つけてくる者 3
「課金させてください!」と、勢いよく言った後に、思いもよらない言葉を発した私に呆然としている神官様がはっきりと見えた。
はっ!私は、今、なんて言った?
「課金させてください」って、言って、しまった、よな?
多分、意味が、通じなかった、よね?
私は仕切り直すように、身を整えてから神官様を見て言う。
「孤児院に寄付をします。私のお小遣いだけど」
お小遣い、と言えば「なんて、いじらしい幼児だろうか!」って、ならないかなー?
神官様はお顔を戻して、ありがたく受け取ってくれた。
多分、袋の膨らみの薄さと、私(幼児)のお小遣いと言う言葉を間に受けたと思われる。
だが、実際は100万円の寄付だ。
決してお小遣いではない。
それを、一言の遠慮の言葉無く受け取って、神官服の中に流れるように仕舞い込んだ神官様。
何者だ?
いやね?神官様だって、わかってるんだけど、こう、幼児からお金を貰ったらね?少しは遠慮するとかさぁ?
「あなたのお金です。大事に使いなさい」とか、言うとかさぁ?あるでしょ?『お約束』ってやつが。
でもね、神官様はね「寄付」って言った途端に流れるように懐にお金を仕舞い込んだのよ?
神官様って「貰ったお金は断らない」って決まりでもあるのかと思うほどの手捌きでしたよ。
ふむ……。
私は素早くアイテムボックスから小さな袋に入った1万ルビを10枚取り出した!
「寄付です!」
キンッ、と、音がして机の上に置いてみた。
「ありがとうございます」
神官様は、素早く、流れる水が如く、手に取り、懐に仕舞った。
とても、良い、笑顔です。
結論→神官様は寄付を断らない。
だあよねー!!
神官様って言えば、坊主だよ!
昔から決まってるんだ!坊主は儲かるって!
ちょっと、神官様が、漫画の推しに、似てたから、課金を、いえいえ、寄付をして、しまいました。
とりあえず、聖水を飲みましょう。
乱れた気持ちを落ち着けるのです。
ふーっ。
まったり。
鎮静効果、ありますねー。
そして、落ち着いて考えてみて、ちょっと納得することがありました。
孤児院学校に絶対にいる受付のおっちゃん神官様。
一度も試食を断らないんだよねー。
やっぱり、神官様共通で「貰えるものは貰っとけ」精神が有ると思います。
お母さんが私が初めて孤児院学校に行く時のお布施を「奮発してゴブリン肉よ」と、言っていましたが、これの意味するところは「神官様はゴブリン肉も受け取る」事実が浮上します。
その、精神には感服します。
私は、私は、ゴブリン肉は、さすがに、お断りします。
しかし!神官様はゴブリン肉を受け取るのです!
はあ、はあ、少し、新事実に、驚いてしまいました。
教会の懐は『大きい』というのは理解しました。
神を信仰するって、凄いですね。
ちびり、ちびり、と、聖水を飲んでいると、扉をノックされて、神官様が扉を開けました。
開いた扉を見ると、シャルフが入ってきて、素早く私の身なりを確認すると、扉の横に立ちました。
「シャルフ、お疲れ様です。聖水でも飲みますか?」
そうなんです。
聖水には『おかわり』がありました。
教会は太っ腹です。
「いえ、私はお腹がいっぱいですので」
「そう、ですか?」
思い出せば、昼食を食べていません!
お腹がいっぱいのハズは無いです!
この時の私は「何か事情があるのだろう」と、無理矢理自分を納得させましたが、緊急時は信用できるもの以外の食べ物は受け取らないそうです。
緊急時、焦っている時ほど、敵対者には好機です。
『毒を盛る』ことを、警戒しているのだと知るのは安全になってからでした。
私は、わかっていたつもりで、この世界をまだまだ舐めてかかっていたようです。
◇◇◇
手紙を託された聖騎士が普通に教会から出掛けると、何の警戒も無く馬に乗り、スイード伯爵家を目指しました。
追跡者は、さすがに聖騎士はノーマークだったようです。
そして、スイード伯爵家の門番に手紙を託すと、素早くお駄賃、いえ、お布施を受け取ってから、馬に乗って教会へ帰りました。
神官様の心得は聖騎士にも教育されているようです。
一方で、シャルフ直筆の緊急の手紙を受け取ったスイード伯爵はーー騎士達に平民の服を着せていました。
腰には立派な剣を吊るして……。
「衛兵に協力してもらい、現場を押さえろ。怪しい奴を見つけたら捕らえて衛兵に渡せ。さすがに王都では密かに捕まえて尋問は出来ん」
と、ちょっと残念そうに指示を出している伯爵がいましたとさ。
◇◇◇
そして、暗くなり、人々が家に帰っても……帰らない者達がいた。
明らかに、怪しい。
平民服を着た伯爵家の騎士達は静かに、伯爵の孫娘を尾行した者達を見つけていき、行動を起こすまで監視した。
そして、平民服を着て教会に堂々と入って来た騎士がシャルフと今後の行動を確かめると、平民服を着た騎士はチヤ一行を見送った後に「お世話になりました」と神官様にスイード伯爵からの『お布施』をたんまりと渡して、笑顔の神官様に見送られて教会を出て行った。
さてさて、チヤ達一行は教会を出た後に、真っ暗な中で火魔法が使えるエルシーナが火の玉を浮かべて明かりを取り、足元に気をつけて馬車の止まっているところまで行きチヤとセーラが馬車に乗り込んだ後に、御者の待機所にエルシーナが御者を迎えに来て、馬をセットして馬車に付いている魔道具の明かりを頼りに、ゆっくりと馬車を動かして貴族街へと向かった。
その裏で捕物が始まっていると知らずに。




