11話 廻りの改善
翌日の放課後、お互いに授業終わりにまっすぐここへ来たのだろう。ほぼ同時に校舎のはずれにたどりついて、顔を見あわせる。
「どうも。じゃあ早速だがはじめようか、よろしく、クリス先生」
「先生なんてやめてちょうだい。魔力は強いらしいけど魔法の専門的な話なんてさっぱりなんだから」
実践の授業はさておき、その他はよほどゼータの方が詳しいだろう。ガイアクラスで配られた教科書をパラパラとめくりながらそう呟く。
「そうなのか?魔法を学ぶうちに専門の話も聞くだろう」
「日々の生活のために、実践的な使い方を教えてもらってただけだもの。私が魔法でできるのなんて、料理と洗濯と草刈りと、魚釣りと熊を倒すだけよ」
「熊を倒せるのか!???」
森にはたまに鹿や熊が出てくるから、護身として火と地の呪文を使った倒し方をティターンが教えてくれていた。
……もしかしてあれって異常だったのかしら。異常だったかも。結論をつけてから教科書を閉じる。
「逆にだけれど……私、ゼータがどれくらい魔法についてここに来るまで勉強したのかわからないんだけど。四大属性のエーテル構成については知ってるのよね」
「ああ。火と地、風と水がそれぞれ相関関係、火と水、風と地が相反する関係にあるという話だろう」
「ええ。そのなかで火と地が体内循環、風と水が体外集約でそれぞれエーテルを活性化させるっていう」
「……体内?体外?」
相関、相反を知っててそちらを知らないのね。
ゼータの先生、一体どんな話をしているのかしら。あるいはふつうは学ばないものなのか。
「ええと、どっちも自分の魔力を使うのは間違いないんだけど、それを強くさせるには循環が大事になるの。でも人の体は血肉があり、熱がある。
だから温めることが重要な火と地の属性は自分の中で回すのが大事で、逆に冷やすことが重要な水と風は一度外を通して強めたものを集約する方がいいのよ」
「……全然知らないぞ、そんなこと」
「光と闇の属性は逆に、人の外側にある温かいエーテルと人の内側にある冷たいエーテルを使うんだけど……まずは循環のやり方を覚えた方がいいかしら。手、出してちょうだい」
ゼータは戸惑いながらも手を差し出してくる。その手をすくうように下から手を添えた。
「……っ、」
「目を閉じて、今から私がゼータの手の延長になって火のエーテルを流すから。その熱を足、手、頭、心臓と順に届けるのをイメージするの」
かつて養父に教えてもらった方法を伝えれば、ぴくりと震えた手が握り返される。それを合図としてゆっくりと、少しずつ魔力を流していく。
体外集約を学んだ時に養父に水のエーテルを流したことがあるけれど、その時よりもずっと流す感覚が鈍い。
「……なんかこう、だいぶ詰まってるわね」
「つまってるとはなんだ、つまってるとは」
「ううん、うまく言えないけど……細長い管に水を流すと水が流れるでしょ? でも管に石とか変なものが詰まってたらうまく流れないでしょ? そんな感じ」
ゼータがうまく魔力を操れないのはこの詰まっている感覚が原因じゃないだろうか。
「ごめん、ちょっとだけ出力を上げるわね。もし火傷したら後で治すから」
「分かった。遠慮しないでやってくれ」
とろ火を弱火に変えるくらいのわずかな変化だが、肌に痛みを感じたのだろう。ゼータの指先がふるえる。それでも握る手の力は変わらないのは彼の精神力のたまものだろう。
詰まっている小石を、管を傷つけないように慎重に取り外すイメージで火の満ち引きを続ければ、とあるタイミングでぱちんと噛み合った感じがした。
「あ、通った」
一度手を離す。腕から足に至るまでの箇所の異常を整えた形だ。
「なんでも……はよくないわよね。地か火の魔法を唱えてみてくれない?」
「あ、ああ……」
おどろいた顔をしてから、ゼータが頷く。
ガイアクラス所属だと言っていたから地魔法の方が身近なのだろう。地面に膝をつき、そこいらに生えている雑草へと手を伸ばした。
「シトロエン・グロウ・プラント・ガイア」
普段私がサボって唱える簡易詠唱ではなく、正式な呪文が聞こえてくる。
手をかかげた先の雑草が一つだけその茎を伸ばし、葉を伸ばし、つぼみをつけるまで到達した。
…………。
……………き、気まずい。
思ったよりも成果がしょっぱかった……。
言い出しておいて全然改善できてないじゃないか。
「……うーん、まだええと……その、調子が悪い場所があるのかも」
「すごい!!!」
「ひぇっ!?」
目を泳がせていた私は、満面の笑みで肩を掴んでくるゼータに気がつかなかった。
思わず変な声をあげるが、ゼータはそれにも構うことなく瞳を輝かせて私を見る。
「今までこんな、目で見てわかるほどにはっきりとした成長なんてさせられなかったのに。クリスのおかげだ!ありがとう!!」
「え、えええ……」




