おばあちゃんがハブられる!?
そんなこんなで、屋敷内に家族みんなで閉じこもり1月が過ぎて、春の社交ももう少しで終わりな頃に、おばあちゃんが困ったように私に相談してきた。
おじいちゃんとおばあちゃんと伯父さんは、断れない社交にだけ出席している状態だ。
「おばあちゃんね、口を滑らせてしまったのよ。ワザとでは無いわよ?チヤちゃんの秘密は守ると家族で硬く誓いましたからね。
でもね、実はおばあちゃん王妃様のご学友ってやつでね?王妃様になる前からのお付き合いなの。
それでね、王妃様主催の「秘密のお茶会」があってね?そこで、最近話題になっている『スイード伯爵家の若返り』の話になってしまって、おばあちゃんとても怖かったの」
そこまで話してから、「怖い!」って顔をしたおばあちゃんは、最近お気に入りのハーブティーを飲み、少し落ち着いたようだった。
そして、憂鬱な話しをするように口を開いた。
「王妃様が、とても興奮なさってね?「金で買えるなら買うわ!」と、言われて、他のお友達のご婦人方も賛同されて、おばあちゃん、その場から逃げちゃったの。
でも、追い詰められてね?「私とあなたの仲でしょう?」と、王妃様に凄い怖い声で言われて……。あら、やだ、思い出して、震えがきちゃったわ」
お茶会を逃げ出すって、貴族的にどうなんだろうか?
貴族のご婦人の集まりって、怖いのだろうか?
いや、怖いんだろうな。
甥っ子と姪っ子のママさん繋がりって、陰湿なイジメがあるんだよ。
子供達の横の繋がりもバカにできないし、何よりも狭い世界での付き合い方がある。
上手く世渡りしないといけないのだ。
前世では、ただでさえ、妹が言語障害で下に見られる位置にいるのに、私がしっかりしないと!って、頑張った記憶があるよ。
私は頭だけは良かったのだ。
私をハブろうと計画したママさんを察知して、逆にハブらせた経験を持つくらいだ。
とにかく、女の集団は味方につけるに限る。
とまあ、話が変わってしまったけれど、おばあちゃんの交友関係にヒビが入りそうな事態な訳だ。
私は決めた。
「おばあちゃん。私、最高級シャンプーを売りに出すよ。でも、ちょっとだけ待ってね?インベルト商会の商会長と売値を決めるから、外出許可は貰えるよね?」
おばあちゃんが泣きそうに震える声で言った。
「いいの?私は、私は、オババ様との約束を破って、あなたを、利用、しようと……!」
私は今にも涙をこぼしそうなおばあちゃんに抱きつく。
「おばあちゃん、大好きだよ。家族は助け合うんだよね?私、おばあちゃんが困ってるなら助けたい!でもね、多分だけど、上級貴族しか買えない値段になるから、お友達にお手紙を書いた方がいいかもしれない」
「そう……ありがとうね、チヤちゃん。次はチヤちゃんが困ったら、私がチヤちゃんを助けるからね?」
ガシッと抱き合う私とおばあちゃん。
流れをジッと見ていた他の家族は、「はぁ」とため息を吐いた。
おじいちゃんが危険性を口にする。
「最近の王族は教育がなっておらん!木族様達を自分達の便利な道具と勘違いしているに違いない!これは、報復を考えなければーー」
実は、おじいちゃんは怒っていたようだ。
私はおじいちゃんに、いたずらっ子の顔をして話す。
「おじいちゃん!大丈夫だよ!インベルト商会長は信じていいから、シャンプーの値段を思いっきりふっかけてくれるよ!報復はお金を搾り取ってやるって事で」
私は無邪気を装って、怖い話しをする。
おばあちゃんに怖い思いをさせた報いは、己の懐から出しなさい!
◇◇◇
クルガー商会長が、深いため息をついた。
「それで、今日、約束をしていないのに、商談を……はぁ、王族への献上はインベルト商会が、したかったなぁ……」
かなりへこんだ様子のクルガー商会長。
新商品『シャンプー』の売り込みはインベルト商会がしたかったらしい。
私は申し訳なかったので、少し下手にでる。
「最高級シャンプーの原価割りは勘弁だけど、卸値を勉強させてもらいます。
少しでもお詫びが出来たら……」
「そうです!お嬢様が譲歩しているのに、何をぐだぐだと!早く決めておしまい!」
「どうどう、エルシーナ、抑えて、抑えて。無理を言っているのは私だから」
新護衛官の女性騎士のエルシーナは、少し直情型のようだ。
それに比べて、新筆頭護衛官のシャルフ(男)は冷静なようだ。
「エルシーナ、越権行為だぞ。チヤ様にお任せするんだ。クルガー商会長に謝りなさい」
エルシーナは拗ねたように言った。
「……申し訳、ございません」
「謝罪を受け入れた。
それで、チヤ君。一刻も早く最高級シャンプーの値段を決めたいのだったな。
しかし、この商会には湯浴み場は、残念ながら無いのだ。5日間は時間が欲しい」
チヤは考える。
5日なら、早くね?と。
「十分です。試供品を置いていきますね。ちなみに原価は1万1000ルビですから」
「あーっ、他にもシャンプーの種類はあったはずだな?これは高額商品になるぞ」
「他のシャンプーは、全てこのシャンプーの劣化品だからいいんです。いやらしいお値段を期待していますよ」
思わずクルガー商会長は突っ込んでしまった。
「いやらしいのはお前の頭だ!」
「まっ!チヤ様に何て事を!」
キャラ変したのか?と言いたくなる言葉を発したのは、侍女・セーラだった。
なぜか、私への気持ちがググッと上がっている気がする。
過保護か!
と、言うわけで『超!最高級シャンプー』のお値段は5日後に決まることとなった。




