再構築
「再構築という意味を知ってるかね?」
課長は部下の肩に手を置き、そう訊ねた。
「いきなりですね。どうしたのですか?」
部下は問う。
「これはスケルトンが透明という意味じゃないのに、透明という意味で理解されるということに通じるものでもある気がするが――」
課長は時折ユーモラスな一面を見せる。いまがその時折なのだろうか、と部下は小首を傾げる。
「あの、できれば質問の意味を……」
「いやいや済まない。どうにも歳でね。なに、君の意見を聞きたいのだよ」
「え、えぇ……」
課長は「悪いね」と笑い、部下は苦笑する。
「では、再構築といえば、どんなイメージをするかね?」
そんな上司の問いに部下は「そうですね」と考える。
「子供の頃のブロック遊びを思い出します。崩しては、積み。崩しては、積み」
部下は笑いながら、ブロックを積むジェスチャーをする。
「なかなか面白いところに辿り着くな、君は」
「何故か、ぱっと、それが思いつきました」
「いい発想だと思うよ、私は。そういうものを大切にすれば、君は大丈夫だと思うよ」
「はぁ、大丈夫ですか……。ところで課長はどんなイメージですか?」
「そうだね。最近は歳のこともあって身体について思い浮かんだよ」
「若い身体に再構築したい、とかですか?」
部下が言うと、課長は面白そうに笑った。
「ははっ、それもいいね。だが、違う。どちらかというと健康面でのことだよ。新陳代謝さ」
「新陳代謝ですか」
「最近はよく家庭の医学とかをよく読むんだよ。でね、汗もそうだが、肌だって新陳代謝があるじゃないか。爪もそうだし――」
「垢とか。皮膚が剥けるのもそうですね」
「その通り。皮膚が新しいものになって、古いものが剥ける。なんか脱皮みたいだな」
「そうですね」
二人は苦笑する。
「そしてね皮膚が新しいもの云々で、新陳代謝は身体の再構築だと思わないかね?」
「成る程、そういうことで新陳代謝をイメージしたのですか」
「理解してもらえたかね?」
そして課長は部下の肩を叩く。
「はい」
部下は頷いた。そして課長は「では」と前置きする。
「新陳代謝は皮膚のように新しいものが生まれて古いもの。再構築にはやはり皮膚と同じく剥がれるものがあると思わないかね?」
「はい?」
部下は首を傾げる。何かとても嫌な予感がした。
「因みに再構築の英訳は、リ・ストラクションらしい」
「……はい、そうです……ね」
課長が部下の両肩に手を掛け、対峙する。
「リ・ストラクション。略すと?」
「リストラ?」
「ごめんなさい」
課長が頭を下げた。
ブラックジョーク過ぎた。
ふと講義中にネタが浮かんだので、超短編として書いてみました。
色んな意味で本当に申し訳ない。
でも載せなきゃ書いた意味がない。