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1話 雪と暖かな手

 その人と出会ったのは雪が降りしきる日の橋の下だった。


「ずいぶんと妙なところにいるな。寒さ耐久でもしているのか?」


 身をちぢこませてしゃがみ込む私。

 寒くてたまらないその姿を見つけた外套(コート)の男は笑いながら問いかけてきた。


 もちろん望んでこんな場所にいるわけがないというのに。

 わざとらしい男の言い方が気に食わなくて、大きく息を吐き出して見せた。


「そんな趣味の悪いことをするやつの気が知れないわね」

「いや、意外とそうでもない。最近は水属性の魔法の特訓だかで貴族連中に人気なんだ」

「貴族って頭が悪いの?」


 思わず口をついで出た答えを聞いて、男は愉快そうに肩を揺らす。


「はっは。そうかもしれないな。それで?趣味じゃないならなぜこんなところにいるんだ」


 似たようなことを聞いてくる人は何人かいた。孤児院や治癒院に連れて行こうとしてくれる人も。


 でもそうした優しい人たちはみんな、次の言葉を聞いたら嫌そうな顔をして私の腕を振り払い、突き飛ばしていった。



「行く場所がないのよ。私は咎魔女、エカチェリーナ=ヴィヴィアンの娘だから」



 この地を荒らす魔族たちを退け、ユウェール王国を興したとされる始祖魔導師。彼らが創設した組織や魔法により国は栄え、多くの人々が豊かな生活を送れている。この国の誰もが尊敬する存在たち。

 ……そのうちの一人を殺したのが、私の母だった。


 水の魔法使いであり治癒院で多くの人々を癒したハイドラ=アクアマリン。それを殺した咎人の娘がまともな生活を送れるはずもない。孤児院を転々としながらも、私がいる孤児院は治癒院が治療をしてくれないからと、病気の子どもが出てくるたびに追い出されていた。


 一番最近は……ああ、そうだった。自分と娘の小間使いとしてつかおうと引き取った家で、一週間もたたずに娘が風邪をひいたんだった。

 咎魔女の娘の居所を治癒院は理解しているようで、がんとして治療を受けつけてくれなかったと苦々しい顔で彼らは家の扉を指さしたんだったか。



 だから目の前の男も嫌そうな顔をして立ち去ると思ったのに。あろうことかそいつは目を瞬かせてから思いきり、声を上げて笑いはじめたのだ。


「はっ、はははは!お前が咎魔女の娘!?」

「……何がおかしいのよ」

「ははは……!いや、ははっ、失礼。確かに噂に聞く月のような銀髪は母親ゆずりか」


 泥や砂で汚れて見る影もない髪を見てそう言えるとは。間違いない。この男は変人だ。変人らしい男はひとしきり笑いが治まったところで、またとんでもない提案をしてきた。


「なるほど、ここで会ったのも何かの縁か。咎魔女の娘、お前は俺が引き取ろう」


「…………は??」


 思わず見上げてまじまじと男の顔を見る。てっきりニヤニヤと笑っているかと思ったのに、その顔は真剣だった。まだ十歳になったばかりの私よりもずっと大きい、大人の男性。


「やめたほうがいいわよ。私が家にいると治癒院からろくな扱いをされなくなるから」


「あいにく頑丈なのが売りでな。治癒院など生まれてこのかた行ったことがない」


「それが本当ならあなたは木の根っこから生まれてきたのね」

「おや、俺の生まれをよく知っているな」


 ふざけた物言いをする男だ。


「変人ね」


 ぶたれる可能性も思わず飛んで口に出してしまった。

 まず、とあわてて口を押さえるが、男は気にせず鷹揚(おうよう)と笑い、手を差し出す。


「ははっ、素直なようで結構。なに、俺は存外気まぐれな性質でな。その一環だと思うがいい」


 差し出された手を見つめていれば、「それで来るのか?来ないのか?」と声が聞こえてくる。


「……正気?私の事情は話したでしょ。気まぐれにもほどがあるわよ」


「俺が聞きたいのはお前の事情ではなく、お前の意思だ。ここで寒空の下耐久訓練をしたいなら別だが」

「……そんなこと、あるわけがないわ」


 そこまでいうのならいいだろうと、手を伸ばして男の手を握りしめた。

 何をされるかは分からない。でも一人でここにい続けるよりはマシだと思いたかった。


「決まりだな。俺はティターンという。お前は?」


「……クリスティーナ。クリスティーナ=ヴィヴィアン」


「クリスティーナか。では行こうか。お前のこれから住まう家に」

「…………うん」


 歩きだす彼に手を引かれてついていく。記憶に残る中ではじめてにも近いほど、温かい手だった。

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