つけてくる者 1
2棟目の倉庫もいっぱいにしたあとに、3棟目の倉庫の中で休憩して、1度目の休憩ほど疲れは取れなかったけど、どうにか頑張ってたら「チヤ様は凄いですね」とケインさんにアイテムボックスの容量を羨ましがられて、夕方には終わり、報酬は後日インベルト商会を訪れて貰うことになった。
そして、帰りの馬車には私とセーラが乗り、護衛2人は馬に乗って、御者さんに合図をして動き出した。
倉庫街は壁寄りにあるけれど、商品を運ぶ関係上、お店と外門に近い場所にある。
ちなみに職人街にも近い。
貧民街からは職人街の反対側が倉庫街だ。
当然だが、日が暮れる前に倉庫街には各店の見張りや衛兵の見回りなどしか人気は無い。
私の座っている馬車のスライム窓の外にシャルフが来て、前を向いたまま口を開いた。
大きくない声だったが、はっきりと聞こえた。
「知らない者達に後をつけられています。一度、教会の待機所に馬車を入れます」
そうして、私達が理解したのを目線だけで確認すると、御者に行き先の変更を伝えていた。
私はセーラと真剣な目でお互いに視線を合わせる。
まだ、誘拐事件の記憶は新しい。
教会に行くのは正直不安で、すぐに屋敷に帰りたいが、私達の後をつけている者達の正体がわからなければ、危険なのに変わりはない。
襲撃はあるのか?
それとも他の目的があるのか?
ひとまずは安全で人通りの多い教会に行くシャルフの判断は正しいだろう。
(ケインさんは大丈夫だろうか?)
私達を見送ってくれた、倉庫前に残っていたインベルト商会員達の顔が浮かぶ。
襲撃をされたら、どう動くべきか?
教会内に避難してから助けを求めるのか?
わからないことだらけだが、とりあえずは生き残るのが先決だ。
教会は治癒師としての側面も持ち『聖騎士』という独自の武力も持っている。
屋敷以外に、つけて来ている相手に悟らせずに、安全に避難できる公共の場は『教会』だ。
衛兵達の待機所に行くのは「貴方達がつけて来ているのをわかっているよ」と公言するようなものなので、緊急時以外は助けを求めてはいけない。
もし、私1人しかいない時には有効な手段だが。
「つけている者達の目的を探る」ことが、家族を危険に晒さない今の最善の判断だ。
そう遠くなかった教会の馬車止めに着いて、馬車待機所の案内者に馬車を止める場所を聞いてから馬車が動き出す。
心臓が早鐘を打っている。
私は緊張しているのか?
それともーー
これは、恐怖?
「大丈夫です、チヤ様。シャルフの判断は正しいです。着いたらすぐに教会内に入り、教会に密かに助けを求めます。もしもの際は、私が盾になりお守りします」
セーラが真剣な顔で声をかけてくれた。
教会の馬車待機所は、私の誘拐事件の時に今の御者とセーラがお腹を刺された場所だ。
忌まわしい場所なのに、私の為に再度来てくれた。
私のする事は、怪しまれないように教会内に入り、護衛のみんなに従う事だ。
馬車が静かに止まってから、馬車内に外から声がかけられた。
「チヤ様、シャルフです。教会に着きましたよ」
シャルフも平静を装っていると分かり、違和感なく先にセーラが馬車から降りて、私の為に台を置いてくれたので、足をかけて馬車を降りた。
(周りを見回してはダメだ。教会を見よう)
私とセーラを真ん中にして、シャルフとエルシーナに前後を挟まれて、なんとか教会内に入れた。
私は「ふぅーっ」と、長い息を吐いてしまった。
シャルフが目立たないように神官様に話しかけた後、その神官様が別の神官様に話しかけてから、私達の元へ来た。
「ようこそ、いらっしゃいました。私は王都教会でお布施の受付をしております。
今日は当教会が運営する孤児院へのご寄付との事で、只今、個室をご用意しております。
詳しい話は個室に落ち着いてからになりますので、少しお待ちください。
その間に、私達を見守ってくださる天上の神々に祈られるとよいでしょう」
かなり、にこやかに個室の用意と教会内に自然といられる指示をいただいた。
教会は助けを求める人に慣れているのだろうか?
神官様に先導されて、他の人達が祈りを捧げている場所に来て、セーラが膝をついたので、私も初めての教会でのお祈りだがマネをしてから祈りを捧げた。
結構いろいろな体勢で祈っている人達がいたので、私達は目立たないだろう。
(神様、この状況を打破する道にお導きください)
すると、目を閉じていたからなのか、平衡感覚が無くなり、小さな声が聞こえた気がした。
【流れに身を任せなさい】
◇◇◇
「チヤ様、個室の用意が出来たとの事です」
はっ!と、目を開けると、少しの間、意識が飛んでいたようだ。
私の顔をセーラが覗き込んでいる。
「そうですか。行きましょう」
私が立ちあがるのに、皆揃って従い、こちらを見て待ってくれている神官様について行った。
歩いていると、内装が少し豪華になり、扉が廊下の左右に何個もあったので部屋数が多いのだろう。
それから、神官様が入った部屋の中には初めて見る聖騎士らしき人が立っていた。
静かに個室の扉が閉められた。
「この部屋は防音室です。皆さんお気を楽にしてくださいね」
神官様が振り返って、心配そうに見つめてくる。
そっと、椅子に座るように促されて、腰掛けると途端に安堵の気が場に満ちたように感じたが、護衛と聖騎士だけは気を張り詰めた顔をしていた。




