芝浦 真理枝②
真理枝視点です。
ツムジ君と相思相愛の仲となってから数ヶ月の時が流れた……。
あれから何度も大地達の目を盗んでツムジ君と互いに愛を深め続けた。
夫との行為とは比べ物にもならない甘美なひと時……。
下のモノの大きさや性経験は年齢ゆえに、未熟としか言えないけれど……それもまた愛らしくて良いと思う。
愛し合う場所は決まって、夫婦の寝室……。
愛が薄れているとはいえ……夫を裏切っているという背徳感はピリっとした刺激を私に与えてくれる。
ツムジ君には理解できていないみたいだけど……。
「葉……ママ、これからお友達の所に行ってくるから……迎えにくるまで、葉もお友達と外で仲良く遊んでてね??」
「うん!」
もちろん、葉には私達の行為を見られないように細心の注意を払っている。
幼い子供にこう言った行為を見せてはいけない……そんなの常識でしょう?
まあ幼いと言っても……ツムジ君は別……。
だって……私の運命の人なんだから……。
もともと外で遊ぶことが好きで、友達も多い超アウトドアな子だから……私が何もしなくても、自分から家を出て行ってくれるから楽だ。
保護者が必要な場合は……近所に住んでいる孫好きな私の両親が代行者になってくれるしね。
大地は仕事で家を空ける時間が多いし……みぃちゃんは私にツムジ君を預けてよくパートに出ている。
だから私とツムジ君の仲が知られることはないし……2人の時間を作るのも想像以上に容易だった。
やっぱり私達は……結ばれる運命なんだと、改めて思った。
-------------------------------------
「葉君ママ……葉君ママぁ……」
最初こそ……何も分からないまま私に身をゆだねるだけだったツムジ君も……次第に自ら本能的に私を求めるようになっていった。
「ツムジ君……お願い。 私の事……真理枝って呼んで……今だけ……お願い」
葉君ママなんて……他人行儀な呼び方はもう嫌だった……。
私達はもう夫婦同然なんだから……。
とはいえ……人前でそう呼ばれれば、私達の仲を匂わせる危険がある。
だからせめて……2人で過ごしているこの瞬間くらいは……。
「まっ真理枝……さん……」
何度もお願いしている内に……私の想いがツムジ君に届いた。
初めて名前を呼ばれた時は……耳に心地よい何かを感じた……。
まるで初恋の人に”初めて”を捧げることができたような……そんな達成感のようなものが、快楽と共に体に流れて来る……。
「あっあなたぁぁぁ!!」
これからもこの幸せは続く……。
いつまでも……私達は愛し合っていく……。
そう……信じていた……。
-------------------------------------
「はぁ……はぁ……いぃ……」
この日……私は”人払い”を済ませ、いつものように愛するツムジ君と愛を深めていた。
もう何度も体を重ねてきたけど……今だに2人の熱は冷めない。
ホント……私達は前世から結ばれる運命だったんじゃないのかもしれない……。
本音を言えば、大地と別れてツムジ君と結婚したい……彼も絶対に同じ気持ちだ。
でも……それは現実的に厳しい。
ツムジ君は小学1年生……義務教育を受けたばかりで経済力なんてものはない。
そんな状態じゃ、葉を引き取って3人で生活を始めても……すぐに苦しい生活に堕ちてしまう。
ツムジ君と葉をそんな目に遭わせるわけにはいかない。
それに彼との仲がバレようがバレまいが……私から離婚を切り出せば、大地に慰謝料を請求されるだろう……。
そうなったら専業主婦で、ろくに貯金がない私ではどうしようもない。
だからこそ……バレる訳にはいかない。
それに……大地を裏切っているこの背徳感を失うのも嫌だしね。
以前は浮気なんて最低な行為だと思っていたけど……ツムジ君と相思相愛になった今は、浮気は人生における1つの選択肢として認められても良いと思っている。
まあなんにしても……”私達”を養うためにせいぜい頑張って働いてね? 大地。
-------------------------------------
大地の妻を演じつつ……ツムジ君の”妻”として彼と愛を深める日々……。
真っ白だった1日1日が……ツムジ君によって彩られていく……。
女としての真の幸せを噛みしめていた毎日……。
だけど……それは突然、何の前触れもなく終わりを告げた。
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい」
それはいつも通りの朝……。
会社へと赴く大地を見送り……友達と一緒に外へ遊びに行く葉を家事が忙しいと言う理由で両親に預けた、何の変哲もない普通の朝……。
-------------------------------------
「真理枝さん……」
家の露払いを終えると、愛しい”旦那様”が笑顔で我が家を訪ねてきた。
みぃちゃんにはツムジ君と一緒にウチでお菓子作りをするという理由でごまかした。
もう何度もこの手を使っている影響か、ツムジ君がお菓子作りにハマっていると思い込んでいるみたい……。
だから一言断るだけで簡単にツムジ君と2人っきりになれる。
親友を騙しているみたいで、ちょっと申し訳ないけど……これも2人の幸せのためだから……。
「ツムジ君……いらっしゃい。 どうぞ?」
-------------------------------------
彼を招き入れるとすぐさま風呂場で互いの身を清め……そして夫婦の寝室にて、愛と言う名の快楽を貪ぼる。
何度も体を重ねたけど……大地と違い、飽きや物足りなさを一切感じない……。
やはり男女の行為で大切なのは互いを愛することなんだと……改めて思い知った。
そしてこの日……ちょっとした嬉しい変化が訪れた。
「まっ真理枝さん……なんか白くてドロドロしたのが出てきたんだけど……なんなのこれ?」
「これって……」
ツムジ君の可愛らしいモノに刺激を与えていると……そこからわずかに白い液体が漏れ出した……。
懐かしくもツンと来る臭い……そして手に付いたこの感触……これは間違いなく……”種”だ。
「何かに病気なのかな?」
「フフフ……違うわよ。 これはね? 大人になった証なの」
「証?」
「そうよ……今日はお祝いしないとね」
嬉しい誤算だった……。
年齢的にまだないと思っていたけど……まさかツムジ君が種を吐き出せるようになるなんて……。
しかもその種を初めて浴びた女が私だなんて……この上ない高揚感が全身を包み込む。
あぁ……好きな女の子から処女をもらった男って……こんな感じなのかしらね?
初めてのキス……初めての行為……初めての種付け……。
ツムジ君の全てが私のものになった……。
正直、私の”初めて”もツムジ君に上げたくてたまらなかったけど……それらは全て大地に捧げてしまったから叶うことはない。
ホント……大地よりも先にツムジ君に出会っていれば……大地なんかと結婚していなければ……もっと幸せになれただろうに……ホント、かつての自分を殴ってやりたくなる。
だけど……悲観することはないわ。
種付けできるようになったってことは……私がツムジ君との子供を作れるってこと……。
年齢的に種の濃度は薄いかもしれないけれど……回数を増やしていけば、いずれ実現可能でしょう。
そうなったら大地とも適当にヤッて、彼の子供として育てていけば良い。
はぁぁぁ……考えれば考えるほど……幸せな未来ばかりが脳内に湧いてくる……。
※※※
「すぅー……すぅ……」
「フフ……可愛い寝顔……」
ひとしきり楽しんだ後……ツムジ君は疲れ切って眠ってしまった……。
ホント……何度見ても見飽きない寝顔だわ……。
これが私の物になったなんて……未だに信じられないわ。
そんな愛しい彼の寝顔を見ながら、心地よい疲労感に浸っていると……。
「真理枝……」
「!!!」
寝室に……出社していったはずの大地が入ってきた……。
その目はやけに冷たくも……怒りが灯っているように見える。
「だっ大地! あんたどうして……」
驚愕のあまり言葉を一瞬失ったが……すぐに我に返り、大地と言葉を交わした。
どうしてここに大地がいるのか知らないけれど……とにかくここはなんとかしてごまかさないと……。
「そっそれは……その……添い寝?」
「裸で添い寝? ふざけるな! お前がツムジ君をレイプしていたのは見てたんだぞ!」
「レイプって……失礼なこと言わないで! 私達は同意の上で……」
「つまり……ヤッたこと自体は認めるんだな?」
だけど……現実は小説やドラマとは違う……。
そう都合よく、嘘やごまかしなんてものが出てくるわけがない。
そもそもツムジ君と裸でベッドに寝ている現状で、大地を欺くことなんて……私にはできなかった。
「……そうよ」
私は”覚悟”を決め、大地に浮気を認めた。
-------------------------------------
眠っているツムジ君を寝室に残したまま……私はリビングで大地に全てを話した。
スマホで行為中の動画まで撮られていたらしいので……私には事実を話す以外の道はなかった。
「高校時代は結構イケメンだったのに……今はお腹が出たおっさんじゃん!
それに比べてツムジ君は可愛いし……肌もツヤツヤだし……初心だし……あんたとは全然違う!」
事実の告白と共に、私は今まで心の中に押し込んでいた大地に対するうっ憤も吐き出した。
どうせ何をしても大地とは離婚して慰謝料を請求されるに決まっている。
媚びを売ろうが復縁要請を偽ろうが……どうせ意味はない。
そもそも今の私はツムジ君の妻……金すら運ばなくなった大地なんて、もはや私達の人生には不要な存在だ。
「ツムジ君は6歳だ……好きという言葉の真意をまだ深く理解できていないんだ。
それくらい察しろよ」
しかもあろうことか……大地は私とツムジ君の愛にケチまでつけてきた。
男の妬みは醜いとは昔からよく聞くけど……ホント、キモ過ぎる。
その上、葉の親権も自分がもらうなんてトチ狂ったことまで言い出す始末……。
幼い子供の親権は母親に行くものなのに……大地ってここまで常識知らずだったかしら?
「お前自分が恥ずかしくないのか? 良い歳して小学生に惚れた挙句……適当な言葉を並べて手を出して……葉やツムジ君の両親……なによりツムジ君自身に申し訳ないと思わないのか?」
何が申し訳ないんだか……。
そりゃあ……ツムジ君と愛し合っていたことを黙っていたことに対しては少しばかり悪い気はしている。
だけど……純粋な愛を貫くのは簡単なことじゃない……。
時に嘘や偽りを並べて身を守ることも必要なのよ……。
常識知らずな大地には理解できないだろうけど……親だってみぃちゃんだって……私達の想いを必死に伝えたら……きっとわかってくれるはずよ。
「あのさ……さっきからずっと思ってたんだけど……お前、これが犯罪だって理解しているか?」
「犯罪? 何を訳の分からないことを言ってるの?」
この期に及んで、大地はまたも意味不明なことを口走り始めた……。
「20歳過ぎた大人が幼い子供に手を出したんだぞ? 常識的に考えて犯罪だろ!?」
何言ってんの?
馬鹿すぎる……というか、ここまでくると病気よ。
大人が子供に手を出したら犯罪?
それは男に対する罪状であって、女である私には全く関係ないこと……。
男が女の子の体に触るのは言うまでもなく犯罪だけど……女が男の子の体に触るのはただのスキンシップじゃない。
男の着替えを覗いた女を咎める人間がいる?……男の胸やお尻を触った女を罰する法律がある?
そんなのないでしょう?
男と女とでは……犯罪の基準が違うのよ。
そうでなくたって……私とツムジ君はお互いを愛し合っているのだから……何の問題ないわ。
大地に何度言っても、彼は常識を全く理解することができず……。
「本気で関係ないと言い切れるのなら……これから呼ぶ警察に判断してもらおうぜ」
ついには警察を呼ぶなんて奇行に走る始末……。
たかが浮気でどうして警察が出てくる訳?
マジで意味わかんない!!
「浮気なんてレベルの話じゃないんだよ、これは! もう俺じゃラチがあかない。 警察呼ぶから……」
「はぁ……勝手にすれば? 大地が恥をかくだけでしょうから……」
止めても聞かない大地に呆れ果てた私はもう好きにさせた。
どうせ大地が恥を掻くだけで、私にはなんの被害もないし……。
妻を寝取られたことで頭に血が上ったのね……ここまでくると哀れすぎるわ。
※※※
ところが……。
「署までご同行願います」
通報を受けて駆けつけてきた警官2人に大地が事情を説明すること1時間……。
警官達がいきなり私の周囲を取り囲んできた。
しかもあろうことか……警察に来いなんて……どういうこと!?
「はぁ!? 何言ってんの? 訳のわからないこと言わないで!!」
私は声を荒げるも……警官達は聞く耳を持ってくれず、最終的に私の腕を掴んで強引に連行された。
-------------------------------------
警察に連行された私は取調室で事情聴取を受けることになった。
「だから! 私は何も悪いことはしてないんですって!!」
「ですがあなた……未成年と性行為をなさったんですよね?
それもまだ6歳の……これはれっきとした性犯罪です」
「はぁ!?
ふざけないでよ!!
性犯罪って言うのは男に科せられるものでしょう!?
私は女なんだから関係ないわ!!」
「いいえ、そんなことはありません。
男性よりは少ないですが……女性の性犯罪者も世の中には存在しますよ?」
はぁ!?
女が性犯罪の加害者になりうるわけないでしょう!?
いつの時代も性犯罪の被害者は女なんだから!
「それに……私とツムジ君は真剣に愛し合っているんです!!」
「気持ちの問題ではないんです……」
それから何度説明しても……私の主張は通らず、事情聴取を終えた私は後日開かれる裁判まで留置所に入れられることになった。
「一体何がどうなってんの?」
わからないわからないわからない……。
私はただ浮気をしただけの女……。
その私がどうして犯罪者扱いされた上に、こんな狭い所に押し込められないといけないの?
こんなの……おかしいじゃない!!
-------------------------------------
翌朝……。
私は警官によって留置所から警察署の別室へと移動させられた。
いくつかの椅子と大きめのテーブルがあるだけの殺風景な部屋だ。
そこには私の両親がすでに居座り、部屋に入ってきた私を憐れむような目でにらんできた。
「お前は……なんてバカなことをしたんだ!」
「本当……親として恥ずかしい……」
両親に挟まれるように座った途端、2人から軽蔑を含めた罵声を浴びせられた。
初めは浮気のことを言っているんだと思っていたけど……。
「大地君と葉を裏切ったばかりか……こんな犯罪を犯すなんて……情けない!」
「はぁ? 犯罪とか何を言って……」
コンコン……。
両親に言葉を返そうとした時、タイミングよく大地が部屋に入ってきた。
「……」
大地も両親同様……私に冷たい視線を向けてくる。
なんなのその目は……。
私はあんたが通報なんてしたせいでこんな所に連れてこられたのよ?
いくら浮気されたからって……こんな仕返し、陰険すぎる!!
一言文句を言ってやろうと思ったが……。
「しばらく黙っていなさい」
母から小声でそう釘をさされてしまった。
その声はひどく怒気が含まれていて、私は本能的に口をつぐんで縮みこんだ。
※※※
それからまもなくみぃちゃんとその旦那さんも入室してきた。
彼女の顔は、今まで見たことがないくらい暗く冷たい何かが張りついていた。
「娘が……申し訳ありませんでした」
「本当になんとお詫びすれば良いか……」
みぃちゃん達が椅子に腰を下ろしてからすぐ、両親が謝罪を口にし始めた。
一体何に対する謝罪なのか意味がわからなかった……。
「ほら、真理枝! あなたもちゃんと頭を下げて謝りなさい!」
「はぁ!? なんで私が……」
しかも私にまで謝罪を強要してくるのが、本当に意味がわからなかった……。
なんで私が謝らないといけない訳?
こんな目に合わされたんだから……むしろ私に謝罪してほしいくらいよ!!
「言っておきますが……私達夫婦は示談に応じる気はありません。
私達の大切な息子の心に傷を付けた報いは……薄暗い刑務所の中で受けてください」
重苦しい空気の中……軽蔑しきった目のまま、みぃちゃんは私にそう告げてきた。
「っざけんな! なんで私が刑務所に行かないといけないのよ!!」
あまりに身勝手な言葉に、私はブチギレた。
私は何もしていないのに……ただツムジ君と愛を深めただけなのに……刑務所に行くなんておかしいでしょう?
しかも……誰1人として私に味方してくれる人はいない……。
両親も……みぃちゃんも……大地も……刑務所に行けと私に罵倒してくるだけ……。
どいつもこいつも……常識ってものがないの?
「さっきから聞いていていれば……馬鹿なことばかり言って……。
ツムジや私達をここまで傷つけておいて……謝罪の1つも口にできないの!?
あんたみたいな救いようのないショタコン馬鹿と今まで友達だったなんて、恥ずかしすぎて死にたくなるわ!」
あろうことか……みぃちゃんは私をショタコン呼ばわりして罵ってきた。
「はぁ!? 誰がショタコンよ! 自分の息子を私に取られたからって……ひがまないでくれる?」
私はショタコンなんて可愛い男の子なら誰でも発情するような変態じゃない!!
私はツムジ君一筋の純粋な女……。
それをあろうことかショタコンだなんて……みぃちゃんはずっと良い子だと思っていたけど、随分と陰険な女だったのね。
いくらツムジ君を取られたからって……ふざけすぎでしょ?
マジで幻滅した……友達として恥ずかしいわ。
「あんた……マジで終わってるわ」
その言葉を締めに、みぃちゃんは私に言葉を向けなくなった。
ツムジ君に会わせてと言っても無視……いや、それどころか存在を認識していないかのように目すら合わせようとしない。
どこまで陰険なの?
終わってるのはお前だっての!
※※※
ひとしきり謝罪会見のような話し合いを終えると、今度は大地との離婚について話し合うことになった。
離婚や慰謝料についてはぶっちゃけ、どうでも良いけれど……。
「葉の親権は俺がもらう」
「はぁ!?」
葉の親権まで奪われるのは正直予想外だった。
子供の親権は母親のものになるのが相場だ……。
それなのに、大地は親権を譲らず……私の両親も大地に加勢したせいで、私は諦めるしかなかった。
-------------------------------------
後日……私は裁判に掛けられ、不同意性交罪と言う名のレッテルを張られることになった。
証言台で何度もツムジ君との健全なお付き合いを主張しても……誰1人として耳を傾けてくれなかった。
その結果……私は7年もの間を刑務所で過ごすことになってしまった。
……なんでこうなるの?
どう考えても冤罪なのに……どうして誰も味方になってくれないの?
そもそも本来、法律や裁判というのは犯罪を犯す男から女を守るためのもののはず……。
それがどうして……女である私に罰を与える訳?
相思相愛の2人を引き離す訳?
あり得ないでしょう!?
-------------------------------------
刑務所に入ることになった私……。
大地とはもちろん離婚し、親権は彼のものになった。
ツムジ君は引っ越したらしく……どこにいるのかはわからない。
間違いなくみぃちゃん……いや、あのクソ女が私から彼を引き離そうと画策したんだ。
どこまでも救えない奴ね……。
そして私の両親は……たまに面会に来るものの、”反省しろ”と説教するだけ……。
私を気遣うそぶりすら見せようとしない……とんだ毒親よ。
-------------------------------------
「葉……」
毎日毎日つまらない作業を強制させられる中……私の唯一のストレス発散は毎月届く葉への手紙の返信を書くことくらい……。
手紙の内容は近況報告や私を恋しがる言葉がほとんど……。
何も分からず私と引き離された我が子を哀れに思い、優しい言葉と共に”事実”を打ち明けた。
大地やクソ女達が……私とツムジ君の仲に嫉妬して私達を引き離したという残酷な事実を……子供でもわかるくらい丁寧にね……。
だけど……私の言葉は葉には届いていないみたい。
葉から届く内容を読む限り……私からの返信は一切読んでいないことが伺える。
おそらく……いや間違いなく……大地の仕業だ。
子供に事実をひた隠しにしようとして……私からの手紙を破棄しているんでしょうね……。
どこまでも卑劣な男ね……。
-------------------------------------
「うぷっ!」
刑務所に入ってから2ヶ月くらい経ったある日……。
私の体が不調を訴えてきた。
ひどくダルさと吐き気……お腹の調子も悪い……。
最初はただの体調不良だと思っていたけど……そうじゃない。
この兆候には身に覚えがある……。
これは……つわり!!
「私……妊娠したの?」
検査薬を使った訳じゃないけど……この兆候は葉を身ごもった時に感じたものと全く同じだ。
しかも日に日に体調不良は悪化していき……不思議とお腹に違和感も感じる。
これはもう間違いないんじゃない?
もしも妊娠したとなったら……その父親は大地ではあり得ない。
だって大地とは葉が生まれた以降……彼には体を許していない。
そうなったらもう……可能性は1つしかない。
これは……ツムジ君の子供!!
「まさか……本当に……」
信じられなかった……。
だって……ツムジ君が種付けできるようになったのは大地にバレたあの時なんだから……。
いくら避妊しなかったとはいえ、モノの長さ的にも種の量的にも……ツムジ君の種で私が妊娠するなんて、あり得ることなの?
だけど実際……つわりが起きている訳だし……可能性があるのはツムジ君だけ……。
「やった……やったわ!!」
私は心の底から喜びを感じ……全身が震えあがった……。
当然でしょう?
愛する人との間に子供ができたんだから……。
女ならつわりが心地よく思えるくらいに嬉しくなるはず!!
きっとこれは……私とツムジ君を哀れんだ神様が授けてくれた子ね。
神様……ありがとうございます!
この子は……私達が大切に育てますね!
-------------------------------------
「私……妊娠しました」
刑務官に妊娠したことを告げると……私はすぐさま警察病院へと移送させられた。
服役中とはいえ……子供を身ごもったとなれば、放置することもできないでしょうからね……。
当然この話は警察を通してツムジ君……というか、クソ女の耳に届いた。
フフフ……一体どんな気持ちかしら?
きっと悔しくて涙を浮かべているでしょうねぇ……アハハハ! ざまぁ!!
-------------------------------------
そして……検査を終えた私に医者が告げた診断結果は……。
「あなたは妊娠していません」
「……は?」
私は耳を疑った……。
今……なんて言ったの?
「妊娠……していない?」
「はい……検査の結果ではそうなります」
「はぁ!? そんな訳ないでしょう!?
現に私……つわりが……」
「おそらく……”想像妊娠”かと……」
「そっ想像妊娠?」
なにそれ……。
想像妊娠の意味は知っている……。
じゃあ……何?
私はただの想像でつわりを起こしたって言うの?
ただの想像で妊娠したって……信じ込んでいたって言うの?
あっあり得ない!!
私はそんな痛々しい女じゃない!!
私は間違いなく妊娠している!!
「バカ言わないで!! 私は妊娠している!!
もう1度診察して!!
私のお腹には……ツムジ君の子供がいるのよぉぉぉ!!」
2度目の診察を懇願して受けさせてもらったけど……結果は同じだった。
だけど……私は信じなかった。
信じられる訳がない!!
あんなヤブ医者のいい加減な診察なんて、聞き流せばいい!!
私は妊娠している……ツムジ君の子を身ごもっている……そうでしょう!?
---------------------------
ところが……診察結果を聞いてから徐々に体調が回復していき……数ヶ月過ぎてもお腹は大きくなることもなく……つわりもいつの間にか嘘のようになくなっていた。
「嘘……こんなの……嘘よ……」
なんで……どうして……。
まさか……あのヤブ医者の言う通り……私はただの想像妊娠だったって言うの?
いやいやいやいや……ないないない……あり得ない!!
きっと流産したんだわ!!
せっかく授かった命だったのに……ちくしょう!
きっとあのクソ女が裏から手を回して……警察に私の子を流産させるように仕向けたんだわ!!
なんてことしてくれたのよ……あの悪魔!!
警察も警察よ……どうせ汚い金でも受け取ったでしょうね……。
どいつもこいつも救いようがないクズばかり……。
---------------------------
つらい……辛すぎる。
ツムジ君との子供を流産してから……私の心は再び絶望のどん底に沈んだ。
冷たくて暗い牢屋の中で……心が押しつぶされそうな思いに1人で耐え続けた。
私に唯一残った希望……ツムジ君の存在だけが……私の心を引き留めてくれている……。
今でも手に残っている温もり……肌の感触……。
脳裏に何度もよぎる彼の愛らしい笑顔……。
「寂しいよぉ……ツムジ君……会いたいよぉ……」
何度も涙で床を濡らした……。
何度も彼の名前を口にした……。
彼の全てが恋しくてしかたなかった……。
「ツムジ君……私、頑張るよ」
私は信じている……。
ツムジ君はきっと……私を待ってくれている。
あのクソ女のせいで会いに来れないのだろうけど……私達は心で繋がっている。
ここから出たら……真っ先に彼を迎えに行こう……。
そして2人で駆け落ちして、新しい人生を歩むの。
絶望の底に沈んだ私の胸に灯った小さな希望が……私の心を繋ぎ止めてくれていた。
ツムジ君への愛が……私にこの地獄を耐え抜く勇気を与えてくれたんだと、私は思う。
-------------------------------------
そして……7年の時が過ぎ、私はようやく自由の身となった。
「真理枝……」
「……」
出所した私を両親が出迎えてくれた。
だけどその顔には温もりは一切なく、哀れむような目で私を見ていた。
ムカつくけど、今の私にはほかに行く当てがない。
「大地君への慰謝料は俺達が立て替えておいた。
お前はウチで働いて、立て替えた分の慰謝料を支払うんだ……いいな?」
「……」
「もう馬鹿な真似はしないでちょうだい。
お母さん達もできることはするから……心を入れ替えて初めからやり直しなさい」
「……はい」
私は両親の言葉に静かに頷いた。
えぇ……初めからやり直すわよ、ツムジ君と一緒にね?
長くなったので区切ります。
次話も真理枝視点です。




