことが真実なら、そんなこと二度としないよう、私が組織を改革すればよいことでわ!」


 …………。


「ええと……」


 待ってほしい。情報量が多すぎる。


 秘匿の仮面を外していても本名まで告げてしまうのはよかったのかとか。


 ヤーラカーナは名字だったのかとか。

 他の人はそれに気がついていないのかとか。


 真実なら……本当に組織を改革してくれるのかとか。

 私の正体を知っても同じことが言えるのかとか。


 浮かぶ疑問はたくさんあるけれど、口にできたのはほんの細やかなことだった。


「……っていうか、治癒院の幹部の娘さんって、私本当に失礼なこと言ってない?」


「失礼なのは本当にそうですわね!」


「ご、ごめんなさい……」


「いいえ。もしあなたのいう話が事実だというなら、そもそも私は二つ謝罪をせねばなりません」


 完全に立ち上がっていたヤーラカーナは、マグカップを手に取った。パックを外して口をつけ、「いい香りがしますわね、これ」とほほえむ。


 それからカップを置いて、まっすぐと私を見つめて頭を下げた。


「昼間の渡り廊下のこと。本当にごめんなさい。私、あなたに嫉妬していましたの。この学園に入って私、自分こそが一番の水属性使いでありたいと思っていたから。それなのにあなたがあんなに強い光を放って。

 ……だというのにアクアクラスはいやだというから、あんな嫌がらせをしてしまいました。

 未熟な行いだったと今は恥じていますわ」


 ……。

 単純だと自分でも呆れてしまったけれど。その言葉を聞いて私は胸の中の彼女に対するしこりのようなものがすっと消えていくのを感じる。


 もちろん口だけなら何とでも言えるでしょうというひねくれた気持ちもちょっとだけ残ってるけれど。


「……少しだけ、養父(とう)さんの話をしてもいいかしら」


「おとうさま、の?」


「うん。私を拾って育てて、治癒魔法とかを教えてくれた人が言ってくれた昔話」


 不思議そうにしながらもヤーラカーナは改めてカップを取り、私の方を静かに見つめる。


 私は目を閉じて、はじめて火の魔法を使えるようになった日の夜の話をはじめることにした。


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