10話 提案と約束
「…………ごめんなさい、迷惑をかけたわ」
涙はいつかは止まるもので。
それでも一分や二分ではすまない時間泣き続けてしまった。借りたハンカチでぬぐっている目元はたぶん真っ赤に染まっているだろう。
目の前でそれを見てしまい困惑しきりだった同級生、ゼータにあらためて頭を下げる。
「別にいいさ。あの状態のレディを放置するなんて失礼な真似をするつもりはない」
「どうも……でも、それじゃ私の気がすまないわ」
せめて何かお詫びかお礼にできることがあればいいのだけど。
先ほどの会話を思い出す。
──魔力量が最低値だったんだ。君と逆でね。だからどの授業でも足を引っ張ってる。
「……ねえ。お詫びになるか分からないけど、もし良かったら教えてあげましょうか」
「ん?何を」
肩を小さく丸めながら提案する。
「……魔法の鍛え方」
もしかしたらゼータのプライドを傷つけることになるかもしれない。
でもティターンが昔教えてくれた。魔法の才は血縁的な素養もあるが、最も重要なのは日々の鍛錬だと。
鍛錬のやり方を学ぶことで、彼の魔力も伸びるかもしれない。
一瞬彼の眉が下がったのが見えて、あわてて言葉を重ねる。
「い、嫌ならもちろんいいの。教えるっていっても私も聞き齧っただけだから!でも、四大属性は授業で習うかもだけど、残りの二属性はカリキュラムにもなかったし……」
「二属性?何を言ってるんだ。属性は地水火風の四つだけだろう?」
その言葉に面食らったのは私の方だった。
「嘘。養父さんは六属性だって言ってたわ。地水火風にあと二つ、光と闇が存在するって」
「光と闇……!?嘘だ。そんなの家庭教師にも聞いたことないぞ!」
家庭教師がいたなんて、それなりに身分の高い家の出なのだろう。
とはいえ私にどちらが正しいかなんて分からない。肩をすくめて言葉を続けた。
「嘘だと思うなら信じなくてもいいわ。でも私はそう教わったの。二つの属性は魔法の基盤でもあるから、鍛錬をした方がいいって」
ゼータは疑っているのを隠さないままこちらを睨みつけてくるが、やがて小さく息を吐き出した。
「……まあ、それが本当なら二つの属性とやらを鍛えている君の魔力が強いことも納得がいくけど。でも信じられないな。君のいう父親の名前を聞きたいところだけど……」
なら告げようではないか。そう思い口を開けようとして、声が出ない。
そうか。秘匿の仮面をつけている間は伝えられないんだ。彼もそれは想像していたようで、鼻を鳴らして腕をくんだ。
「無理そうだな。仕方ないか。……実際、君の魔力が強いのも確かだし、いいだろう」
「なにが?」
「ひとまず明日、放課後の時間を空けよう。その間にその鍛え方とやらを教えてくれ。それが本当ならとても助かるし、何より教師たちにも伝えてカリキュラムに組み込むべきだ」
……言い出したのは私だが、受け入れられるとは思わなかった。思わず口を開けてから、いくどか首を縦にふる。
「え、ええ。分かったわ」
「よし。じゃあ改めて。これからよろしく、クリス」
差し出された手。こわごわと握ればティターンよりも冷たいけれど、確かに熱がそこにあった。
「……ええ、よろしく。ゼータ」




