14話 仮面下の話(キリト視点)
渡り廊下の真ん中で、さてどうするかとキリトは口元に手を当てる。
前方にはもう小さくなってしまった女子生徒の背中。
隣には自身の親友、ゼータが手を彷徨わせて呆然と突っ立っていた。
ここは学園の中。
仮面を外すことは出来ないし人目もある。
だからよそいきのまま、軽い調子でキリトはゼータの肩を叩いた。
「あ〜……ゼータ、あんまり気にすんなよ。さっきのお嬢さんもそんなに気にした様子はなかったろ?」
「…………だが、クリスにあんなことを言わせてしまった」
お前のせいだぞ、としょぼくれながらもにらまれて思わずのけぞる。うーん、言い方がちょっと悪かったか。
「ま、そこは俺も同意するけどさ? でもこの学園じゃ自分の身の上なんてろくに話せないんだ。多少向こうの地雷を踏むのは仕方ないって」
全く厄介な話だ。
秘匿の仮面をつけてしまえば互いの立場がわからない。相手の価値観がわからない状態で交流を深めることは、大なり小なりトラブルを避けられない状況だった。
そう俺がとりなしても、ゼータの顔色は悪いままだ。
「……まったく、なんだゼータ。あのお嬢さんに惚れたのか?」
「!?!?ほ!!!?」
俯いていたゼータの顔が真っ赤に染まってキリトを見る。二人の脇を戸惑った様子でチラチラ見ながら女子生徒が歩いていった。
「ほれ……。い、いや違う!というかそもそも、声をかけようと言い出したのはキリトだろう!」
「いやそうなんだけどさ」
隣で百面相している生真面目な男、ゼータのことはこの学園に入る前から知っていた。
秘匿の仮面はつけてからのあらゆることを隠しおおす。
たとえ入学前に互いに名乗る仮名を交換しあっていても、仮面をはめている間はその名を思い出すことすら叶わない。
だが唯一の例外がある。
始祖魔導士の中でも唯一血筋での継承を是としているシトロンの子孫たち。王家の直系とその付き人兼護衛だけは、互いの仮名を握ったまま仮面を被ることが許されていた。
そして王家の血筋であるゼータ……ゼヴォウタルタ=イダ=シンス。彼は地の直系でありながら魔力をほとんど操れぬ魔力不感能症として生まれてしまった。
魔力が少ない彼がこの学園に入れたのは、ひとえに王家の血筋だというのと、彼の病を学園で研究するため。
乳母兄弟であり主人である彼が魔法使いだらけの学園に入学させられるなんて、どれほど残酷なことをしているのかと陛下にも不敬を覚悟で訴えもしたのだ。
それが結果的に良い方に転んだのだから、先ほどの少女には感謝しかない。
「ゼータの憂鬱面を吹き飛ばしてくれたんだから、そりゃ兄貴分からしたら感謝の一つや二つ、送ってやりたいものだろ?」
「だったら余計な無駄口をたたかなければよかっただろう。ほら、いくぞ」
「はいはい」
「ちゃんとクリスに謝罪しろよ」
「分かってるって。あのお嬢さんに嫌われたいわけじゃないならな」
魔力不感能症を治せるかもしれない力を持つ少女。
彼女ならゼータの魔法をもっともっと強くできるかもしれない。
魔法の使えない王子だと王宮で居場所のなかった彼のためなら、キリトゥスはいくら頭を下げても奸計をしかけても構わなかった。
「さ、そうと決まれば行こうぜゼータ。あの感じじゃ彼女一人でお昼を食べるだろ。お前から押せばいっしょに食事くらい簡単だって!」
「っ、だから彼女はそんなんじゃ……」
「そう?じゃ俺が声かけていっしょに飯食うわ」
ゼータの背中を軽く押してから駆け出せば、「おい!お前彼女に迷惑をかけるんじゃないだろうな!」とよく通る声が聞こえてきた。
本当、こういうところがクソ真面目なんだよな。
愛すべき異母兄弟のためにひと働きするのは苦ではない。ひとまずは昼食の席を取ろうかと食堂へ足を向けた。




