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15話 いまさらの話

 お昼に入ってすぐの食堂はいつだって賑やかだ。

 クリスがついた時にはまだどのメニューも残っていたので、お気に入りのポトフとパンをトレイにとって席へと向かう。


 どこも四人がけのテーブルしかないのがここの欠点よね。ちょうど空いていた席について手を合わせたところで「クリス」と名を呼ぶ声が聞こえた。


「あらゼータ、さっきぶりね」

「おいおいお嬢さん。さっき置いて行っておいてその言い方はないんじゃないか?」


 こちらに近づいてくるゼータの後ろ、ひょこりと顔を覗かせたのは……ええと、たしかキリなんちゃらとか呼ばれていたはずだ。


「一緒に行こうなんて約束してなかったし、人数が多い方が席を探すのも大変じゃない」

「なら今せっかく席も空いてるしいっしょに座るのは構わない?」

「問題ないけど……」


 言い終わるか終わらないかの時に「なら遠慮なく」と向かいの席に座る男子生徒に声を荒げたのはゼータだった。


「キリト!だからお前はまず……、」


「分かってますよ。お嬢さん、さっきは悪かったね」


「何が?」


 別に彼らに何かをされた覚えはないし、そんな状態で謝られても不気味さしか感じない。

 警戒するように目を細めれば「おっと、また言葉選びを間違えたか」とキリトと呼ばれた生徒はトレイを置いた両手をあげた。


「なら言いかえようか。俺のダチのゼータが世話になったんだろ?ありがとな」


「ああ、そのこと。別にあなたにお礼を言われることじゃないわ。私は私でお礼くらいのつもりだったし」


 大したことができたわけでもない。


 パンをちぎってポトフに浸して食べる。

 ふにゃっとしたパンを口の中で噛んだときにスープがにじむのがおいしいと教えてくれたのはティターンだった。



「いやあ、入学して魔法をすぐ教えられるなんて並大抵のものじゃない」


「我流だけどね……というか」


 口がぺらぺらと回る男子生徒を見る。

 ハンバーグを頼んだ彼のフォークとナイフの使い方はキレイだが、それ以前の礼儀がなっていないのではないだろうか。


「私、あなたの名前も知らないのだけど。私はクリスよ」


 人に名前を聞くならまず自分から。

 名前を人伝に聞いた相手だとしても最低限の礼儀は必要でしょ。


「……。……ああ!これは失礼、自己紹介が遅れたね。俺はキリト。君が面倒を見てくれたゼータの兄貴分さ」


 それまではずっと丁寧なフォークとナイフ遣いをしていたゼータがフォークでキリトを指す。


「おい、誰が兄貴分だ。歳は同じだし面倒は僕のほうが見てるだろ」


「嫌だなあ。一歩間違えたら無茶をしがちなゼータが変なところに突撃しないようにちゃんと目配りしてるのはこっちだっての」


 ……よく分からないけど、仲がいいようでなによりだわ。


 とはいえ私はゼータほどキリトに好感を持てる自信はなかった。

 ずっと笑顔なのに、その目の奥が冷たいのだ。昔私を使用人がわりにしようと拾った婦人を思い出す。


 が、この食事の場をそんな言葉で荒らすのもためらわれる。

 やりとりが収まるのを待ってから、無難な挨拶を返すことにした。


「よろしくね、キリト」


「うん、よろしくクリス嬢。にしても、クリス嬢ほど魔法の才能があるならこの学園では引っ張りだこだろう」


「そんなことないわよ」


 本当にそんなことはない。

 と、いうか、一人で食事を取ろうとしている今がそれを一番わかりやすく示している。


 最初の数日はいっしょに食事をとりもしたけれど、一週間も立てばおおよそ仲良しグループが作られるものだ。そういったものに入る方法も分からなければ、そこまでの意欲を持てなかった私はこうして一人食事を取るのが常だった。


「魔法が使えるかよりはよっぽど、人あたりとかマナーとか共通の話題とか、友だち作りにはそういったものの方が必要でしょ」


「君はないのかい?そういったものが」


「あったら今頃他の人とご飯を食べてるわね。友だちなんて出来たことないわ」


「えっ」


 ばっと振り向いたゼータ。

 急にどうしたのかしら?


「何か気になることでもあったの?」


「……いや、気になることというか……」


 食事の手もすっかり止めた彼は、口を何度も開いては閉じている。

 一体どうしたのだろうか。

 ポトフのジャガイモをつぶしながら食べていると、ようやく決心したように彼は言葉をつむいだ。


「その……、……僕はもう、クリスと友だちになっていたつもりだったから」


 残っていたジャガイモの固まりが喉につまってむせる。


「……え、は、ひや?」


 しまった。絶対変な声が出た。今。

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