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ステラおばさんにお願いごと

 ステラおばさんが、うっとりとクロワッサンの余韻に浸っていた時に声をかける。


「ステラおばさん、お願いがあります」


「んー?なんだい?」


 ステラおばさんは少し、クロワッサン酔いをしているようです。


「私とお母さんは、お母さんの実家に保護されて、なかなか貧民街の家に顔を出すことが出来ません。ですが、お母さんは貧民街の家を手離す選択をしませんでした。「自分のお城」と言って、今の家を大事にしています。

 ステラおばさんには、貧民街の我が家のスライムが死なないように管理をお願いしたいです。

 1月(ひとつき)いくらになりますか?」


 現実的な話に、ぽやっとしていたステラおばさんが戻ってきてくれました。


 そして、ステラおばさんが悩みます。


「そうさね……100ルビってところかい」


 100ルビとは千円です。

 安すぎですよ。ステラおばさん。


「もう一つ、仕事を頼みたいのですが、いいですか?」


「聞いてみないと、わからないねぇ」


 ステラおばさんは、すぐに否定はしませんでした。

 それで十分です。


「ステラおばさんには貧民街市場第3地区で、『貧民街服屋』の服の予約を受けてもらいたいのです。

 私かお母さんが家に今までのように常駐出来たらよかったのですが、貧民街に来る頻度は下がってしまい、服を売ることが出来なくなります。

 その代わりに、ここで服の予約だけを紙に書いてほしいのです。

 貧民街の人達が安く新品の服を買えるように」


 ステラおばさんの反応を伺います。

 悩んでいるようですが、悪い反応ではありません。

 どうでしょうか?


 ダンが話しが退屈なのか、クロワッサンを食べて空腹が満たされたからか、地面にゴロンと横になります。


「いいよ。受けても。ここに半日いたって儲けは変わらないし、暇だし、服の予約を受けるよ」


 ステラおばさんはやっぱり優しいです。


「それでは、服が売れたら、ステラおばさんの取り分は、純利益の5割でどうですか?」


 ステラおばさんの頭で取り分のお金の計算ができたのでしょう。

 大きく目を開きました。

 そして、私を凝視します。


「……本気かい?」


「マジもマジも本気です」


「まじも?」


「マジもは無視してください」


 たまに若者言葉が通じません。

 ジェネレーションギャップ、と言うやつでしょうか?

 いえ、私も古い人間ですから、古語ですね。

 時代遅れと言うヤツです。


「純利益の5割は貰いすぎだよ。純利益の2割が妥当さね」


 なんだか控えめな事をステラおばさんが提案します。

 私は本音で話すことにしました。


「実はですね、計算が面倒くさいので、5割で決まりです」


 言い切ってやりました!清々しい気持ちですね。

 貧民街服屋は、今は私の中で慈善事業になっています。

 貧民街に生かしてもらったので、ちょっとした恩返しです。


 ステラおばさんが笑いました。


「はははっ、ゴブリン肉なんて売ってらんないねぇ」


「いえいえ、服は買ったら破れるまで何年も着れますから、継続的な儲けは少ないと思います。

 なので、ステラおばさんは、今までどおりに商売をして、小遣い稼ぎに服の予約を取ってください」


 ステラおばさんは、またしてもおかしかったようで、笑いが止まりません。


「ははっ!子供に言われちまったよ。チヤちゃんは真面目だねぇ。じゃあ、遠慮なく貰うよ」


「はい、よろしくお願いします」


 貧民街では魔法紙の契約なんてしません。

 大体が口約束です。


 私は紙と下敷きと鉛筆をアイテムボックスから取り出して、今販売している服の種類と値段を書いていき、真っ白な紙を何枚もアイテムボックスから取り出して、ステラおばさんに渡します。


「服の種類と値段は書いてあるとおりです。服を買いたい人に服を試着してもらって、名前と住んでいる場所と買いたい服の種類と大きさと個数を書いてください。

 あとは、転売防止に1人服を2つまでです。夏に2着、冬に2着です。

 あっ、忘れてました。

 試着の服を渡しますね」


 私はアイテムボックスから、今までの購入者が着用した汚い服をアイテムボックスから取り出して、綺麗に畳んでステラおばさんに渡します。


 ステラおばさんは少し呆れたように服を受け取ってくれて、大事そうに持っているカバンに入れます。

 カバン、と言うか、袋の中が服でぱんぱんです。

 少しはみ出していますが、試着の服は汚れても良いのです。


「ステラおばさん、注文書が無くなったら言ってくださいね。新しい物を渡しますから。それと、注文書の受け取りと服の配達は時間がかかりますとお客さんに伝えてください」


 いつのまにか、ステラおばさんと私の間にいたダンが寝息を立てています。

 うるさいのによく眠れますね。


「いたれりつくせりだね。明日から服の注文を取るよ。私は大体ここにいるからね。注文書?を取りにきとくれよ」


 ステラおばさんと契約完了です。


 憂いが1つ消えました。


 『貧民街服屋』と、名前をつけてもいないのに、いつのまにか店名になっていましたからね。

 地域密着型の愛称の有る店です。


 それでは、もうそろそろ帰りましょうか。


「ステラおばさん、帰るから、またね」


「ああ、何もなくても、遊びにおいでよ」


 ふふっ、と笑って、場違いなお付きの3人に合流しました。

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