つけてくる者 4
チヤ達が教会から出てきて馬車に乗り込み、教会の馬車待機所からゆっくりと出てきて、インベルト商会に続く道を歩く速度で走らせていると、暗闇の影から馬車を追いかける者達が動いて、チヤ達が乗っている馬車を後から追い始めた。
暗闇の中でぽつぽつと人の歩く明かりが見えるが、その数は多くない。
追跡者達は、暗い夜道と追いかけている馬車の音が大きいせいで、だんだんと馬車を追いかけている行動を隠すのを忘れていた。
そんな時だ。
「だ!うむっ!」
追跡者達の更に後ろから、追跡者達を見極める為に追いかけてきた者達が一斉に動く!
「たすっ!ぎゃっ!」
「むっ!」
「おいっ、どうしっ!」
馬車を追いかけていた不審者達がスイード伯爵家の騎士達に次々と捕まえられて、中にはこの事件を見極める為に呼ばれた衛兵達も加わっていた。
そして、捕縛が終わってから、各所に伝令が走り捕縛の成功と衛兵詰所への連行を伝えていった。
◇◇◇
チヤは、馬車の中でいつ襲撃が起こるかを、恐怖と共に味わっていた。
チヤは、紛う事なく一般人だ。
それこそ、スキルのおかげで貧困から抜け出せたが、前世の庶民の記憶と貧民街での貧民として生きた現実がある。
世に起こる犯罪とは無縁で生きてこれた。
まあ、前世でネット詐欺には引っかかったアホな記憶はあるが。
なので、前回は『誘拐された』事実はあるが、チヤ自身にその自覚は乏しく「なんか、テンプレが起こって、異世界あるあるに反抗していたら解決していた」というものだ。
いや、暗闇で牢からの脱出をする為に心の中の自分の恐怖とは戦ったが。
なので、今のように、じわじわと締め付けられるような、追い詰められるような独特の恐怖はまた別物だ。
チヤは無意識に助けを求めるように窓の外を見たが、暗闇が広がるばかりで何も見えなかった。
いつもはチヤの斜め前に座っている侍女のセーラだが、今はチヤにピッタリと引っ付いてくれて、手をがっしりと繋いでくれている。
そこに、チヤがすがるように体重をかけると、包み込むように母のように軽くではあるが、抱きしめてくれた。
今日は倉庫での作業だったので、セーラからは少し埃っぽい臭いがする。
1日も、もう直ぐに終わりだが、チヤ達には朝が来てくれるのかわからずにぎゅっと目を閉じた。
だが、チヤの身体は小さな少女(見た目4歳児)なので、今日の納品で倉庫を3棟、商品在庫でいっぱいにして疲れていたところに、正体のわからない者に後をつけられて、心身共にまいっていたチヤはセーラの体温に少し、いや、大分安心して、うたた寝をしていた。
◇◇◇
ーーれでは、チヤ様は私がお連れしよう」
「よろしくお願いします」
チヤの体がふわっと浮いて、なんだか大きなものに包まれた。
「む、むぅ、ん、」
「チヤ様、起きましたか?大旦那様がお待ちですよ。チヤ様?あー、寝言か……ゆっくりと休ませるかな」
チヤは一瞬意識を浮上させたが、ゆらゆらと揺れる心地よく暖かい気配に安心しきって、深い眠りに落ちた。
現実では、馬車の中で眠ってしまったチヤをセーラから託された筆頭護衛官のシャルフの大きな身体で小さなチヤを大切に抱えてソフィアの部屋に寝かしつけに行った。
◇◇◇
「さあ!個別に聞き取りだ!尾行していたのは目撃したが、目的がわからない。多分、悪い方向で尾行していたのだろうが、確信は無い。俺たちは街の治安を守るのが仕事だ!犯罪未遂者達の刑期を短くしてやろうぜ!」
平民街近くで、チヤ達の馬車を追いかけている不審者達を捕まえたので、まだ犯行を行なっていない『犯罪予備群』達の罪が有るのか?無いのか?を取り調べしていく為に「平民街まとめ役、衛兵隊長」が平の衛兵達に発破を掛けた。
犯罪者は『犯罪奴隷』に落とされて、犯罪の悪質さの大小で刑期が伸びて、数月で解放される『軽犯罪者』もいれば、一生奴隷の『凶悪犯罪者』もいるのだが、口先や態度で反省をみせなければ、即処刑の重い刑罰だ。
『犯罪者が生き残りたければ、牢番に媚びろ』とは、よく言われる『ことわざ』みたいなものだ。
重犯罪者は、反省や更生の予知を見せないと「犯罪奴隷として使えない」と処刑される。
国もボランティアで『犯罪奴隷』を販売管理してはいないので、新たな犯罪を犯そうとする者に「生きる価値無し」と判断を下す。
これは『国の治安を悪化させる原因に食わせるメシ無し』と言う明確な国の意思である。
よくある、異世界あるあるで「中世異世界の食料事情はよくない」というものがあるが、王都の貧民街で「ゴブリン肉」を常食としているように、食料事情は気候に左右されやすく、食料が出るダンジョンが近くにあればいいが、無い辺鄙な村の食料事情は悲惨だ。
その為、昔と環境が変わった地域は人の流出が止まらずに、噂を信じて新天地に行く者も少なくない。
しかし、一歩安全地帯を出れば『魔物の生息域』だ。
辺鄙な場所からのからの脱出は命懸けだ。
その為、余程の覚悟のある者か、偶然に村に来た冒険者になけなしのお金で依頼を出すも、村を出て生きていける確率は75%ほどしかないのが現状で、残りの約25%は魔物の餌になるか、野垂れ死んでいる。
国はドライなもので、各領地に運営方針を任せて、最低限決められた税率や法律を無視しない限りは事の真偽を確かめたりはしない。
王族だからと【国で1番贅沢している】かは別なのだ。
公費というものは厳密に管理されていて、国の運営費も決められて、その他細々としたものに国庫を振り分けて、残ったお金が王族のお小遣いだ。
なので、多分だが、国で1番贅沢をしているのは『侯爵階級』である。
たまに、『富豪ごっこ』をしている頭の馬鹿なやつらが湧くが、すぐに破産して爵位を取り上げられるのがオチだ。
まあ、これも、異世界あるあるで『貴族社会は厳しい』のである。
人が想像出来る社会の悪辣さをお上品にしたのが『貴族の社交』だ。
いつの世も『自分が1番でいなければならない』うつけ者は多いのである。




